7歳年上で元ノンケの彼女を持つ私がおっさんずラブ2018に恋をした話

私には付き合っている人がいる。私は女で、相手も女。つまり同性。

これから話すのは、そんな私が2018年に放送された連ドラおっさんずラブに恋をしてしまった話。

初めに言っておくと、私は異性である男性に恋愛感情を抱くことが出来ない。この文章はそんな価値観で生きる女が書いているモノだ。

私が初めてこの作品を観た時、今思うと本当におこがましいのだけど、牧凌太という人物に自分を重ねていた節がある。

8歳年上でノンケの春田創一を好きになってしまった牧くん。

7歳年上で元ノンケの彼女を持つ私。

私は自然と、ドラマ内の出来事を自分事のように捉えるようになっていった。

私は昔から、世間体や外ズラばかりを気にしている子供だった。自分がこうしたいという思いの前に、自分がこうしたら周りはどう思うだろう…ということばかり考えていた気がする。
…今思えば全然上手く立ち回れてはいなかったのだけど。

そしてなにより、「世間一般的な当たり前の型にハマること」に必死になっていた。

まぁ…中学生高校生くらいになると、自分は世間一般的に当たり前と言われている価値観に染まることが出来ないと察し、心ごと"普通"になることは諦めたのだが。それでも外見は"普通"でいようと、ひたすら取り繕っていた。

自分が"男子を好きになれない"と気づいたのは、中学生の頃だ。

中学生の時、1番仲の良かった女友達に何気ないノリを装って「もし私が同性が好きって言ったらどうする?」と聞いてみたことがある。
その友達は即答した。
「無理キモい!もしそうなら友達やめるわw」、と。
その後私は「ほんとなわけないじゃん聞いてみただけだよw」と笑った記憶がある。
その子がもし普段から人を差別しまくるような子だったのなら、私はなんとも思わなかっただろう。けれどその子は、普段は明るくて優しい、正義感の強い熱い子だった。

そして私は悟った。

男女で恋愛するのが普通なのだと。

男子に恋愛感情を抱けない私は、普通とは違う、欠陥を抱えているのだと。

牧くんが自分のことを「欠陥だらけ」と言った時、私はこの時に感じた感情を思い出した。

もしかしたら牧くんも、当たり前の型にこだわるタイプなのかもしれない。

その子の発言は、今思えば正義感が強い故だったのだろう。相手もまだ中学生だ。自分の知っている当たり前から外れた存在を、認められなかったのかもしれない。

でもその頃の私は、その時見えている世界が全てだと思っていた。

その時の私には「学校」と「家」という世界しか無かった。

そして、「学校」という世界において「同性同士の恋愛」は認められたモノではないのだと理解した。

今現在も私は家族に彼女の存在を話していない。恐らくだが、真剣に伝えれば分かってくれない親では無いのでは…と、勝手に思っている。
それでも伝えられないのは、その事実を伝えることが親に対する裏切りになってしまうのでは?という思いが拭えないからだ。

親に何度か言われたことがある。
「彼氏いないの?」「あなたはどんな男の人を連れてくるんだろう」「もし子供が産まれたら…」

親は悪くない。なんの悪気もない発言だろう。

いっそ私が親のことを大っ嫌いだったなら、素直になれたのかもしれない。
けれど私は、親のことが好きだった。

そして何よりも強いのは、彼女の親に対する申し訳なさだ。
彼女は私とは違う。
普通の幸せを掴み取れるはずの人だった。
親が望む幸せな景色を見れるはずの人だった。
私がいなければきっと、彼女は結婚して子供を産んで、皆から祝福される未来を歩めたことだろう。

私は彼女のことを、「世間一般的な当たり前」からはずれた道へと、引きずり込んでしまった。

私が彼女のことを好きにならなければ。

…そうは思っても、私はもう彼女を失うことなんて考えられない。

6話の最後。
春田さんのお母さんと牧くんの会話。

牧くんの気持ちを考えて苦しくなると同時に、私は、まるで自分に対して言われているかのような気持ちになっていた。

「このままじゃ結婚出来ない」

「孫の顔がみたい」

「ずっと友達でいて」

その言葉は、まるでふわふわの雪にスコップを差し込んだかのようにサクリと、私の心をえぐった。

…もし、彼女の親にこんなセリフを言われたら?

苦しくて、息が詰まった。

そして、春田さんがちずちゃんを抱きしめるところを目撃してしまう牧くん。

胸が張り裂けそうだった。

何でもかんでも自分の話に繋げて申し訳ないが、もし私の彼女が幼なじみの男性を抱きしめるところに遭遇してしまったら。
その男性が彼女のことを好きなのだと知っていたとしたら。

「あぁ、彼女は正しい場所へと帰ったのだ」

そう思うかもしれない。

彼女が抱きしめたのがもしよく知らない男だったら、「この男は本当に彼女のことを大切にしてくれるのか?」などと疑いの目を向けた気がする。

綺麗事だと言われるかもしれないが、私は、彼女が傷つくことになるのが何よりも嫌だ。
ここで詳しくは書かないけれど、私の彼女は過去にかなりの辛い経験をしてきている。
だからこそ、もう絶対に辛い思いはさせたくない。
笑顔で今を生きて欲しい。

だから、ひょっと出のそこらの男なんかに彼女を任せたくはないという我儘が沸き起こる。

けれど、その男が彼女の幼なじみで私よりよっぽど彼女のことを知っていて、なおかつちずちゃんみたいにとっても素敵な人ならば。

私は…。

突然物語の前半に話が戻るが、牧くんは2話で部長に対して、らしくないほどに突っかかっている。

その気持ちは少しわかる気がした。いやもちろん、本当に牧くんが考えていることは牧くんにしか分からないのだが。

でも私だったら、確実に黙ってられない。

だって、部長は既婚者だ。

妻がいる。

「はぁ!?ふざけんな!!」

正直、そうとしか言いようがない。

私たちはドラマとして様々な視点から彼らのことを見ている。
だから部長が本気で春田さんのことを好きなことを知っているし、部長が本気で妻と別れようとしていることも知っている。
部長は誠実で真っ直ぐな熱い人だ。
だから部長に対して特に怒りの感情を抱くことは無い。

けれど牧くんはまだ部長に会って数日だ。部長がどんな人か、あまり分かっていないだろう。
病院のシーンなどから春田さんに対しての思いが遊びではないことくらいは分かるかもしれない。
でももしかしたら今までもこうやって人を好きになっては飽きて…を繰り返してきたのかもしれないし、熱しやすく冷めやすい人なのかもしれないではないか。
そもそも、部長が妻と別れようとしていることなんて牧くんは知らない。

そう考えたらどうだろう。

妻がいる身でありながら、春田さんに迫る部長。

ドラマを見ている時は健気だと思っていたけれど…。

自分の立場に置き換えて考えてみる。

もし夫がいる女性が彼女に迫っているとしたら。

私は絶対に黙ってられない。

だって、彼女が幸せになれる未来が全く見えない。

その人が彼女を幸せにしてくれるとは思えない。

そんな人に彼女を渡してたまるものか。

彼女が傷つく姿なんてみたくない。

しかも「好きでもない人に迫られて困っている」という情報まである。

もし彼女が本気でその既婚女性のことを好きならば話は別だが、彼女は特にその女性を恋愛感情では好きではないし、むしろ困っているというではないか。

ならば、その既婚女性の勢いに彼女が流されてしまう前に、どうにかして阻止したい。

私なら、そう思う。

もちろん、牧くんがどう考えてあの行動に至ったのかの正解は本人にしか分からないが…。

そして話は物語後半へと戻る。牧くんと別れた春田さんは、部長と同棲?を始めた。

でも、2話の頃の部長とは違う。今の部長は、もう独り身だ。妻と別れてまで、春田さんのことを求めている。部長が春田さんに対して抱く感情が遊びでないことも、ひと時の衝動でないことも、分かってしまった。

部長は、春田さんを大切にしてくれる人だった。

牧くんは、自分の存在意義を「家事ができること」だと思っている節がある…と、私は思っている。
相手に何かを与える。
その代わりに何かを与えてもらう。
自分がなにか求めるものがあるならば、それ相応のなにかを相手に与えなければならない。
そういった代償関係でしか相手をつなぎとめる術を知らないのではないだろうか。
だから体調が悪くても家事を怠らない。
だって、家事をしない自分には存在価値がないから。

牧くんが春田さんに与えられる明確なものは、家事だけなのだ。

けれどどうだろう、部長は家庭的な人だ。料理も洗濯も出来る。
つまりその時点で牧くんの認識的に、牧くんと部長の存在価値は同等になったのではないだろうか。

そうなると、家事以外の部分で春田さんに与えられるモノが大切になってくる。

第1話。
春田さんがミスをした時にマロくんが言った「春田さんのせいで詰んだって感じっすね」という言葉に対して、牧くんは何か言いたげな顔をしつつも何も言うことが出来なかった。まだ配属されて間もないんだから仕方がないとは思うけど。

その時春田さんを救ったのは部長だった。

そしてその後武川さんとマロくんが会場で話をしている時。

この時も、春田さんを救ったのは部長だ。

部長は自分と違って春田さんを守れる男なのだ…という思いが空白の1年間で牧くんの中にうまれたのかもしれない。


そして、春田さんと部長が同棲している時。春田さんは自分のことは少しずつ自分で出来るようになり、仕事も出来る男へと成長していく。

部長といれば、春田さんは成長出来る。

牧くんと春田さんがルームシェアをしていた時はきっと、家事やらなんやらを全て牧くんが1人で請け負っていたのだろう。
その環境では春田さんはあまり成長出来なかった。

そうやって状況的に鑑みれば、自己肯定感が低い牧くんは部長から春田さんを奪おうとは思えないだろう。

だって、部長のほうが春田さんに与えられるモノがあからさまに多い。

…恋愛って、そんな理屈的なことでも、代償関係で成り立つものでも、ないはずなのに。

さて、ここまでは牧くんの「好きな人には幸せになって欲しい」というセリフに重きを置いて話をしてきたけど、次に「逃げただけ」というセリフについて。

私は過去に、ものすごーーーくうじうじしていた時期がある。それはそれはうじうじしていた。正直その頃の自分に「しっかりしろ!」と言ってやりたい。

私がまだ彼女と友達だった頃。そして、自分の恋愛対象を打ち明けてその事実を受け入れてもらってからしばらく経っていた頃。

そして、彼女に恋心が芽生え始めていた頃。

私は彼女の時間を奪うことに対して罪悪感を感じていた。

私の時間を彼女に使うことは構わない。むしろ喜んで差し出そう。
だってもう世間一般的に当たり前の幸せなんてものは望んじゃいない。

でも彼女がもし今後結婚して出産して…という未来を歩むとすれば、そろそろちゃんと考え始めた方がいいかな?という時期だった。
私なんかに時間を費やしてもらっている場合ではない。
ただでさえ私たちには7年という年月の差がある。


だけど。

彼女に私以上に大切な人が出来るのは、嫌だった。

それがまぁ後に"付き合う"ということに繋がっていく訳だが…。

その頃の私は、彼女に告白する気は無かった。

だってもしかしたら引かれるかもしれない。

いくら同性が好きな私を受け入れてくれたとはいえ…その感情が自分に向けられたとすれば話は別だろう。

そんなことになるくらいなら、私は友達のままで構わない。

それに、私のことを友達だと言ってくれる彼女を恋愛感情で好きになることは、裏切りになるのではないか?

そう思っていた。

だけど、彼女に恋人が出来るのは嫌だった。

とんだ我儘である。

"友達でいい。でも恋人はつくらないで欲しい。自分以上に誰かを大切に思うのは嫌だ"

…もう、あまりにも我儘だ。我儘だとしか言いようがない。

そんな思いを抱えていた私は、傍目から見ればもはや告白では?みたいな、でもはっきりしない、そんな曖昧な言葉を度々彼女にこぼすようになっていった。

私には「彼女が私に恋愛感情を抱くわけが無い」という思いもあったから、そんな雰囲気を滲ませるような言葉も、度々口にした。

全てに対して、逃げ腰だった。

逃げ腰なくせして完全に身を引くことは出来ず、匂わせるようなことばかり口にして。

彼女が私を好きになってくれるわけないと勝手に決めつけて。

…もう、その頃の私面倒くさすぎる!!
いつまでうじうじしてんだ、こじらせすぎだろ!!!
……はい、すみません。

「春田さんのことなんか好きじゃない」

そう言って春田さんと分かれる道を選んだ牧くんはすごいな。

私はそれすらも出来ない、ただの意気地無しだった。

そしてある時、半分怒ったように彼女に言われた。

「自分を偽ってまで一緒にいようとするのはやめて欲しい」

「男女じゃないと駄目って誰が決めたの?お互いがいいならそれでいいんじゃないの?周りの目なんて気にしなくていいって、あなたが同性が好きって教えてくれた時に言ったよね?」

「同性ってことをやけに気にするけど、もし私があなたの事を恋愛感情で好きだと言ったらどうするの?私から離れるの?嫌いになるの?」

「もし私があなたと付き合いたいって言ったら、どうするの?私だってそう思う日が来るかもしれないのに、勝手に決めつけないでよ」

「私はあなたがただ純粋に好きだよ。これからも一緒にいたいと思ってるし、1番大切な人だと思ってる。それじゃ駄目なの?」

私はあまりにも周りが見えていなかった。

彼女と向き合おうとしていなかった。

彼女のことを信じきることが、出来ていなかった。

私の心の鎖を、彼女はぶち破ってこちらに飛び込んできたのだ。

「勝手に決めんなよ!!」
最後のプロポーズのシーン。春田さんは、牧くんにそう言った。

春田さんと向き合うことから逃げていた牧くんに、春田さんは無理やり真っ正面からぶつかっていった。

それがどれほど牧くんを救ったことだろう。

こんなにも結ばれて欲しいと願った2人に、私は初めて出会った。

春田さんが牧くんを選んだのは、代償関係や利害関係故ではない。

牧とずっと一緒にいたいから。

牧のことが好きだから。

ただそれだけの、シンプルかつ1番大きな感情だったのだろう。

家事をしてくれるから一緒にいるんじゃない。

一緒にいるだけで幸せになれるから、一緒にいるんだ。

結局、降り積もり固まっていた牧くんの心の壁を打ち砕き真ん中の柔らかい部分を包み込んだのは、春田さんの嘘のない真っ直ぐな言葉。

愛。

それはなんて難しいモノなのだろう。

そして、なんて素晴らしいモノなのだろう。

彼らは私に過去の彼女との思い出を思い出させてくれたと同時に、「愛」の素晴らしさを改めて教えてくれた。

プロポーズの時、春田さんは牧くんに「結婚してください」といった。

泣きながらその言葉を聞いていた私は、思わず少し笑ってしまったものだ。

きっと春田さんは最上級の告白の言葉が「結婚してください」だと思っているんだろう。

私は「結婚してください」なんて言葉を彼女に伝えようと思ったことすら無かった。

だって、結婚出来ないし。

いつか自分が結婚する日が来るなんて、考えたことも無い。

結婚なんて、とっくに諦めていた。

確かに最近ではパートナーシップ制度なんてものもあるけど、その制度には別に法的拘束力がある訳じゃない。

結婚とは全く違う制度だ。

あぁ、でもいつか…彼女と本当に家族になれる日が来るならば、それはとっても素敵な事だな。

…たまに考えることがある。

私たちは今お互いの関係を誰にも言っていないし、お互いだけが分かっていればいいと思っている。

でも、ということは。

私たちが死んだら、私たちが愛し合った事実はこの世から完全に消えてしまうのだ。

私たちは他人としてしか生涯を終えることが出来ない。

そしてどちらかが先に死んだ時、残された方の人間は他人としてしか葬式の列に参列することは出来ないのだ。

お互いが心の中でどう思っていようと、私たちは他人にすぎない。

家族。

それは、今まで自分には無縁だと思っていた言葉。

でも私は春田さんと牧くんに、そして天空不動産の皆に出会ってから、ひとつのある思いが芽生えた。

私はこの作品に恋をしたことで、今まで気づかないように誤魔化して諦めていた自分の願いに気づくことが出来たのだ。

私は、彼女と家族になりたい。

いつか当たり前のようにそれが叶う未来がやってくると、信じている。

もしそんな日が来たら、その時は彼女の家族に挨拶に行こう。

そして、彼女にも私の親に挨拶をしてもらおう。

春田さんと牧くん。
そして、天空不動産の皆様。

私にこんな感情を教えてくれてありがとう。

あなた達がいなければ、「彼女と家族になりたい」というそんなささやかな自分の願いにすら気づけなかった。

出会ってくれてありがとう。

いつか彼女のウエディングドレス姿がみてみたいな。

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