街灯を辿って

 夜の散歩が好きだ。夜中の2時から3時頃、近所の路地をぶらぶら歩く。草木も眠る丑三つ時なんてよく言うが、私にはせわしない昼間より人々が眠りについた夜中の方が草や木をより身近に、生々しく感じられる。聞こえるのは、一本向こうの大通りをたまに通る車の音と、野良猫の鳴き声と、風が草木を撫でる音ばかり。

 街灯の人工的で冷めた灯りを辿ってアスファルトを歩くと、この世界に人間は私ただ一人なんじゃないかと思えてくる。秋の夜、袖を伸ばしたって首をうずめたって吹く風はどうしたって冷たいけれど、この冷たさが、身を包む寒さが、この世に誰もいないことの証明だ。

 朝の満員電車、レジ前の行列、下校する中高生、ピアノを弾くお隣さん、テレビの向こうのお笑い芸人、ブルーライトの向こうで文字を打つ友人。誰も誰も、この時間には影を潜めてしまう。アスファルトの冷たさも、かじかむ指先も、風の音も、草の匂いも全て私だけのものになる。この一瞬に包まれることで、私はまた明日を生きられる。

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