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Dark♧dream(ダーク♧ドリーム)というバンドをやっていたエリートサラリーマン《闇夢(あんむ)》さん54歳の夢は本当は違う世界だった。そして今--- 【前編】〈カフェ26闇夢1前〉

カランカラーン。

最近は、新規のお客さんも更に増えパラパラ来てくれる。だけどやはり混むイメージの店ではない。ゆったりそれぞれのお客さんがくつろいで癒されて貰えたら嬉しいから。そして、私も一緒に語れたら嬉しい。

春の風に誘われてカフェに入る、なーんていう人もいるのかなぁなんて、パソコンを開いて仕事をしているお客さんも居るし一人静かにコーヒーを飲むお客さんも居る。

そんな姿をカウンターから見る光景も何か癒やされる。

今日もいつの間にか夕方になっていた。

店のドアが開いた。

入って来たお客さんを見て私はニコッと笑った。

「いらっしゃいませ」

そうだ、冬矢君と鉢合わせになった時のお客さんだ。あの時は、私も一瞬、真面目そうでちょっと気難しいかな何て思ったけど違って、あのホストの冬矢君を褒めていたっけ。始めはお互いちょっと偏見の目で見ていたみたいだけどね。

私はあの時も40代後半の真面目なエリートサラリーマンに見えた。あの時は黒のジャンパーだったけど、今日は更に真面目そうな細かい縦のストライプのダークグレーのスーツをお洒落に着こなしている。ネクタイはこれまた渋いダークグリーン。

--- なかなかお洒落で似合う。

思わず顔を見てしまった。

「あの、また来てしまいました」

そう言って男性は優しく微笑んだ。

「嬉しいですよ。さぁどうぞどうぞ」

私はあの時と同じようにとカウンターに招いた。

男性はゆっくり、やはりカウンターの左の椅子に座った。私はとりあえず水の入ったグラスとおしぼりをカウンターに置いた。

「いらっしゃいませ」

私は改めて言った。すると男性がお水を一口飲んで話し始めた。

「実はあれからいろいろ考えさせられたんですよ」

「えっ」

私がキョトンとしていると

「あ、ママさん、コーヒー今日もあの緑色のカップに入れて貰えますか?」

そう言って、また話し始めた。

「はい。緑色好きなんですか?。そのネクタイも素敵ですよね」

コーヒーの準備をしながら私はそう言った。

「そうですか。ありがとうございます。私も気に入ってるんですよ。それに緑色は好きなんですよ。あの時も緑色のカップに入れてくれたママさんにちょっと驚きましたけどね。見抜かれているみたいで」

「あら。そうだったんですか。あの時、冬矢君が来てちょっとバタバタしちゃいましたからね。あ、ホストの男の子」

私は、冬矢君の事は忘れてるのかと思い改めてホストのと言った。

「はい。もちろん覚えてますよ。実はその冬矢君でしたよね。彼に逢ってからいろいろ考えさせられましてね」

「あら」

私は、緑色のカップに入れたコーヒーを緑色のコースターを置いてその上に置いた。すると男性はブラックでコーヒーを口にした。

「あ~、本当に美味しいですね」

そう言って一口飲んでカップを置いた。

「ママさん。私を見てどんなイメージですか?」

「えっ、あ。」

私は突然だったのでちょっと慌ててしまった。

「そうですね、変な言い方ですが真面目なサラリーマンですか?。それもかなり上の立場の。あ、すみません。社長さんですか?」

私は、また慌ててしまった。

「いえいえ、社長ではありませんが、一応上の立場ではあります。正直、ずっと真面目に働いて来ました。ですが、あの時、あのホストの冬矢君を見て思い出したんですよ。昔の自分を」

男性は何だか懐かしそうにそう言った。

「昔の自分ですか?」

私が聞くと

「ママさん聞いて貰えますか」

男性はちょっと恥ずかし嬉しそうに言った。

「はい、もちろん」

私も嬉しそうに言うと男性は話し始めた。

「実はこう見えて私、学生の頃はバイクが好きで、音楽が好きでバンドでギター弾いて歌っていたんですよ」

「あら」

「たぶん今のイメージからじゃ想像つきませんよね。だけど、親に反対されて、要は安定な将来を諭されてこうなりました。それでも私も反対されて反抗もしました。だけど私はサラリーマンを選び今の私になりました。特に後悔している訳でもないのですが。でも、あの冬矢君に逢ってから何だかそわそわしているんですよ」

男性はそう言ってまたコーヒーを口にした。

「実は私、もう50半ばなんですが息子がいましてね。息子は大学生でアパートで一人暮らしをしています。それで実は息子もバンドやっているんですよ」

「あら、素敵じゃないですか。それに50半ばには見えませんでした。40後半かと」

私は正直びっくりした。もう少し若く見えたから。

「そうですか?。ママさん上手いですね。でも嬉しいですよ。ありがとうございます」

「いえいえ、本当に見えませんよ。それに、息子さんも同じくバンドやってるなんて素敵じゃないですか」

私が言うと男性は一瞬黙った。

「実は私は、息子を自分が学生の時の自分を見ている様で息子にも安定な将来を望んで欲しくて息子が高校の時にやっぱり音楽を反対したんですよ。今の自分にも自信があったから。でも、息子は特には反抗もせず無事に大学には入りました。たぶん息子は高校時代は私や妻の目が嫌で親の見えない場所でギターを弾いていたんだと思います。だから大学はアパートを借りて通うと言い出したんですよ。やっぱり息子はバンド、ギターをやりたかったんでしょうね。私の言う事も聞いて。そして音楽もやりたかった。今思えば、どうして反対したんだろうって思うんですけどね」

男性はふっと小さくため息をついた。

「優しい息子さんですね。それにわかりますよお父さんとしての気持ちも」

「そうなんですよね。優しいんですよ息子は」

「息子さんはお父さんもバンドやってた事は知らないんですか?」

「知らないんですよ。正直、私はひたすら働いて来ましたから。息子の事は妻に任せて妻に言われるまま口を出していたぐらいですから。実は妻も私がギター弾いてバンドやっていた事は知らないんですよ。妻の方がどちらかと言うと教育に関しては煩いんですよ」

男性はまたコーヒーを口にした。

「親子ですね。やっぱり。息子さんに話したらどうですか?。お父さんも若い頃はギター弾いてバンドやっていたって。きっと息子さん、喜びますよ」

「そうですか?」

「そうですよ。一緒にやったらいいじゃないですか」

「そうなんですよね。実は、冬矢君を見ていたら若い頃を思い出してね。ギターをまた弾いてみたくなったんですよ。ギターは昔親に処分されて無いんですが。何かね」

懐かしむ男性の顔が本当に優しく見えた。

「またギター弾いて下さいよ。因みに、バンドって名前とかあったんですか?」

私は何だかわくわくして聞いた。私も音楽は好きだから。

「〈 Dark♧dream 〉ダークドリームって言いまして、実は私のバンドやってた時の名は〈闇夢〉あんむって言ったんですよ。闇に夢で。あの頃は何だか〈闇〉とか〈夢〉とかに感心があったんですよね」

そう言って男性は、置いてあるやっぱり緑色のメモ用紙に名前を書いてくれた。

「わぁ、素敵、素敵。格好いいですね」

「そうですか?」

ちょっと照れながらそう言った。

「あ、じゃぁ、闇夢(あんむ)さんて呼んでいいですか?」

私が言うと

「本当ですか。嬉しいですね。闇夢で本当にいいんですか」

何だか童心に帰った闇夢さんがそこには居た。

皆いろいろな思いを抱えているんだなぁって思った。

闇夢さんは、それから嬉しそうにまた話し始めた。

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#小説 #カフェ #闇夢 #ギター  

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