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村谷由香里
2017年6月8日 21:50
バイパスを降りると、助手席に座って大人しく音楽を聴いていた彼女が、おもむろに口を開いた。「実家の近くのバイパス沿いにお屋敷山っていう山があってね、その山頂に火葬場があったの。近辺の市町村だとそこにしか火葬場が無くて、だからうちの近くの国道にはしょっちゅう霊柩車が走ってた」 僕はカーステレオの音量を下げて、彼女の話に頷いた。車は、工事を繰り返す狭い道路を走っている。「この辺じゃ霊柩車って全然
2017年6月7日 22:18
彼女はいつも風呂場で死にたがる。今日も風呂場の外のコンセントに千切った電気コードを繋いで、随分長い間その端を握りしめて湯船に浸かっていたらしい。感電死するつもりだったようだ。 結局怖くなって風呂場から出たら、動けないほどすっかり逆上せてしまっていて、彼女はひどい声で僕に電話をかけてきた。僕は急いで駆けつけ、脱衣所に転がっている彼女を抱き上げた。彼女は僕の顔を見て、「いつも悪いわね」 と笑う
2017年6月6日 19:12
姉の住む街に進学が決まり、わたしは姉と、姉の恋人としばらく一緒に暮らしていた。 他人と暮らすなんて、最初は不安と不満でいっぱいだったが、慣れてしまえばどうということもなく、毎日は淡々と過ぎていく。 姉の恋人は大学の研究員で、いつも少し薬品の匂いがした。わたしは彼を見るたび「実験室使用中」の赤いランプを思い出した。「犬が鳴くんだよ」 姉が仕事でいない夜は、彼と二人で食卓を囲んだ。 そ