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初心者のための「腹診」・理論編

おはこんにちは。ゆーのすけです。

前回は腹診に「実技編」として、腹診の実技について解説しました。

今回は、「理論編」として主に理論面について解説していきます。

腹診の種類

東洋医学的な腹診は、『難経系腹診』『傷寒論系腹診』の大きく2種類に分けられます。その他、その2つを折衷した腹診や、独自に発展した腹診もありますし、"募穴診"も広い意味では腹診に含まれます。

難経系腹診・・・『難経』の第十六難、第五十五難、第五十六難などを根拠にしたもの。
  代表著書:『診病奇核』(多紀元堅)、『診腹精要』(竹田定快)、『腹診書』(堀井元仙)、『腹診図説』(久野玄悦)

傷寒論系腹診・・・『傷寒論』、『金匱要略』などを根拠にしたもの。
  代表著書:『艮山腹診図説』(後藤艮山)、『診極図説』(瀬丘長圭)、『腹証奇覧』(稲葉文礼)、『腹証奇覧翼』(和久田叔虎)

折衷派系腹診・・・上記の折衷したもの
  代表著書:『浅井秘玄腹侯書』(浅井南冥)、『図南先生腹診秘訣』(浅井図南)、『東郭腹診図』(和田東郭)、『百腹図説』(曲直瀬道三)

募穴診・・・『鍼灸甲乙経』(皇甫謐 こうほひつ)を根拠にしたもの。
夢分流腹診・・・江戸時代に書かれた『鍼道秘訣集』(夢分斎)などを根拠にしたもの。 「腹診を主とし、経絡を問わず、五臓六腑の邪気のあるところを探って鍼すべし」と書いてある。
その他・・・各流派それぞれのもの。 例えば、長野式の腹診、宮脇式奇経腹診などなど


難経系腹診や募穴診などは、各臓腑経絡の状態を把握することができ、鍼灸治療方針の決定に必要です。

傷寒論系腹診は、主に漢方処方のために使われますが、東洋医学的な病態の把握がわかりやすいので、鍼灸臨床上でも患者さんにも説明しやすく重宝します。

腹診の歴史

伝統的中国医学の古典『黄帝内経』、『難経』、『傷寒論』、『金匱要略』には、"腹診"という文字はないですが、腹部の診察所見に関する記載はたくさん残されています。

例えば、『素問』気厥論第三十七篇には“按腹”という文字があります。

ところが、中国の古典に記載はあるものの、腹診は中国では発展せず、主に日本で発展していきました
(そもそも”腹診”という言葉は和製漢語とされる)

その理由は様々な説があるようですが、中国では「異性の体にむやみに触れてはいけない」という儒教の教えも影響したことで廃れていったが、日本では「誤診は許されない」という考えが強く、触ってでも正確な診断を得ようとした姿勢が尊重されたためと言われます。

日本において、平安時代には「腹とりの女」として按腹をする女性の話があったと『按腹図解』の序文に紹介されています。

そして、室町時代末もしくは安土桃山時代以降、按腹の延長線上に当時の医家によって腹診が次第に体系化されていったと言われます。

その後、江戸時代に腹診は最も発展を遂げました。特に、夢分流・意齋流は有名です。

おおまかな腹診理論形成の流れは、当初は臓腑の虚実を判断しやすい『難経系腹診』が鍼医師により体系化されました。

次第に、腹証が直接処方に結びつくので湯液処方のために診断しやすい『傷寒論系腹診』が発展してきたとされます。

※さらに詳しい腹診の歴史は、大塚敬節先生が『腹診考』として詳しくまとめ、最先端では長野仁先生が研究されていますので興味ある方は調べてみてください。

難経系腹診について

経絡治療では、主に難経系の腹診が使われることが多いですので、そこにしぼって解説します。
(傷寒論系の腹診も知っておくことは必須です。)

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