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福祉事業者が国から感謝されることは「ない」のか?|プライドなき福祉事業者たち


異業種出身者から見るとちょっとおかしな介護・福祉業界

筆者が介護業界・福祉業界にたずさわり、取材をし始めたのは40代を越してからだ。異業種転職組だった筆者は、かなりの衝撃を受けた。違和感はところどころで感じるが、一番に思うのは嫌儲主義(金儲けが絡む活動を嫌うこと)だ。
介護・障害福祉事業ともに大変な労働だ。それにも関わらず「利用者様の笑顔」が給料よりも優先だったりする。

もちろん「仕事として割り切ってやっています!」という従事者もいる。だけど、経営者自体が「儲ける=悪」と考えている人が多い。そのことは何度か記事にしているが、介護・福祉事業ともに収益が出なければ一般企業と同様、倒産する。企業努力をしなければ、賃金は上がらず、それが利用者への虐待につながることもある。

最近では、筆者の周囲には「他の事業所よりもいい人材を確保したいから、収益は大切」「福祉もビジネスだ」と言い切る経営者が増えている。異業界から見れば当たり前のことだけど、なぜかこの業界では「金目当て」などと批判される。
事業が立ち行かなくなれば、割を食うのは、継続的にサービスを利用できなくなる利用者だ。安い賃金で、やりがい搾取される職員たちだ。

福祉事業が国から感謝されることは「ない」のか?

そんな特殊な介護・福祉業界なのだが、つい最近、SNSで盛り上がっている投稿があった。そこには「福祉事業者が国から感謝されることは基本『ない』です」と大書きしてあった。

Facebookに投稿されて大盛り上がりだった福祉事業者の投稿(現在は削除済み)
公開の投稿で人を「ア〇(文脈からアホの伏字)」と福祉事業者の投稿(現在は削除済み)

その投稿に「いいね!」130件、「ウケるね!」32件、「超いいね!」3件、「大切だね」1件(投稿者本人によるもの)の反応があり、大盛り上がり。

筆者は目を疑った。
「儲けません。国からも感謝されないです」=「自分たちはボランティア精神に溢れていて利用者を思ったいい支援者だし事業所です!」というアピールなのだろう。
だけど、自分たちがしている仕事が「国から感謝されることなどない」と自虐しながら利用者のケアをしているのかと悲しい気持ちになった。

その盛り上がりの中には、競合他社の社長に対する「ハゲ」という身体的な侮辱も含まれていたが、投稿者は放置していた。投稿者自身が「ア〇(文脈からアホの伏字)」とも書いていた。筆者は前章で書いた「異業種出身者から見るとちょっとおかしな介護・福祉業界」の中にはこういった経営者やスタッフのインターネットリテラシーの低さも含まれていると考える。

介護・福祉事業者の中には、利用者に無断で写真を掲載しているケースも散見される。特に、外見に対する中傷はその背景にどんな事情があるか分からない。円形脱毛症の人もいれば、抗がん剤で「ハゲ」てしまう人もいる。それをパブリックスペースであるSNSに書き、拡散するという行為は、福祉業者以前に人としてどうだろうかというレベルの話だ。

福祉事業者が国から感謝されることは「大アリ」だ

話を本題に戻そう。今、厚生労働省は「地域包括ケアシステム」の構築を推し進めている。

引用:厚生労働省 地域包括ケアシステム https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/

「地域包括ケアシステム」と書くと漠然としているが、簡単に書くと「精神病院に入院している認知症の高齢者や精神・重度の知的障害の人を地域で受け入れましょう!そのために、介護・福祉施設を作って、地域で助け合って生きていきましょう」ということだ。

これだけ読んでいると「地域での助け合い!美しい!!」と単純に思ってしまう。

だけど、日本の場合、その背景にあるのは「病院へ入れておくと財政的に高コストです。精神医療だけでも年間約7兆円かかります。病院は設備にも医師や看護師の人件費にもお金がかかるけど、介護施設って比較したら安いですね!自治体さん、もっと負担してください」という財務省の方針からスタートしている面がある。
(もちろん人権的な側面もあるでしょう。そちらがメインだと思いたいですね)

医療から福祉に切り替えると予算はいったいいくら削減される?

病院の診療報酬は現在、42兆円となるが、その25%にあたる10兆円を国が負担している。障害福祉サービス等予算に切り替えると、平成30年度で、国は50%の1兆3千億円を負担している。

何と約40分の1に削減されていることになる。

これが、福祉事業者が国から感謝されることは「大アリ」だ
という理由だ。

福祉従事者よ、誇りを持て!!行き過ぎた嫌儲主義は何も産まない

筆者の尊敬する福祉事業会社の社長は「地域のインフラになりたい!」という目標を掲げて事業をしている。
国政を目指している人もいれば、国の福祉制度を変えたいという人もいる。
「国から感謝されることなんかないもんね」と自虐するよりも
自分たちの仕事に誇りをもって欲しいものだ。

そして行き過ぎた嫌儲主義は誰も幸せにしない。ましてやそこからの差別発言は誰に対しても許されるものではない。

田口ゆう
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