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ピアソラ・フェス「リベルタンゴ」住友生命いずみホール

 黄昏時に訪れる住友生命いずみホール。

 この時間は、あの世とこの世が繋がる時間とも言われるが、ピアソラ生誕百周年を記念する特別なコンサートと言う、非日常の別世界に訪れる演出としては、相応しい時間と思えた。

 今回初めて訪れたホールは、木の温もり溢れるクラシックなデザインで、私的にとても好み。
 ウィーン楽友協会大ホールを参考に設計されたそうで、シューボックス型をしており、音の響きはとてもまろやかだった。

 始まる前にトイレは済ませておく主義だが、このホールはトイレの数が多めで、とても綺麗に整備されており、好感度が高い。

 開演前になると、ステージ照明が灯って舞台全体が浮き上がって見え、ワクワク感が高まる中、客席照明が消え、ステージ照明が全体を照らすものから、演奏者個人へのスポットライトに代わる。
 曲変更の度に、照明の切り替えが行われていたのだが、この演出が非日常感をより強めており、曲と言う別世界へすっと入れるようにしてくれる、とても良い効果を出していた。

 また、曲の合間のトークはなしだったが、間で途切れることがないため、ずっと夢の中に浸っていられて良かったと思う。

 後、すべての楽器にマイク&アンプ有だったが、個々の楽器の音が良い感じに客席まで響いて来たので、今回はベストな選択だったのでは、と個人的に感じている。

出演者

三浦一馬 バンドネオン
上野耕平 サクソフォン
林周雅 ヴァイオリン
山中惇史 ピアノ
伊藤ハルトシ ギター&チェロ
ゲスト 角野隼斗 ピアノ
プログラム

三浦一馬 編曲 ※アディオス・ノニーノ以外

来たるべきもの 独奏:三浦一馬
アディオス・ノニーノ 独奏:山中惇史
天使のミロンガ
乾杯
タンゴの歴史より「カフェ1930」
タンゴの歴史より「ナイトクラブ1960」
フーガと神秘
デカリシモ
エスクアロ(鮫)

リベルタンゴ
現実との3分間
レオノーラ愛のテーマ
ブエノスアイレスの冬
ブエノスアイレス午前零時
バンドネオン協奏曲“アコンカグア”より第1楽章

アンコール2曲


来たるべきもの
 初めてのバンドネオンの生演奏視聴。
 マイク有とは言え、音が思っていた以上に響いて来る。
 哀愁と色気、時には剽軽さまで漂わせる、魅力的な音色。
 三浦さんの演奏で、別世界への旅が始まった。

アディオス・ノニーノ
 今回のプログラムのほとんどが三浦さん編曲だが、この曲だけは山中さん編曲で、彼自身によるソロ演奏である。
 しっとりと聴かせるピアノ。
 世界観をとても大切に弾かれている印象を受けたが、彼が作曲家でもあるため、そう感じさせるのだろうか。
 より深くピアソラの世界に没入していく中、演奏は終了。

天使のミロンガ
乾杯

 三浦さん&山中さんで、続けて二曲演奏。 
 ここからは、楽器二つによる演奏が続く。

タンゴの歴史より「カフェ1930」
タンゴの歴史より「ナイトクラブ1960」

 ここで、サクソフォンの上野さんが登場。山中さんのピアノとのデュオ。
 サクソフォンの音色を聴くのも今日が初めてだが、正直言って、めちゃくちゃ感動した。
 何だ、あの七色の音色!
 伸びやかで、深みもあって、人の声のように雄弁に歌うサクソフォン。
 途中、息の音だけをパーカッシブに聴かせる特殊奏法と思われるような技も登場して、惹きつけられた。
 画面越しと生で聴く音が違いすぎる楽器だと思う。激しいギャップ萌えに陥った。

フーガの神秘
デカリシモ
エスクアロ

 この三曲は、今まで登場した三浦さんのバンドネオン、山中さんのピアノ、上野さんのサクソフォンによる演奏。
 曲が進むごとに、ワクワクが膨らんで行って、エスクアロの演奏直前には、自然と笑みが溢れるのが止められず、コロナ禍でマスク必須の状況で助かったと思った。
 マスクがなければ、ニヤニヤ笑いが止まらない変な人になっている所だった(笑)。

 ここで、十五分の休憩タイム。
 五分刻みでの表示だが、残り時間がステージ横に表示される親切設計。
 この時、ピアノの椅子の交換作業がひっそりと行われており、それと合わせて、譜面台にiPadと思しきものが置かれた。
 「これはもしや……」と期待が募る。

リベルタンゴ
現実との3分間
 休憩時間後、ゲストの角野さんが登場。

 リベルタンゴ、最初は角野さんのピアノの即興演奏で幕開け。
 即興演奏の終わり間際、角野さんが指パッチンをしたと思われる音が響き、その直後に他のメンバーの特殊奏法と思われる、面白い音が連発。
 ワクワク感が最高潮に盛り上がった所で、楽譜のよく知るメロディーが鳴り響く。
 全員、身体全体で音楽に乗りながらの、とても楽しそうな演奏に、客席の側も興奮が高まる。
 自然と身体が横揺れしていて、気付いて最初は止めようと思ったが、どうせみんなの視線はステージに集中しているし、良いやと、全身で音楽を感じて、音の波に乗りながら聴いた。

 現実との3分間は、角野さんのカウントと共にスタート。緊張と弛緩、楽器同士の掛け合いが最高に気持ち良かった。

 その後、イスが交換され、プログラムが進む。

レオノーラ愛のテーマ
ブエノスアイレスの冬
ブエノスアイレス午前零時
バンドネオン協奏曲“アコンカグア”より第1楽章


 三浦さん、上野さん、林さん、山中さん、伊藤さんの五人で、プログラムの残り四曲を一気に演奏。
 レオノーラ愛のテーマは少しゆったりした曲調で、一旦ここでクールダウン。しっとりと曲の世界を聴かせる演奏に浸るひと時を過ごした。

 ブエノスアイレスの冬は、今回のプログラムの中でも、リベルタンゴと並ぶ位好きになった曲。
 緩急があり、一曲の中で様々な風景を見せてくれて、ドラマチック。

 ブエノスアイレス午前零時は、始まりで特殊奏法と思われる不思議な音が各楽器で鳴らされながらのスタート。
 午前零時、と言うタイトル通り、少し不思議な雰囲気が漂うメロディ。
 個人的には妖精や幽霊が、ひょっこり出てきそうなイメージの曲。

アンコール2曲
 事前の予習が不十分だったため、タイトルがわからなかったのが残念だが、楽しいひと時だった。
 一曲目は、直前と同じメンバー。
 二曲目は、角野さんを加えた六人で演奏。

 ピアノは角野さんと山中さんでの連弾。感染対策のため、二人のみマスク着用。高音部を角野さん、低音部を山中さんが演奏。
 二曲目の終わりに、二人でグリッサンドしまくりで、とても楽しそうだった。

 最後、演奏が終わった直後に帰りの案内アナウンスが鳴ったので、拍手で演奏者の皆さんを引き留めることは叶わなかったが、終演時間が遅めなので、帰宅を急ぐ人も多いだろうし、無駄のない進行で良かったと思う。


 公演の間の十五分休憩と、帰路に一気書きしたものを、帰宅後、その日のうちにまとめた。
 正確性に欠けたり、誤字が目立ってそうだが、興奮が冷めない内に頑張って書いたので、感じた熱量が少しでも伝わったら嬉しい。

 ***

 余談だが、出発時、扉を開けたら大きくて色鮮やかな、美しい蝶々がいた。
 私はお盆の時期等によく蝶々を見るので、蝶々を見るとご先祖様が子孫を見に来られているのかも、と勝手に思っている。
 これは母から聞いた話だが、母方の祖父が、かつて、ピアソラの曲をよく聴いていたらしい。
 もしかしたら、祖父がピアソラのコンサートに行く私を、「良いコンサートのチケットを買ったじゃないか! 見る目があるぞ!」と言いに来たのかな、と思っている。

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