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栃木はどれだけ丸いのか 47都道府県丸さランキング

日本地図を見ていてふと「栃木県って丸いな〜。こんな丸い県ほかにないんじゃないか?」と思い、国土交通省が公開している国土数値情報・行政区域データを用いて47都道府県の丸さを比較してみることにした。年末年始というのはこういう検証のために存在する。

シルエットクイズでも難問として知られる栃木県

比較方法

ひとくちに「丸さ」と言ってもいくつかの測定基準があるが、今回は「その県と同じ面積の円に、県の何%を収めることができるか」で測る。この条件であれば小笠原諸島のように極端に離れた離島があっても、大きな不利にならない。詳細は以下のとおり。

  • 円の中心は%が最大になるよう調整する。

  • 地図はメルカトル図法を用いる。

  • 湖や河川などの水系は、土地と同様に扱う。

  • 元データは国土数値情報・行政区域データを用いる。下記サイトから誰でもダウンロードできる。

技術的な詳細はどこか別の機会にまとめるとして、さっそく「都道府県丸さランキング」を5位から発表していこう。

丸い都道府県 第5位

岩手県 84.2%

県の面積トップで知られる岩手県が、丸さにおいても5位にランクイン。打製石器のような機能美を思わせる概形に、リアス式海岸のノコギリ性能もあいまって、「無人島に持っていきたい県」としても上位だ。

丸い都道府県 第4位

滋賀県 84.8%

あなたは琵琶湖を描かない滋賀県のシルエットを見たことがあるだろうか? 今回のルールでは水系も陸地と同様に扱うため、滋賀県の思いがけなく整ったフォルムをはじめて目の当たりにした人も多いだろう。

丸い都道府県 第3位

山梨県 86.1%

円錐形の富士山を世界に誇る山梨県が、土地の丸さにおいては国内3位。個人的にこの形を「オカリナ型」と呼んでいるのだが他に言っている人を見たことがない。ちなみに富士山頂は静岡と帰属権を争っているため県境が未確定である。今回は直線で区切って計算した。

丸い都道府県 第2位

栃木県 89.3%

記事の発端となった栃木県、あらためて見ると境界線もシンプル。あまりに丸いせいで図作成時に xy 軸が逆になっているのを見逃しそうになった。西側のちょっとした切れ込み(群馬県みどり市)が方向判定のカギである。しかし筆者の予想に反して「日本一丸い県」の座は他者に譲ることに。

丸い都道府県 第1位

岡山県 92.3%

優勝、岡山県。日本一の桃太郎。「晴れの国おかやま」の名に相応しい、太陽と紅炎を図案化したかのような円形。海側がもっと散らかった印象だったが、離島がほぼ香川県なので岡山県だけ抽出するとこんなにも円なのだ。哲学者プラトンに好きな都道府県を聞いたら岡山と答えるに違いない。


はからずも最近よく見るだるい記事タイトル「2位の◯◯を抑えて1位となったのは……?」形式になってしまったが岡山が優勝。なお筆者の勧める岡山観光スポットは吉備造山きびつくりやま古墳である。規模としては日本4位の古墳だが、1〜3位は宮内庁の息がかかって勝手に立ち入りできないので、「でかい古墳に登りたいぜ〜」という気分になったら岡山に行くと良い。

いざ並べてみると、ベスト5のうち3県が内陸県である。やはり内陸で行政区域を作るなら自ずと丸くなるのだろう。なお内陸県で一番丸くないのは長野県(22位)。南北に長い県だが、これは日本アルプスで東西の交通が妨げらるためであり、実効的には円形に近いといえる。

続いてワースト5位、というと語弊があるので、丸くない都道府県すなわちとがった都道府県」ベスト5をお送りしよう。字面が似ているが「劣った」ではないのでどうか気をつけてほしい。


尖った都道府県 第5位

島根県 54.7%

位置・漢字・形状など「鳥取と間違える」で知られる島根県が5位につけた。なお鳥取は1%差で6位である。左上のぽつんとした点は領土問題で知られる竹島。国土交通省のデータを用いたため県の土地は日本政府の見解に準拠する。

尖った都道府県 第4位

石川県 49.5%

おそらく「尖った県」と言われて真っ先にイメージされる石川県。この武器としか思えない細長いキレのあるフォルム。県面積を広くカバーするために描かれた円も「ここを握って殴れ」と言われているようにしか見えない。

尖った都道府県 第3位

東京都 48.0%

都知事が「多摩格差ゼロへ」を唱えて数年が過ぎ、相変わらず東京都の経済は23区側に偏っているが、その点は本ランキングとは特に関係がない。本土だけで計算しても59%とかなり尖っているが、「東京都」の約2割は伊豆大島などの島嶼部が占めるためこの数字に。ちゃっかり町田が円内に入っている。

尖った都道府県 第2位

長崎県 45.7%

壱岐いき対馬つしま、五島列島といった数多の島々を抱えた長崎県が納得の尖り具合。ただ海岸線が複雑すぎて計算にかなりの誤差が予想されるのでこの順位を鵜呑みにしないでほしい。と思ったけど「尖った県ランキング」を鵜呑みにして困るシーンが人生にあるのかな。

尖った都道府県 第1位

沖縄県 23.5%

2位にダブルスコア(ハーフスコアか)をつけて、圧倒的1位は沖縄県。まず沖縄本島がとんでもなく尖っている。どこをとってもマルの描きようがない細長いシルエット。だがその本島は面積でいうと半分でしかなく、西表島・石垣島・宮古島といった豊かな島々がはるか西方に控えているのだ。


当たり前の話ではあるが、丸さランキングがどれも似た形に収束していくのに対し、尖りランキングは各県実に多彩な尖り方を見せてくれた。「尖る」ということが何なのかを思い出させてくれる形状群だ。


47都道府県ランキング

順位	都道府県	丸さ(%)
1	岡山	92.3
2	栃木	89.3
3	山梨	86.1
4	滋賀	84.8
5	岩手	84.2
6	群馬	83.1
7	広島	82.7
8	福島	82.3
9	愛知	82.3
10	徳島	82.2
11	佐賀	80.8
12	大分	79.1
13	福岡	78.1
14	山形	78.0
15	兵庫	77.9
16	埼玉	77.3
17	岐阜	76.2
18	茨城	73.5
19	和歌山	73.4
20	富山	73.2
21	奈良	73.1
22	長野	72.9
23	宮城	72.9
24	神奈川	72.3
25	熊本	72.1
26	青森	71.4
27	福井	71.3
28	秋田	71.1
29	千葉	69.9
30	山口	69.3
31	北海道	68.7
32	三重	68.3
33	宮崎	67.4
34	香川	66.5
35	京都	65.0
36	静岡	64.1
37	大阪	62.3
38	愛媛	61.5
39	鹿児島	61.0
40	新潟	58.8
41	高知	56.0
42	鳥取	55.8
43	島根	54.8
44	石川	49.5
45	東京	48.0
46	長崎	45.7
47	沖縄	23.5


7〜10位の広島・福島・愛知・徳島はほとんど誤差なので、計算の解像度しだいで覆りうる。細長県のイメージが強い新潟・高知は僅差だが、佐渡島の分だけ新潟が上回った。

佐渡島が勝負を分けた


離島までの距離はスコアに関係しないため、鹿児島は奄美大島などのを抱えながら本土部分がわりと丸く、離島持ちの中では高い数字になった。あとプログラム的な話だが、桜島の北側を海扱いさせるのに苦労した。

実は南に広い鹿児島


岐阜、富山のように内側におおきく凹んだ県は一見不利だが、概形が円に近いせいで高スコアが出たようだ。凹みが大きく効いたのは静岡である。

凹シリーズ


福井は丸のつく位置に「そりゃそうだな」感があってよかった。

納得のポジション


ここで取り上げなかった県もさまざまな丸さ・丸くなさを発揮し、計算の自動化がうまくいかず単純作業が大量発生した筆者を楽しませていただいたことに感謝を申し上げる。以上をもって第1回都道府県丸さランキングを終了とする。次回も各都道府県の活躍に期待したい。


技術的余談:メルカトル図法について

国土交通省の元データは東経・北緯だったのだが、これをそのまま xy 平面にプロットすると、本来やや縦長であるはずの栃木県が、見てわかる程度に横長になってしまう。

栃木県サイトの地図と、東経北緯を直接プロットした図

緯度の1度は地球上どこでもほぼ一定の 111km だが、経度の1度は赤道から遠ざかるほど短くなり、栃木県の緯度(37度)では 90km ほどになる。このため東経・北緯をそのまま xy 平面にプロットすると、実際に比べて2割ほど横長になるのである。実用上はほとんど問題ないが、「県の丸さを検証する」というテーマでは看過できない歪みだ。

筆者は作業中にこれに気づいて、プログラムを修正してメルカトル図法にしたが、これは栃木が真円に近いから気づいたといえるだろう。北海道のような高緯度地域ではこの歪みは大きくなるが、あちらは形の特徴に気を取られて、アスペクト比の変化まで頭が回らなかったに違いない。

何事も実際に手を動かしてはじめて気づくことがある、という学びを得て2022年も頑張っていこうと思う。では皆様、よいお年を。


2022/01/09追記:製作ノート

製作過程記事を別途作成しました。


文章で生計を立てる身ですのでサポートをいただけるとたいへん嬉しいです。メッセージが思いつかない方は好きな食べ物を書いてください。