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Case.2 卜沢彩子さん~転職活動を経て倫理ある採用を願う~【前編】

【注意】
本記事では、性暴力被害、PTSDについてふれています。
フラッシュバックをはじめとした、体調の悪化にご注意ください。

「労働の選択肢を狭められたと感じている」方の2人目として、今回は卜沢彩子さんにお話を伺った。

プロフィール

卜沢彩子(うらさわ あやこ)さん
A-live connect代表/SEX and the LIVE!!プロジェクト主宰/会社員(マーケティング)。
フリーランス、NPO法人いけぶくろ大明と豊島区による池袋の若者支援施設、みらい館大明ブックカフェコーディネータ・広報などを経て、転職し、マーケティングを行う会社員となる。
性暴力サバイバーでもあり、「性と生」をテーマに、企画、執筆、相談、対話の場作りなどをしている。

PTSDや体調不良で寝こみつつも、細々と仕事をした

――卜沢さんがフリーランスになられたきっかけは、どういったものだったのでしょうか。

卜沢さん(以下卜沢) 私は学生時代に何度も性暴力の被害に遭っていて、それで体調を崩していたというのがあります。PTSDも抱えていました。精神的なストレスがかかったときだけでなく、疲れや体調不良のようなストレスがかかると、意識を失って倒れてしまうことがありました。

――そうなると、大学への通学や卒業はかなり難しくなるかと思うのですが……。

卜沢 集団痴漢の被害を受けたので、人口密度の高い密室に行くのが無理になってしまいました。大学の講義室のような、後ろに人がいたり、人が通ったりする場所がつらく、PTSDの症状で意識が飛んで倒れてしまうことが何度もありました。頑張って行って、何とか卒業はしたのですが、卒業までに7年かかりました。

――就職活動などはどのようにされましたか。

卜沢 私は就活はしていないんです。性暴力被害で体調を崩して寝こんでいた学生時代に、「何か仕事をできるようにならなきゃ」と思って、細々といろいろな仕事をフリーランスとして受けていました。体調が不安定だったのもあって、アルバイトは短期の仕事が多かったのですが、ティッシュ配りをしたり、コワーキングオフィスで働いたり、撮影会のモデルをやったりもしていました。

フリーランスとして、幅広い仕事を経験

――体調が不安定だと、一つのところに毎日同じ時間に通うのが難しいですよね。新型コロナウイルスの流行前なので、リモートワークもあまり一般的ではありませんでしたし。

卜沢 寝こんでしまって、外に出られないけど、外に出たい気持ちはあって、それでもやっぱり外には出られないような時期もありました。でも、そのことがなかなか理解されないのがつらかったです。それまでは「外に出たくても出られない」ことに理解を示さなかった人々が、コロナが流行って、外出を控えるようになってつらいと言うことにも、苛立ちを感じました。それは、私達が今までつらいと言って理解されずにきたことなのに、と。

――障害者が今までリモートワークを求めてきたのに、なかなか実現せず、新型コロナウイルスの流行であっさりリモートワークが定着したこととも似たものを感じます。卜沢さんのフリーランスとしてのお仕事は、どのようなことからスタートされたのでしょうか。

卜沢 本当にいろいろなことをやりました。大学在学中にiPhoneがあれば、寝こんでいても仕事ができることに感動して、iPhoneのレビューサイトのライターをしたところから始まっています。ただ、単価があまりよくなかったので、稼ぐ手段としては考えていなかったです。インターネットで調べられる範囲で、できるだけ報酬の高い代理店を探して、自分で契約書を作ってiPhoneと光の代理店をしたこともありました。

――行動力がすごいですね。

卜沢 ライフワークとしてライターの仕事を軸に置きつつ相談事業なども行っていましたが、稼ぐ手段としてはマーケティング会社の資料作成の仕事をしたときもあるし、短期ですけどパン屋さんのバイトしたこともあるし、友達の行政書士の事務所で仕事したり、SNS運用の代行をやったり、単発でも継続でも請けている作業があったりして、本当にいろんなことやってますね。

――かなり幅広くお仕事されていたんですね。そうなると、職種ややっていることを聞かれたときに即答しにくい感じがします。

卜沢 職種を聞かれると、少し困りますね。本当にいろいろやってきたので。

公的機関での勤務を経て、転職へ

――卜沢さんのことは、SEX and the LIVE!!プロジェクトやみらい館大明ブックカフェの方、という認識が強かったんですが、その他にも本当にいろいろなお仕事されていたんですね。

卜沢 フリーランスをやっていた頃からみらい館大明ブックカフェで働いていたのですが、性暴力とか性に関することをやってることってすごく偏見で見られやすいんですよね。フリーランスであることもですが。

――ライターへの偏見は私も受けたことがあります。経済的なこととか、ちゃんとした社会人ではないみたいな言われ方をしました。

卜沢 そうなんです。それに、みらい館大明ブックカフェは若者支援施設なので、利用者や区民の目もあります。

――みらい館大明ブックカフェの他でしている活動をどう思われるか、どのように見られるか、ということもあるのでしょうか。

卜沢 それはとても大きいです。みらい館大明ブックカフェは公的機関なので、”性暴力サバイバーの卜沢さん”以外のイメージを持たれることができ、信頼性が増したこともありました。それまで、私は性の話や性暴力に関する話をしていたこともあって、「セックス!?」とひかれてしまうことや、過激なことを言うフェミニストなんじゃないかと思われることが少なくなかったんですね。そこがしんどかったんですが、みらい館大明ブックカフェという公的機関での勤務では、”性暴力サバイバー”への偏見から少し離れられました。

――それは大切なことですよね。みらい館大明ブックカフェでの勤務を経て、転職されていますが、転職を決意したきっかけは何かあるのでしょうか。

卜沢 みらい館大明ブックカフェでは、業務時間内であれば無料で相談に乗れたり、やりたいことを仕事にできたりしてすごくよかったんですけど、雇用形態が不安定であることと、SEX and the LIVE!!プロジェクトを運営する中で、自分の専門性の低さが気になって、転職を決意しました。

――専門性が低いとご自身で思われた理由をお聞きしたいです。

卜沢 フリーランスになるときの”正規ルート”として、会社員として、会社が今まで蓄積したノウハウなどを身につけて、そこでの関係性があったりお客さんがいたりする上で独立するというのがあるんです。でも、私は、寝こんでいて、とにかく何かしなきゃと切実さにかられて始めた仕事だったので、それこそ契約書の作成から自分で調べてやりました。何でもやるしかなかったので、ある程度は何でもできるのですが、すべて独学で、ノウハウを学んだりしたことはなく、特にコンテンツを作り広めてマネタイズしていく上での専門性は高くなくて、そこが気になっていました。それで会社員として仕事をしてみようと考えるようになりました。

(後編へ続く)


執筆のための資料代にさせていただきます。