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角野隼斗 全国ツアー 2024 “KEYS”大阪

■2024年2月2日(金) 開演 19:00 ※現地時間
大阪/日本:ザ・シンフォニーホール

Program
J.S.バッハ:イタリア協奏曲 BWV971
モーツァルト:ピアノソナタ第11番 イ長調 K. 331「トルコ行進曲付き」
角野隼斗:24の調によるトルコ行進曲変奏曲
角野隼斗:大猫のワルツ
ガーシュウィン(角野隼斗編曲):パリのアメリカ人
ラヴェル(角野隼斗編曲):ボレロ


はじめに

今回唯一取った大阪公演。
耳をダンボにして聴いて来ました。

鉄は熱いうちに打て、と言わんばかりに、興奮が冷めないうちにとキーボードを叩いています。

忘れないうちに体験をつぶさに記録しておきたいので、ネタバレだらけになるかと思われます。
NGな方は、ここで即Uターンを。

大丈夫な方だけ、良ければ思い出語りにお付き合い下さい。

なお、私は音楽に関しては素人で、感じたバイブレーションそのままを文字にしております。
超主観的な感想日記、と言う体です。

また、トークに関してはあやふやな記憶で書いています。不正確な部分が多々あるかと思いますが、あらかじめご了承下さい。

イタリア協奏曲

客席が暗くなるや否や、すぐさま舞台の左袖から現れた角野さん。
スタスタとグランドピアノ前まで進み、着席してすぐに演奏開始。
ここまで、ほぼ無駄な時間はなし。

「えっ、待って心の準備がまだ出来てない! 集中しなきゃ、集中、集中……」

自分にそう言い聞かせながらの第一楽章。
明るく包み込むような音色に、心が浮き立つのを感じます。
今日はどんなコンサートになるのかな?
ワクワク期待に胸が膨らみます。

第二楽章、ガラッと印象が変わって、とても内省的な音色。
観客の雰囲気も落ち着いて、たくさん人が居るはずなのに、暗闇の中でスポットライトに照らされた角野さんと私、二人きりのような不思議な感覚に。
思えば、ここで角野さんの音楽の世界へと誘われる魔法がかけられていたのかもしれません。

第三楽章、はじまるや否や、角野さんの全身から迸るエネルギーが、音に乗って、ホール中を駆け巡る!
彼の細身な体躯のどこにこれほどのものが眠っていたのかと思う程、湧き上がって止まない音の奔流に圧倒されたひと時。
バッハでこんな感覚に陥るとは。
生命力に満ち溢れた演奏は圧巻でした……!

トーク

「本日はお忙しい中、足をお運び頂き、ありがとうございます。
(中略)
実は、去年一番沢山コンサートをしたのは、大阪、ザ・シンフォニーホールなんですよね。(拍手)
これも皆さんのお陰です。ありがとうございます。
去年は四回、一昨年は五回、今年は三回を予定しています……来年は二回になるかも?(会場笑)」

トークで笑いを取るのが年々上手くなっているのでは、と思う角野さん。
場を和ませつつ、次の曲へ。

ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲付き」

事前にさらっとどんな曲か予習していた時、全体的に穏やかな雰囲気で好みの曲だなと思っていたけれど、生で聴いたら、色んなイメージが次々と脳裏に浮かび上がって来て、聴きながらずっと感動していました。

最初は、晴れた日の昼下がりに外で寝転びながら、木陰で微睡んでいる、そんな場面が浮かび上がって来ます。
青空の下、瑞々しい木々の葉が日の光に透けて、キラキラ輝いているのを眺めながら、夢の世界へ。

角野さんのピアノの音は暖かくて、どこか懐かしい。
音色が鍵になったのか、心の奥底にある大切なものをしまい込んでいる小部屋の扉が、そっと開かれた、そんな風に感じました。
子供の頃の、何にでもワクワクした好奇心、豊かな感受性が戻って来たみたい。
何故だかわからないけれど、そんな感覚に。

そこから、角野さんのピアノの音がどんどん身体に沁み入って、すっかり癒されていると、あの有名なトルコ行進曲のメロディが。

軽やかに弾く角野さん。

サビの音色の豊かさと言ったら、バックにオケを背負っているかのようです。

明るく弾むような音がホール中を駆け巡って、うっとりしているうちに、演奏終了。
終わった瞬間、頭からもう一回聴き直したいと思いました。
CD出して下さい!

今まで感じたことのない体験で、本当にめちゃくちゃ感動しました。

24の調によるトルコ行進曲変奏曲

演奏前のトークで印象的だったものをご紹介。

「ツアーのために作った曲で、ちょうど24の調があります。何がちょうどなのかって言いますと、今年は2024年ですし……!(笑)

でも、実際に弾いてみたら、今が何の調かわかりにくいかと思います。勘の良い方はお気付きかと思いますが、ピアノの横にライトがありますよね。

演奏中、調が変わると色が変わる仕掛けになっていまして。ちょっと弾いてみましょうか。
(弾くとライトの色が変わる)

これは最新のAIによって、勝手に色が変わるんです……なんてことはなくて、スタッフさんが変えています。
(会場、おおっとどよめきかけて、すぐに爆笑)」

演奏が始まると、ジェットコースターに乗っているかの如く、さまざまな景色が次々と飛び込んで来て、めちゃくちゃ楽しかった……!

特に、暖色系の辺りの演奏が好みでした。
いやあ、この演奏も、もう一度聴きたい。
トルコ行進曲がこんなにもドラマチックかつお洒落で、かっこよく生まれ変わるなんて……!
音楽による、すんごいアトラクション体験でした。
これは、たくさんの人に味わって欲しい。

クラシックに興味のない人、生のコンサートに行ったことがない人、このツアーを聴きに来たらめちゃくちゃイメージ変わりそう。

「クラシックってこんなにカッコ良くて、お洒落なの!? めちゃくちゃ楽しかった!」
って思う人、たくさんいるんじゃないかなと。

上手く言葉に出来ないんだけど、他のどのソリストさんの演奏でも、まず感じたことのない感覚になるんですよね。
角野さんの子供の頃の夢は、「ディズニーランドになりたい」だったと語っておられましたが、まさにテーマパーク体験をしたような、そんな気分になったので、本当に夢を叶えてしまわれたんだなと思いました。
ときめきとワクワクがいっぱい詰まった角野ワールド、最高です!

大猫のワルツ

「ピアニストと言うものは、舞台上で孤独になりがちなんですけれども、見ての通り、たくさん鍵盤がありますね。(休憩時間中に鍵盤ランドが出来上がっている)
たくさんの鍵盤に囲まれていると、守られているみたいで、心強いです!」

そう述べて、笑顔で弾き始めた本日の大猫は、一味も二味も違いました。

即興の名手でもある彼は、過去にも大猫に色んな遊び心を加えた演奏をされていますが、今回はより多彩な表情をつけられていて、とっても楽しくてハッピー溢れるひと時に。

この曲は、角野さんの実家の飼い猫、プリンちゃんがモデルだそうですが、いつもよりもたくさん駆け回り、ニャアと鳴く声も、これまでより何だか甘えたような、ゴキゲンそうな声……ありありと映像としてそれが目に浮かぶ不思議な感覚に。

穏やかで暖かくて、ささやかな幸せのお裾分けを頂いたような時間でした。

パリのアメリカ人

ガーシュウィン作曲の、パリのアメリカ人。
事前に予習で聴いた時、角野さんの個性とすごくマッチしそうな曲だなと言う印象を持っていました。

と言うのも、ガーシュウィンの作る曲に散りばめられた茶目っ気と近しいものを、角野さんのお人柄、演奏、作る曲の中に時折感じるんです。

過去のオケによる演奏、ピアノソロの演奏、いくつか聴きましたが、この日の演奏はそのどれとも違う体験でした。
一人で複数の鍵盤を駆使しながら、角野さんがホールに、パリのアメリカ人の世界を幻出させる魔法をかけ、観客はひと時、日常から切り離された異世界でアトラクション体験をした……文字に表すと、そんな感じになるでしょうか。

めちゃくちゃ生きの良い、鍵盤から飛び跳ねるような音から始まり、トイピアノの陰から現れた鍵ハモや、アップライトの哀愁漂う音色にうっとりし、ユーモア溢れる演奏に惹きつけられ、もう、楽しすぎました。
ハッピーが渋滞してる! すごい!!

角野さんが楽譜に息吹を吹き込むと、ついさっき生み出された新曲みたいにきらきらと輝き始めます。

彼は作曲、編曲、即興もする人と言うのも、この魔法が使える秘密なのかもしれません。

ボレロ

出だしから、演出で観客を惹きつけるスタート。

これを観て、ふと思い出したのは、2020年末のリサイタル配信
照明を魔法のように操るクラシックコンサートに当時、度肝を抜かれましたが、今回もあっと言わされました。

みんなを楽しませようと言う気持ちが伝わります。

そんな彼のチャーミングなお人柄に触れて、改めて素敵な方だなあと思いました。

そこから曲が進むにつれて、華やかになる音色と共に、徐々にステージが明るく照らし出されて行きます。
本当に一人で弾いているのか信じられないような音色の厚みと豊かさ。
クライマックスは、その細い体躯からは想像も出来ないような、大迫力の音にガンガン心が揺さぶられます。

何か、今私はすごいものを見てるぞ……!(語彙喪失)

爆発する音のエネルギーに圧倒。
すごい体験でした。

アンコール

割れんばかりの拍手に包まれる会場。
カーテンコールで角野さんが顔を見せると、ヒューと歓声があちこちから上がる盛り上がり。

会釈やお辞儀をしつつ、彼はマイクを手に取りました。

「皆さん、楽しんでいただけましたでしょうか。(拍手で応える観客達)ありがとうございます。

今年は年初から色々とありましたけれども、音楽の力……と言うと、少しおこがましいかもしれませんが、このコンサートで何かキーになるようなものを持って帰って頂けたら嬉しいなと思います。

最近、3つのノクターンと言う曲を作りましたが、それを少し弾いてみましょうか。(拍手)

まだ正式な名前はない曲なんですが。

ノクターンは夜想曲と書きますけれども、この曲は夜明けの曲です」

3つのノクターン

映画「君の名は」で使われたRADWIMPSのsparkleの最初のピアノの音を想起させるような、音の粒が散りばめられているけれど、雰囲気は少し異なります。

私的には、朝焼けの中にうっすら光る星の瞬き、森に漂う霧の粒の煌めき等を思い起こさせるような、静けさを含んだ音色。

夜明け前、まだ眠っている人も多い時間帯。生命の営みを思わせるエネルギーの大半が底の方に沈んでいるが、それが今にも動き出そうとしている感じ。

早朝、街の中を散歩した時に感じる雰囲気が近いかもしれません。

静謐さをベースに漂わせつつも、温かな空気感で、聴いていると、とても穏やかで優しい気持ちに。

明けない夜はない、と言う希望の光を感じさせるような、そんな曲でした。

披露したのは3つの内の、冒頭の一つ?
他の公演では別の部分を弾かれるかも。
めちゃ気になるので、是非とも聴きに行かれた皆さんの感想をお待ちしています……!

きらきら星変奏曲イ短調

「ここからは撮影OKなので、皆さんお好きに写真を撮って頂ければ!(どよめき、慌ててスマホを構え出す観客達)
いつも同じだと面白くないので、調を変えてみようと思います。今日はイ短調で」

この試みは今回が初では!?
30秒ルールでSNSに載せて良いとのことなので、記念にアップしてみました。
個人的にセンス爆イケ過ぎて大好きな演奏箇所を。

即興でさらっとこんなにかっこよく演奏する場に、生で居合わせられる幸せと言ったらもう……!
こう言うのもコンサートの醍醐味ですよね。
最高!

おわりに

終わった後、「楽しかった〜!」と叫び出したくなるような、素敵なコンサートでした。
アトラクション体験をしたようなワクワクやときめきが詰まった、夢のようなひと時。

これから日本中に、この素敵な体験を広げて回る彼は、まさに移動遊園地のような存在かもしれません。
あるいは花咲かお兄さんかも。

みんなを音楽で幸せにして回る、素敵な人。

帰り道、近くにいる若いお兄さん二人が「日本にこんなすごい人がいて良かった」と話しているのが聞こえたのですが、私もおんなじ気持ちです。

同時代にリアルタイムで生演奏が聴けて、本当に幸せだなあと。

素晴らしいコンサートをありがとうございました!

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