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Well-To-Wheelという考え方。EVとICEV、本当に環境に良いのはどちらか?

社会人一年目です。こんにちは。
色々と自動車関連の技術について調べる機会が増えたのですが(当たり前)、その中で気になるテーマがあったので備忘録も兼ねて。
(カバー画像は先の東京モーターショーで発表されたLEXUS LF-30 Electrifiedです。実際に観に行きましたがすごく惹かれる一台でした。。)

「クリーンなクルマ」とは?

突然ですが。世間では、
「BEV (Battery Electric Vehicle) /HEV (Hybrid  Electric Vehicle) /FCV (Fuel Cell Vehicle) などの電動車は排気ガスを出さないのでクリーン
「従来のICEV (Internal Combustion Engine Vehicle) はガソリンを燃焼させてCO2を排出するのでクリーンではない」というイメージが存在するかと思います。
確かに、BEVやFCVに乗って街中を走っている限りは有害物質をほとんど排出しません。過去には自動車の排気ガスが原因でさまざまな公害が発生したこともありますので、電動車はクリーンだ!という印象を市民が持つのは当然なことだと思います。

そういった話をTwitterでしていると、クルマに詳しそうなオジサンがどこからともなく現れてこうリプライを送ってくるでしょう。
「電気を作るのにどうせ石炭やLNGを燃やしまくってるから、意外とEVってエコじゃないんだヨ!」と。ウザいですね文体が。

しかし、オジサンの言うことにも一理あります。確かにEVの動力源である電気の一部は、港にどデカく居座っている火力発電所で、石炭や天然ガスをバリバリ燃やして作られているでしょう。さて、EV (ここではFCVを除きます) とICEV、本当はどちらがより”クリーン”なのでしょうか?

「Well-To-Wheel」という考え方

先述した通り、ガソリンを燃やし、実際に自動車の中に搭載されたエンジンによって動力を得るICEVと、発電所で作られた電気を用いて動力を得るEVでは、単純な比較は出来ません。そこで重要になってくるのが「Well-To-Wheel」という考え方。

これは、その名の通り「燃料を手に入れる段階から、自動車を実際に駆動するポイントまでの経路で排出されたCO2の総量」を考えるというものです。これに対し従来の「タンクに貯蔵されたガソリンを燃焼させ、自動車を駆動するポイントまでのCO2の総量」は「Tank-To-Wheel」の考え方と呼ばれます。
2017年ごろから、電動車が市場に台頭していくにつれ、この「Well-To-Wheel」について活発に議論が交わされています。
その際の様々な資料を参照しながら、実際どっちがクリーンなのよ?という話を進めていきたいと思います。

「駆動」だけで言えば結局EVがクリーン

資源エネルギー庁が2018年8月に公開している『「電気自動車(EV)」だけじゃない?「xEV」で自動車の新時代を考える』という記事の中に、従来のガソリン車も含めたCO2排出総量をまとめたグラフがあるので引用させていただきますと、

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(出典)IEA「World energy balance 2017」、エネルギー・経済統計要覧2017などを基に試算

ガソリン車のCO2排出量を100%とすると、今出回っているハイブリッド車でも69%電気自動車だと59%のCO2しか排出しないという試算です。
ガソリン車も油田から原油を掘り出し、精製し、タンクローリーで輸送し…という手順を踏まなければならず、かなり厳しい結果になることは予想していましたが、正直ここまで如実に差が出ているのは予想していませんでした。
また、この係数は、各国がどのようなエネルギーを用いて電気を生み出しているかといった状況によっても大きく変動します。
グラフ中のデータによると、日本は電力の32%を石炭火力発電によって産み出しています。この石炭火力発電の比率が、そのままWell-To-Wheelの係数に直結するわけです。
例えば、国策として原子力発電を推進しているフランスとノルウェーの数値を見てみると、それぞれEVのCO2排出総量はガソリン車の5%、1%と驚くべき数値です。ノルウェーではEVが100台走っているのとガソリン車が1台走っているのとでは、走行時のCO2排出総量は変わらないのです。
それとは反対に、電力の75%を石炭火力発電によって賄っているインドではガソリン車の96%と、ほぼ変わらない数値となっています。こうした状況では、まだオジサンの言うように従来のICEVに乗っていても環境に与える影響としてはEVと変わらない、という話になります。ただし、旧車の場合はもっと排出総量が大きいはずですが。

また、2019年現在の日本では、電力の約27%を石炭火力で賄っています。(https://www.isep.or.jp/archives/library/12541 ) ですのでグラフ中の数値(2015年)より5%下がっている計算になりますね。その分EVの排出総量としてはよりガソリン車より下がっている予想が立てられます。

このように、Well-To-Wheel で考えても、従来のICEVよりBEV、HEVといった電動車がより地球に対して「クリーン」であるといえます。
地球の気候変動はますます激しさを増し、一刻も早い行動が求められます。一人ひとりできることを着実に進めていきましょう!



車両全体での「ライフサイクル」

…とはならないんですよね。確かに、エネルギーの観点だけで言えば電動車がより効率に優れていることは明らかです。
初めに記したようにそのクリーンなイメージと相まって、電動化を推進していきましょう!という流れが自動車業界には強く存在します。
対して、本当にそれはクリーンなのか?と疑問を投げかけ、世の中の流れに一石を投じている自動車メーカーが存在します。

マツダです。

技術開発の中長期的な指針である「サステイナブル "Zoom-Zoom"宣言2030」において、マツダは将来のパワートレイン、特に電動化戦略について触れています。
ミスリードがないようにはじめに言っておくと、別にマツダは全く電動化に舵を取らず、エンジン一辺倒でギャンブルを進めていくということではありません。現にこの宣言を解説している公式ブログ ( https://blog.mazda.com/archive/20180516_01.html )を見てみると、

マツダは、2019年から次世代エンジン「SKYACTIV-X」や「Mild HV(マイルドハイブリッド車)」「BATTERY EV(電気自動車)」を導入します。また、2020年にはディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」の第2世代を、2021年以降には「Plug-in HEV(プラグインハイブリッド車)」も追加する予定です。

とあり、内燃機関と電動化の両立を図っています。
しかし、一部メディアでは先程のような「マツダは電動車よりガソリン車の方がエコだと考えている」という報道がなされることがあります。
これもまた事実であり、同じく「サステイナブル "Zoom-Zoom"宣言2030」の中では、

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LCAの手法を用いて、電気自動車と内燃機関車のCO2排出量をライフサイクル全体で比較すると、小さいバッテリーサイズのEVの方がCO2排出量が少ない傾向があることが分かります。また、ライフサイクルの後半になると、バッテリーの性能を維持するためにバッテリー交換が発生するため、小さいバッテリーサイズのEVと、内燃機関車のCO2排出量はほぼ同じになりました。
https://www.mazda.com/ja/csr/special/2019_02/ )

という節が存在します。文中の「LCA (Life Cycle Assessment)」とは、

製品や構造物に対する環境影響評価の手法。原料の調達から部品・部材の加工、製造から解体・廃棄に至る全過程で生じる環境負荷を分析・評価する。
 ( https://www.denso.com/jp/ja/csr/environment-report/ecovision/clean/clean03/ )

つまり、マツダは「単に動力エネルギーだけで比べると確かにEVの方がクリーンだけど、EVを製造するコストや、バッテリーのメンテナンス、交換のコストも含めたライフサイクルで考えたらそんなに優位じゃないよ」ということを言いたいわけです。
ただし、この方針の根拠である論文の中のデータが現状に即していない点、バッテリーや電動化技術の加速度的な技術革新を考慮しきれていない点などで再考の余地があるようです。詳しく述べている記事がありますので、お時間ある方は一読していただければと思います。

また、2019年に開催された「サステイナブルZoom-Zoomフォーラム2019 in 横浜」では、シニアイノベーションフェローの人見氏が内燃機関の将来について講演を行っています。その講演をまとめた記事によると、

ここで海外のいくつかの機関による研究データが示された。バッテリー製造に伴う1kWhあたりのCO₂排出量は、もっとも少ない数値を報告している機関でも110kg、多いところでは120~250kg。(中略)以下のケーススタディではEVの不利にならないよう、最小の110kg/kWhと仮定する。

と条件を提示した上で、

「そうすると、さっき110kg/kWhと言いましたね、平均で。40kWhのバッテリーだとこれの40倍です、4.4t。日産のリーフのようなバッテリーを1個つくるのにCO₂を4.4t出すわけです。20万㎞走るとしたら、1kmあたり22gのCO₂を出すという計算になります。
(別のグラフを示して)それをここ(実用燃費のCO₂排出量)に載せますと、さっきとだいぶイメージが変わってくると思います。内燃機関が12%くらい実用走行時の燃費を改善したら、(火力発電の電力を使ったEV実用燃費の平均排出量に)もう追いつくということです。
だからプリウスなんか電気自動車よりも絶対にいいです。(中略)火力発電で一番きれいなLNGでも、34%くらい改善すれば追いつきます

どうやら、先程記したLCA評価の詳細部分がこのような理論で成り立っており、これこそが「マツダが内燃機関の高効率化に積極的に取り組んでいる」理由なのではないでしょうか。バッテリー製造時のCO2排出量の文献が当該記事中に詳しく載せられていないため、これ以上詳細な考察をすることはなかなか難しいですが、一定の信憑性はあるでしょう。

ただ、これと相反する事実を主張しているメディアも複数あり、2019年11月にBusiness Insider Japanに掲載された記事では、

2018年にヨーロッパを対象として行われたICCTの調査報告でも、同様の結論が出ている。この調査の中でICCTは、製造から運転時を含めたトータルで見ると、ヨーロッパで使われている標準的な電気自動車が排出する温室効果ガスの総量は、同地域におけるガソリン車の平均値と比較して半分程度だと述べている。電気自動車を2〜3年間使用すれば、温暖化物質の総排出量が平均的なガソリン車に並ぶという。
(それでもEVを選ぶべき理由…製造時の環境負荷はガソリン車より大きい | https://www.businessinsider.jp/post-202355 )

とあり、「工場のカーボンニュートラル化が進めば、その差はより如実なものとなり、自動車メーカーはEVを展開していくことが最善の方法だ」という結論でまとめられています。

つまり、EVとICEVどちらがよりクリーンなのか?という問題に対しては、
「走行時のCO2排出総量はEVの方が圧倒的に少ないが、製造・メンテナンス時も含めた長期間の評価では議論の余地がある」
という言葉が現時点での結論なのでしょうか。個人的にはそれを含めても、あと5年もしたらEVが圧倒的優位に立ちそうな気もするのですが。
(はじめに書いたとおり、これは自分の備忘録ですので、間違い・意見等ありましたらコメントにそっと書いてくださると有り難いです)

EV用バッテリーの今後

ここまでお読みくださった方は(ありがとうございます)お分かりかと思いますが、EVが本当にクリーンかつ効果的なツールなのか?という点は、今後のLCA上でのCO2排出総量の削減、そしてEV自体の低価格化にあるのではないでしょうか。

高いハイブリッド技術を有し、日本におけるモビリティ電動化の旗印となっているトヨタも、自社の「Sustainability Data Book 2019」上にて、新型ハイブリッド車のLCA上でのCO2排出総量が6%マイナスとなったことをトピックに挙げています。

キャプチャ

Challenge 1 新車CO2ゼロチャレンジ | 環境チャレンジ2050 | ESG(環境・社会・ガバナンス)に基づく取り組み | サステナビリティ | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト https://global.toyota/jp/sustainability/esg/challenge2050/challenge1/

また、より高性能かつカーボンニュートラルなバッテリーを製造するため、トヨタはパナソニックと合同で新会社「プライム プラネット&エナジーソリューションズ株式会社」をこの春から計画前倒しで立ち上げました。 ( https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1232971.html )
5,100人という非常に多くの従業員を抱えた新会社です。このことからも両社の本気度を伺い知ることが出来ます。

今回はトヨタに関係する2つのトピックを挙げさせていただきましたが、欧州各社、また日本の他メーカー、そして何よりも中国では国策として同様の動きを見せており、今後はより本格的に車載バッテリーの技術開発が進むものだと思われます。
走行時だけではなく、LCA上でもEVが完全に優位に立つのでしょうか。今後の動向もあわせてチェックしていきたいと思います。

少なくとも2040年まではICEVも一定のシェアを保っているという予想が主流になっていること(自分もそう思います)や、今回のコロナ禍の中で開発のペースがさらに緩むのではないかという見通しなど、他にも電動化を巡ってはさまざまな議論・着眼点があると思いますが、今回は「どちらがCO2を排出させないのか?」という点に絞って書いてみました。

大体noteを書くときは勢いでバ~~ッと書くことが多いのでこの記事も最初は間違いだらけかと思いますが。。。
また自分で気になる点があったらこうしてまとめてみたいと思います。

あとオジサンが例の質問してきたらまずはbioを見る癖をつけましょう。
すみません、この分野は素人なのですが・・・」パターンまじで怖いんで。気をつけよう。


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