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Case.2 卜沢彩子さん~転職活動を経て倫理ある採用を願う~【後編】

【注意】
本記事では、性暴力被害、PTSDについてふれています。
フラッシュバックをはじめとした、体調の悪化にご注意ください。

前編はこちら。

さまざまな理由から転職を決意した卜沢さんの転職活動、そのなかで考えたことを伺っていく。

年齢、性別への差別、偏見にさらされた

――私自身もフリーランスをしているので、今会社員になろうとすると難しいところはあると感じているのですが、転職活動はどうでしたか。

卜沢 一言で言えば、大変でした。諸々あって、転職活動は半年くらいかかりました。私は30代中盤の女性、それも既婚で子どもがいないので、「すぐ妊娠して産休入っちゃうんじゃないか」と思われやすかったし、フリーランスをしていて正社員経験がないなかで、私の求める条件も結構高かったから、簡単には決まらなかったです。

――やはり、そういった偏見や差別はあるんですね。卜沢さんの見ていた職種や求めていた条件はどういったものでしょうか。

卜沢 見ていた職種はマーケティングだったんですけど、求めていた条件である副業可の求人が意外となかったですね。あと、必須ではありませんでしたが、出社とリモートワークのハイブリッドの求人を探していました。

――職種がマーケティングなのは何だか意外ですね。若者支援や対話の場作りなど、卜沢さんが今までされてきたこととマーケティングは遠いように思えます。

卜沢 そもそも私は学生時代起業家のコミュニティにいたこともあって、SEX and the LIVE!!プロジェクトを始めたのもそうなんですけど、世界を変えるサービスを作りたかったんです。iPhoneが出たことによって生活が変わって、電話とメールをするだけだったもので、webサイトが見られて、寝こんでいても仕事ができるようになりました。そうやって新しいプロダクトや仕組みが生まれることで、世界は変わると思っています。

――UVカットの衣服が昔より簡単に手に入るようになって、日焼けを避けなければならない人が気軽にショッピングを楽しめるようになったのもそうですよね。

卜沢 そうやって、プロダクトで変わるものってありますよね。それに、社会運動の中でも関心のある人以外にも広く広めていかなければいけないと感じていて、一方でソーシャルグッドな取り組みをしているマーケティングの上手いNPOや起業家界隈に対して、倫理的な問題を感じることもあって迷うことも増えてきました。それで、あえて自分が商業的なところでお金回りのことやマーケティングをしっかり身につけた上でどうしていくか考えたいと思うようになりました。

NPOやフリーランスについて誤解されることも

――とはいえ、マーケティングというと、美容室に行って渡された雑誌を開いたら、「外国人風カラー」などと書かれた広告が目に飛びこんできた経験もあり、社会運動とは対極のところにあるイメージは拭えないです。

卜沢 あれは本当にいけないと思います。美容系の広告でコンプレックスを煽るような売り方をしているのはよくないと感じます。すべてがそうだとは思いませんが、現状マーケティングが社会運動から遠いところにあるのは事実ですね。

――マーケティングはメインストリームにおもねるというか、大衆に届くものを作るものなので、合わないこともありうると思うのですが。

卜沢 まずやってみて、自分に合うか合わないか判断しようと思いました。社会運動にもマーケティングにも、それぞれ取り入れる必要のある視点があると感じていたので。

――受けた企業の反応はどんな感じでしたか。

卜沢 年齢や性別への偏見、差別はもちろん、NPOやフリーランスへの偏見をぶつけられることも多かったです。面接官はNPOやフリーランスのことをよくわかっていないのか、「協調性がないんじゃないか」「コミュニケーションを取って仕事できないんじゃないか」「売上に対する意識が薄いのでは」と言われました。

――NPOで、売上をまったく気にしなくていいなんてことはないし、フリーランスが本当にそんな感じだったら仕事できないですよね。

卜沢 そうなんです。フリーランスのチームで仕事した実績もあるし、対話の場作りなど、コミュニケーションが欠かせない仕事をしてきたことも書類に書いていたのに、そういうことを言われて、困惑しました。

面接で嫌な思いをしたくない

――英語では面接のことをInterviewと言うのですが、そのつもりで相手の提出した書類を読んで、わからないことは調べた上で、面接をしてほしいところですね。

卜沢 全く読んでいないのは気分がよくないですよね。自分のしてきた仕事を軽く見られるような発言を繰り返されることもあり、嫌でした。

――互いに敬意を持って行う面接であってほしいとは私も常々思っています。採用の可否でその企業との関係が終わるわけではなく、その後ステークホルダーとしてその企業と関わることもありえますから。

卜沢 不採用にされることよりも面接で嫌な思いをするのが嫌でしたね。その企業に関わりたくない気持ちになることもあります。面接で、「よくない商品でも売れますか」などと言われて、それは嫌だなと思ったこともあります。それだけではなく、履歴書に性暴力被害者支援NPOに関わった経験を書いていたら、そのことを聞かれて答えた際の反応が嫌でした。

――そういうセンシティブなことを聞くのは配慮が足りない、ということでしょうか。

卜沢 そうではなくて、なぜその活動を始めたのか聞かれ、「自分が被害に遭って支援や情報が少ないことに気づき、状況を変えたいと思った」と理由を答えると、気まずそうにしたり、「大変なことを話させてしまって申し訳ありません」と謝られたりして、その雰囲気のまま、面接が終わるのが嫌でした。

――その経験にふれられることそのものではなく、嫌だったのはその後の反応なんですね。

卜沢 私自身性暴力サバイバーであることをオープンにしているし、書類にもNPOでの活動のことを書いているから、ふれられるのはいいんです。むしろ自分の経験から問題意識を持って動いてきたことは自分の強みで、大切なキャリアでもあります。それを自分から聞いたのに気まずそうにしたり謝ったりするのはやめてほしかったです。性暴力被害に関するNPOに関わる理由の多くは、自分が性暴力サバイバーか、親しい人が被害を受けたか、福祉領域の仕事をしていたかです。少し考えたら想像がつくはずなのに、何も考えずにテンプレで聞いて、答えたら気まずそうな雰囲気を出すのは違うと思います。

――それはあまりにも相手への敬意や、質問することへの覚悟がないですよね。

卜沢 採用の現場にも倫理観が必要だと強く感じました。採用倫理のようなものが欠かせないと思います。

取材後記

卜沢さんの、「面接で嫌な思いをしたくない」という言葉が耳に残っている。
私自身、就職、転職において、障害をはじめとしたマイノリティ性への偏見や差別に遭遇した経験は少なくない。

私も、不採用とされたことではなく、不当に扱われたり、敬意のない扱いを受けたりしたことの方がつらく、そのような面接をした企業の商品やサービスは、思わず避けてしまう。
採用候補者は、未来の消費者かもしれないし、取引相手かもしれない。
ステークホルダーとの関係性を考える必要性が説かれて久しいが、相手に嫌な思いをさせない面接を採用側も意識すべきだと思う。

現在、卜沢さんの所属している企業では、妊娠や出産の可能性がある30歳前後の既婚女性や転職回数の多い人など、一般的には転職で”不利になりやすい”部分がある人も採用され、働いているそうだ。
その人々は優秀で、仕事に熱心に取り組んでいる。
”コンスタントに長時間働けて、会社にずっと在籍する”人ばかりを求める既存の評価軸では評価されないだけではないだろうか。

もしそうなら、既存の価値観に基づいた評価軸のみで採用を続ける企業は、柔軟な評価や働き方次第で成果を上げられる可能性を秘めている人々を逃し続けているのかもしれない。
それは、採用候補者と企業のみならず、社会にとっても大きな損失ではないか。
そんなことを感じたインタビューだった。

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