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私は何も知らない巻きこまれ主人公ですらなく、ただ対岸の火事として聞いていただけだった。

それは、洗濯物を干している最中だった。料理ができない私は洗濯物を干して畳み、食器を洗い、食卓を整える。その流れのなかの、一幕だった。ふとした母の言葉にひっかかりを覚え、「何かあったの」と聞いた。聞いてしまった。だってその不自然はコナン君でなくても不思議に思うくらいのものだったから。

今になって思えば、予兆はあった。会話の端々に、そういえばあの一家の話を異様にしないな、とか。

手にした洗濯物の湿り気が私の手にもうつるほど長い時間、話を聞いた。母の話を要約するととある一家の態度が悪く喧嘩になり、そのまま別れとなったという話であった。私はその一家によくしてもらった記憶しかないので、母の語るその一家との落差に困惑していた。しかし、母は嘘を吹きこむような人ではない。無論それぞれに言い分はあるだろうしその場に居合わせた人間の話も聞くまでは判断しきるべきではないのかもしれない。

でもまあ、だいたい真実なんだろうな、と思う。嘘は言わない人だから。

私は、何も知らなかった。自分の抑うつ状態に振り回されて、実家で何が起こっているかなどここ数年知らずにいた。巻きこまれ主人公でなく、対岸の火事だったのだ。

別離の話を聞いて思ったことは次の正月に子連れでその一家が来訪することに怯えなくていいのかということだった。私は、まだ子どもの声が頭に響くし、それに元々子どもに適切な関わり方ができない。


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