溢れて、でも泣けなかった。
「睡眠障害なんです」と言っていた私
2018年春。抑うつ状態と診断された。乱れる睡眠、読めない体調、どんどんできなくなる外出……。はっきり言って、もう何もかもぐちゃぐちゃだった。どうしてこんなになる前に病院行かなかったんだろう。今になってからじゃ遅いと何度も自分を責めた。
それほど自分を責めても状況は何一つ変わらない。私は何とか明日へ命を繋ぐしかない。もう何のために生きるのかもよくわからないけど、死ぬのは痛くて苦しいから嫌だ。死なないのなら生きるしかない。そんな消去法で、生きようとしていた。消去法でも何でも死ななければ人は生きられるらしい。
その”生きる”は食事がおざなりになったり、家事を溜めこんだりで、とても健全と呼べるものではなかった。不健全で、合理性に欠けて、でも何とか生存している。そんな状態だった。
何とか明日へ命を繋ぐしかないので、仕事をする。仕事をすると、通院するために早上がりさせてもらう必要性が出てくるので、通院していることを明らかにしなければならなくなる。そこで私は、
「睡眠障害です」
と言っていた。
嘘ではない。厳密には嘘ではない。抑うつ状態の症状として、めまいや吐き気、頭痛に食欲不振、睡眠障害がある。実際睡眠が乱れて起き上がれなくて欠勤したことがある。
うつ病やうつ状態に対する偏見が周りにあると思っていたけど、多分自分にもあったのだと思う。うつって言ったらきっと受け入れてもらえない。辞めさせられる。そんな恐怖があった。うつって言うのが怖かったし、私自身もうつに偏見を持っていて、そしてそれが私に”うつって言うより何か別の病名を言おう”と思わせたのだ。だって、うつって言ったら何か私のせいみたいだから。
うつ病もうつ状態も本人が悪くてなるわけじゃない。それでも何だか、骨折とか身体障害より”人権がない”と感じていたのだ。うつになるのは弱いからでも甘えでもないと頭ではわかっているのに、甘えではないかと思ってしまう。本当にそんなことはないのに、どうしてもそう思ってしまう。
それでも仕事に行けなくなってしまい、その時はもう諦めて主治医に抑うつ状態で診断書を書いてもらった。ああ、うつってばれる。そう思いながら、何とか起きて夕方に職場に診断書を提出に行った時は胃に氷が落ちてくるかのような緊張感があった。うつと知っても上司は「お大事に」としか言わなかった。甘えだの弱いだのといった偏見に満ちた言葉は浴びせられなかった。
「調べてみたんだけどさ」この言葉に救われた
そんななか、友人に会った。会う約束をして着替えをして、メイクして、そのときの体調にしてはとても頑張った。皆が当たり前にしているこんなことも、めちゃくちゃがんばらなければできない。
それでその友人は言った。
「うつのこと、調べてみたんだけどさ」
この友人は、私から見ても多忙な毎日を送っていて、うつとかうつ状態の人間では到底こなせないハードスケジュールを生きている。
そんな人が、何か私のせいみたいに思われてしまうだろうと勝手に私が思いこんでいたうつのことを、調べて、理解しようとしてくれたのだ。
私はただただ嬉しかった。そんなことも、あるんだと思った。あの頃、私は世界のすべてに失望していたから。
うつから程遠そうな人(そんな人は本来はいない)でも、理解しようとしてくれるんだ。理解してくれるんだ。
心が温まるってきっとああいうことを言うのだと思う。
執筆のための資料代にさせていただきます。