お酒も飲んでいないのに蚊に好かれて嬉しくない。

よく焼肉をする家だった。北海道民は焼肉とジンギスカンとBBQを同義語として使うのでつまるところジンギスカンでBBQ。ガレージの前で七輪を出して、焼肉をする。

焼肉と言えば外で家族とするものだったので、年に一度くらい何かの集まりで焼肉屋で焼肉するのが新鮮だった。あとコーンバター焼きというのを実家を出て初めて知った。実家ではとうもろこしが焼肉にやってくると焼きとうもろこしにされる。

父がお酒を飲みながら七輪で肉を焼く。父の嫌いな豚肉も、そんな父のためにと用意された牛肉も、当たり前のようにあるラム肉も、遠慮もなく私達子どもの胃に消えていく。そしてある程度食べたら遊びはじめる。私は食べるのに夢中で遊ばなかったか、本を読みはじめたかのどちらかだったと思う。

あのときの食欲のいくらかでも、今の私に分けてほしい。

そして父は肉を焼きながらビールか、発泡酒かを開けるのだった。だから蚊に好かれる。酒気を含んだ呼気の二酸化炭素にひかれて蚊が集まっては父を刺す。毎度のことでわかりきっていて、毎回刺されては痒い痒いと言うのにそこでお酒を飲むのは必須らしかった。

痒い痒いと言うのに蚊に好かれることをして、刺される父の横で私は虫除けスプレーを噴射して、そして肉を食べた。

そんなことを思い出していた。何故なら私が気づいたら蚊に刺されていたから。痒い。つらい。夏はそろそろ終わりだぞ。

執筆のための資料代にさせていただきます。