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Arcellx、Allogene、Gracell社 | 多発性骨髄腫対象のCAR-T Phase1速報

多発性骨髄腫を対象としたCAR-Tで、Phase1 試験の速報を出している企業にArcellx社、Allogene社、Gracell社の3社があります(2022/11/13時点)*。これらCAR-Tの特徴や、現在上市されているCAR-T製品の課題をどう解決しうるか、詳しく見ていきたいと思います。

なお、既存のCAR-T製品の課題等は以下記事で紹介しています。

*Bristol Myers SquibbやOricell社も多発性骨髄腫対象のCAR-T(標的抗原:GPRC5D) Phase 1速報を出していますが、公開データが少ないため今回は割愛します。

開発会社、開発品

Gracell社のみ本社は中国で、FDAへのINDがまだ提出されていない点に注意したいと思います。

*IND: Investigational New Drug。米国で治験を開始する前にINDをFDAに提出し、承認される必要がある。

対象ライン、市場規模

Arcellx社、Allogene社は4次治療以降、Gracell社は再発難治と定義される患者を治験に組み入れています。
Arcellx社は投資家向け資料で多発性骨髄腫対象のCAR-TのTAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)は100億ドルとしています。非常に簡略化した計算ですが、シェア25%を占めた場合の売上高「25億ドル/年」を基にしたPSRは以下のようになります。

時価総額は2022/11/13時点

上記は仮に製品が承認されるとした場合の皮算用ではありますが、各社から良好な臨床データが出され、TAM100億ドルが投資家から意識された際には、いずれの会社も低PSRと考えることもできます。

製品の特徴

Arcellx社のD-Domainプラットフォームは、患者T細胞に導入する抗原認識部位を小さくすることで、以下効果を狙っています。

Arcellx社 Corporate Presentation October2022を基に作成
scFvは従来のCAR-T(Abecma等)で採用されている抗原認識部位

CAR遺伝子の導入効率up
・CAR-T投与が低用量で済み、毒性を抑えられる。 
T細胞表面でのCAR発現数も増え、抗原結合力があがる。
CAR遺伝子陽性のT細胞割合が多く、製造期間の短縮につながる。
凝集率の低下
・CAR-T細胞が疲弊せず、機能不全に陥らない。

既に上市されているAbecma、Carvyktiとの比較しても高いCAR遺伝子導入効率のようです。

Arcellx社 Corporate Presentation October2022を基に作成


一方、Allogene社のAlloCAR Tプラットフォームは、患者のT細胞を使用するのではなく、健常人のT細胞を遺伝子改変し、多発性骨髄腫の患者に投与する方法をとっています。どの患者にも投与できるユニバーサルなCAR-T細胞を健常人のT細胞から予め大量に作成しストックしておくことで、患者が治験に登録されてからわずか5日間(中央値)で治療開始できるとの結果が出ています。

既に上市されているAbecmaやCarvyktiは、製造日数の中央値はそれぞれ33日、32日のため、この点は非常に優位であると言えます。

Gracell社は、BCMAに加えCD19も標的とする二重特異的なCAR-Tを開発しています。また、同社のFasTCARプラットフォームでは、高品質な遺伝子導入ベクターを用いることで、CAR-T製造に2日間しかかからないとしています。

有効性

Arcellx社とGracell社の製品が奏効率、完全奏効率、ともに良い成績を出しています。Allogene社は2つの用量(FCA39, FCA60)を設定していますがいずれも完全奏効率が低く、奏功期間についても12か月時点で70%以上の患者が再発しています。Allogene社は他のAlloCAR T製品の治験も実施していますが、そちらも奏功期間が短いことが指摘されています。

安全性

どの製品もCarvyktiで問題になっているような重篤な神経毒性(Grade 3以上のICANなど)は発生していないようです。Allogene社のみ同種製品(患者本人以外のT細胞を利用)のため移植片対宿主病(GvHD:Graft versus host disease)が懸念点としてありますが、現時点でGvHDは報告されていません。

*移植片対宿主病:他人のT細胞が、患者の正常細胞を異物とみなして攻撃することによって起こる

上市品(Abecma、Carvykti)との比較

Allogene社の製品は有効性がイマイチのため割愛しました

Arcellx社、Gracell社ともに症例数や追跡期間が少ないため続報を確認する必要がある前提ですが、奏効率・完全奏効率はCarvyktiに劣らない結果と言えるでしょう。奏功期間について、Gracell社は患者背景が悪かった(ハイリスクの患者が多かった)としています。

安全性についてはArcellx社、Gracell社ともに重大な神経毒性は報告されておらず、現時点ではCarvyktiより優れていると考えます。

製造について、Arcellx社、Gracell社ともに実臨床でも製造期間が短縮されるのか、根拠情報が限られているため、有望なデータが出てくるのを待ちたいと思います。

まとめ

CarvyktiはAbecmaに比べ「有効性は優れているが安全性に問題あり」の状況でしたが、Arcellx社、Gracell社の開発品が上記Carvyktiの課題を克服できる可能性があると考えます。
Gracell社は製造も中国工場のため昨今のサプライチェーン混乱への不安や、まだFDA INDが承認されていない状況から、Phase 2 への準備をすでに進めているArcellx社に注目しています。特にArcellx社製品の奏功期間(短期間で再発しないか)のデータアップデートに着目していこうと思います。

参考文献

1. ASH 2022 Abstruct 3313 Phase 1 Study of CART-Ddbcma for the Treatment of Subjects with Relapsed and /or Refractory Multiple Myeloma
2. ASH 2022 Abstruct 2019 Universal Updated Phase 1 Data Highlights Role of Allogeneic Anti-BCMA ALLO-715 Therapy for Relapsed/Refractory Multiple Myeloma
3. FDA Package Insert - ABECMA
4. FDA Package Insert - CARVYKTI
5. ASH 2021 UNIVERSAL Updated Phase 1 Data Validates the Feasibility of Allogeneic Anti-BCMA ALLO-715 Therapy for Relapsed/Refractory Multiple Myeloma
6. https://ir.gracellbio.com/static-files/274fbf89-5c6e-4a08-b958-f3ab5d6234e1
7. Kourelis T, et al: Ethical challenges with CAR T slot allocation with idecabtagene vicleucel manufacturing access. 2022 ASCO Annual Meeting. Abstract e20021.
8. Munshi et al. NEJM 2021, DOI: 10.1056/NEJMoa2024850
9. Usmani, S. Phase 1b/2 study of ciltacabtagene autoleucel, a BCMA-directed CAR-T cell therapy, in patients with relapsed/refractory multiple myeloma (CARTITUDE-1): Two years post-LPI. Abstract #8028 [Poster]. Presented at the 2022 American Society of Clinical Oncology Annual Meeting.

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