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円周率を紙とペンで計算する

円周率 π = 3.14159265… というのは本やネットに載ってるものであって「計算する」という発想はあまりない。しかし本に載ってるということは誰かが計算したからである。

紀元前2000年頃のバビロニアでは 22/7 = 3.1428… が円周率として使われていらしい。製鉄すらない時代に驚きの精度だが、建築業などで実際的な必要性があったのだろう。

古代の数学者は、下図のような方法で円周率を計算していた。直線は曲線より短いので、内接する正多角形の周長を求めれば、そこから円周率の近似値を求めることができる。

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なるほど正多角形は角を増やしていけば円に近づくので、理論上はいくらでも高精度な円周率を求めることができる。しかしあまりにも地道だ。古代人はよほど根気があったのだろう。現代人だったら途中で飽きて YouTube で外国人がライフルで iPhone を破壊する動画を見ているはずだ。

というわけで先人に敬意を表して、電卓を使わずに紙とペンで円周率を求めてみることにした。まずは一般の正n角形について、π の近似値を求める式を算出する。

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うむ。あとは n を大きくすればいくらでも正確な円周率が求まる。ただ cos の計算に電卓を使えないので、とりあえず三角関数の値がわかる最大例ということで、正12角形を計算してみる。

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できた。3.10584 という値が出た。二重根号が出てきて焦ったけど、外せるタイプなので問題なかった。√2 と √6 の値は、まあ、語呂合わせで覚えてたので使っていいことにする。円周率と違って2乗すれば正しさが証明できるし。

そういや昔の東大入試で「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」というのが出たが、このくらいなら高校生が試験時間中にやれる範囲、ということだろう。私は時間を持て余した大人なので、もっと先までやってみよう。正24角形にする。cos π/12 の値を知らないので、2倍角公式で計算する。

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まずいぞ。こんな二重根号の外し方は聞いたことがない。そういえば世の中には平方根を求める筆算というのがあったはずだ。電卓は禁止だが Google は使っていいことにする。古代人でもアレクサンドリア図書館あたりに行けば見つかるだろう。

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できた。3.132 である。かなりいい値なのでテンション上がってきたぞ。さらに2倍にして正48角形にしてみよう。

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今度は cos θ の時点ではやくも平方根筆算を使う羽目になった。ここから周長を求めるので、もう1回平方根をとる。

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あれ? 正24角形のときは 3.13 だったのに、正48角形にすると 3.12 となり、本来の値から遠ざかってしまった。円に近づくはずなのに。

勘のいい読者はお気づきだと思うが、平方根は計算するたびに有効桁数が半分になるのだ。私が暗記している √6 = 2.44949 の値が6桁しかないので、平方根筆算を2回やった時点で小数点第2位が信用できなくなるのは自明である。

これ以上精度のいい数字がほしいと思ったら √6 をもっと下のほうの桁数まで計算するしかないが、この筆算は桁数が増えるごとにどんどん面倒になっていくし、せっかく増やした精度が平方根をとるたびに半分にされてしまうと考えると心が折れるので、今回はここで終了とする。3.14 くらいまでは出したかったのだが残念。

6世紀インドのアーリヤバタという天文学者は正384角形の値をもとに円周率を5桁まで正確に求めたらしい。おそるべき知力と根性である。コンピュータとインターネットが享受できる現代に感謝しながらこの文を終える。

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