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ASH 2022前復習 | 多発性骨髄腫対象のCAR-T

2022/11/28時点での、多発性骨髄腫を対象としたCAR-Tの開発状況をまとめてみました。

IND: Investigational New Drug。米国で治験を開始する前にINDをFDAに提出し、承認される必要がある。CR: Complete Response, sCR: Stringent CR, mPFS: median Progression-Free Survival, CRS: Cytokine Release Syndrome, ICANS: Immune effector Cell-Associated Neurotoxicity Syndrome, GvHD: Graft versus Host Disease

Abecma, Carvyktiはすでに上市されており、AbecmaはCarvyktiに比べ有効性が弱い一方、Carvyktiはよく効くが毒性が強いという特徴があります。両製品とも製造が需要に追いついていないことが課題となっています。

治験中の製品には上記5つがあるようです。開発が進んでいる順に上から並べており、有効性・安全性・開発進捗などを考慮するとArcellx社のCART-ddBCMAが最も優位にあると考えられます。そこで今回はArcellx社に絞ってその優位性を調査していきたいと思います。

そもそもCAR-T療法とは

CAR-T治療の概略

CAR-T療法では患者さんまたは健常人からT細胞を取り出し、そのT細胞にCAR遺伝子を導入します。製品によって、どの抗原を認識するCARを導入するか、導入方法などは異なってきます。骨髄腫細胞ではBCMAやGPRC5Dなどが発現していることから、これらをターゲットとするCAR-T製品が開発されています。

遺伝子導入処理したT細胞たちは十分量まで増殖された後、患者さんに投与されます。なお、CAR-T投与前に前処置として免疫抑制薬などが投与されます。これにはCAR-Tの効果を減弱させてしまう制御性T細胞の働きを抑える目的があります。

Arcellx社のCART-ddBCMA

Arcellx社 Corporate Presentation October2022を基に作成
cFvは従来のCAR-T(Abecma等)で採用されている抗原認識部位

Arcellx社のD-Domainプラットフォームは、患者T細胞に導入する抗原認識部位が小さいことが特徴です。遺伝子導入処理では一般的に、大きい遺伝子ほど導入効率は下がるため、以下効果が期待されます。

CAR遺伝子の導入効率up
T細胞表面でのCAR発現数も増え、抗原結合力があがる。
・CAR-T投与が低用量で済み、毒性を抑えられる。
CAR遺伝子陽性のT細胞割合が多く、製造期間の短縮につながる。

また、T細胞表面に発現するCARが小さく凝集率が下がるため、CAR-T細胞が疲弊せず機能不全に陥らないことも利点のようです。

既に上市されているAbecma、Carvyktiとの比較しても高いCAR遺伝子導入効率であることが示唆されています。

Arcellx社 Corporate Presentation October2022を基に作成


Arcellx社の株価と関連イベント

2022/5/26      ASCO Abstruct 公表
2022/6/5        ASCO 発表
   2022/8/2         ASH Abstruct 締め切り
2022/11/3      ASH Abstruct 公表
2022/12/11         ASH 発表

2022年2月にIPOされ、高金利の環境から株価は右肩下がりでしたがASCO Abstructの公表を機に上昇に転じています。今後の注目イベントとして12/11(日) ASHでの口頭発表が控えています。

今後留意すべきこと

11/3に公表されたASH Abstructには、6/5 ASCO口頭発表以降の新規データが含まれていませんでした。これについては、ASCOの発表(6/5)からASHのAbstruct締め切り(8/2)まで2か月しかなかったため、妥当であると考えます(悪いデータが出ていて、その発表を先延ばしにするために新規データがASH Abstructに含まれなかった、という理由ではないはず)。

しかし、12/11 ASHの発表では追跡期間が数か月延びたデータが発表される予定です。新規データの良し悪しがArcellx社の株価に影響を与えると予測されますが、特に再発が極端に増えていないかどうかに注目しています。

以下は市販品Carvykti, Abecmaとの比較です。再発率はAbecmaが一番高く、次いでArcellx社のCART-ddBCMA、Carvyktiの順になっているようです。また、MRD(腫瘍残存病変)が残っていないほど再発の可能性も低いことが言われており、CarvyktiとCART-ddBCMAはMRD陰性率が高く出ています。

CART-ddBCMAはサンプル数が少ないので追加データを分析することも必要とも考えていますが、現在のデータを見る限り再発率がAbecma並みに下がることはなさそうです。

* Kaplan-Meier曲線からの推定




以下記事でも多発性骨髄腫を対象としたCAR-T製品を詳しく解説しております!


参考文献

1. ASH 2022 Abstruct 3313 Phase 1 Study of CART-Ddbcma for the Treatment of Subjects with Relapsed and /or Refractory Multiple Myeloma
2. ASH 2022 Abstruct 2019 Universal Updated Phase 1 Data Highlights Role of Allogeneic Anti-BCMA ALLO-715 Therapy for Relapsed/Refractory Multiple Myeloma
3. FDA Package Insert - ABECMA
4. FDA Package Insert - CARVYKTI
5. ASH 2021 UNIVERSAL Updated Phase 1 Data Validates the Feasibility of Allogeneic Anti-BCMA ALLO-715 Therapy for Relapsed/Refractory Multiple Myeloma
6. https://ir.gracellbio.com/static-files/274fbf89-5c6e-4a08-b958-f3ab5d6234e1
7. Kourelis T, et al: Ethical challenges with CAR T slot allocation with idecabtagene vicleucel manufacturing access. 2022 ASCO Annual Meeting. Abstract e20021.
8. Munshi et al. NEJM 2021, DOI: 10.1056/NEJMoa2024850
9. Usmani, S. Phase 1b/2 study of ciltacabtagene autoleucel, a BCMA-directed CAR-T cell therapy, in patients with relapsed/refractory multiple myeloma (CARTITUDE-1): Two years post-LPI. Abstract #8028 [Poster]. Presented at the 2022 American Society of Clinical Oncology Annual Meeting.
10. ASH 2022 Abstruct 364 Clinical Activity of BMS-986393 (CC-95266), a G Protein–Coupled Receptor Class C Group 5 Member D (GPRC5D)–Targeted Chimeric Antigen Receptor (CAR) T Cell Therapy, in Patients with Relapsed and/or Refractory (R/R) Multiple Myeloma (MM): First Results from a Phase 1, Multicenter, Open-Label Study 
11. ASCO 2022 Phase I open-label single arm study of GPRC5D CAR T-cells (OriCAR-017) in patients with relapsed/refractory multiple myeloma (POLARIS)


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