日記2024年5月⑧

5月25日
晴れ。日陰は涼しい。冷蔵庫が寿命を迎えて喘ぐような駆動音がひどく、庫内もぬるい。これは祖父母が東京都内に小さな生活拠点を持っていたときに使われていたものだからざっと四半世紀以上働いている。私が大学に入って一人暮らしを始めたときに放置されていた家具家電を拝借することになり、ダイニングテーブル、椅子、ベッド、食器棚、電子レンジとともにやってきた。一人暮らしには大きな2, 3人家庭用だがなんでも放り込んでおけるので重宝した。祖父母も老人二人暮らしでさほどたくさんの食料を貯めておくこともなかっただろうけれどしっかりと余裕のある大きさを用意しておくのはよくわかっている。いずれ誰かが使うことも考えていたかもしれない。私が結婚して今の家に引っ越したときにも冷蔵庫は引き続き働いた。二人暮らしにはちょうど、やや狭いが余計に溜め込むこともしないようになっていいかもしれないと思いながら使い続けた。冷凍庫はいつもパンパンだった。野菜室は長ネギがそのままでは入らず、白いところと緑のところに切り分けて包んでいれた。氷は製氷皿に水を張って作る昔ながらのもので、生産力はとても低い。子供が生まれてからは湯冷ましの水が常にあった。今はそこにポン酢の瓶が立っている。ヴヴヴヴヴヴヴヴという16ビートを刻みながら急に静かになり駆動音がうるさかったことに気がつく。夜になると顕著にわかり、そしてそれが老朽化とともにひどくなっていった。最近音がすごいよねという話になり、下の子が生まれる前に買い替えることになった。買い替えるつもりになってから庫内に手を入れると冷却もかなり弱くなっていることに気がついた。私ももう15年使っているので徐々に衰弱されると気づくのが遅れる。さすがに買い替えねばならない。置く場所の寸法を測った。
ヨドバシで見ていると店員さんが声をかけてくれた。丁寧に各メーカーのものを案内してくれ、冷凍庫の容量は結構変わりますねということでスマートな型のものよりは置けるサイズで一番大きいものを選ぶことにした。高いが仕方ない。スマホでAIと連携する機能があり省エネになる。そんな機能は別に要らないのだがどれももれなく似たような機能がついていて避けられなかった。店員さんは行ったり来たりしながら見積もりや配送の手配を進め、搬入や設置が可能かどうか事前に業者が見てから購入決定とすることになった。店員さんに名刺を渡され、この4月からの新入社員の◯◯と言いますと挨拶をされた。新入社員らしく丁寧でありがたかった。今どきは店頭に出ている店員さんと客が個人として繋がって営業が行われるのだなあと感心した。いや、昔からそうなのかもしれないが。後日設置のための計測が来る。子供はずっと歩き回ったり踊ったりしていた。今朝はまた早起きで、平日は起こすまで起きないのに土日には平日よりも早く一番に起きて親を起こす。夕方には眠くなってきてこうして不規則な動きが増えていく。
近所にお好み焼き屋があると知ったので行ってみた。鉄板付きのテーブルで、頼めば店員さんが焼いてくれる。若い女性が焼きながら話をしてくれて、わたしも小さい頃は食べられるものも量も少なくて全部食べられないと思うと余計に食べられなくなって食べるのが苦手だったけれど大きくなるにつれて食べられるようになっていって今は嫌いなものもほとんどない、お母さんに怒られていたけどそれより食べられたことを褒めてもらえたほうがよかったと思う、というとてもいい話で、お好み焼きを焼いてくれるだけでなく我々の子育てに安心をくれた。いいお姉さんだった。立派な人だった。幸せに暮らしてほしい。お好み焼きは山芋がけっこう入っているタイプでソースも少し凝っていた。もっと普通でもいいがこれはこれでおいしかった。子連れ歓迎の雰囲気が強くてありがたいお店だった。ホールの責任者のお兄さんも親切で、たぶん近くの別の業態の飲食店で働いているのを昔から見ている人だと思う。経営者から新しいお店の運営を任されているのかもしれない。また食べにいくと思う。
本屋で子供向けの日本地図、カタカナ表、ディズニーの英単語表を買った。すごい教育熱心な家庭みたいだが、別に親の意向で買ったのではなく子供が欲しがった結果である。日本地図はレゴランド・ジャパンのある名古屋の場所をチェックするためで、カタカナと英語は幼稚園で触れているからだと思う。家の壁に貼り、英単語のものは風呂に貼れるものだったのでそうした。最近らくがき帳にひらがなやアルファベットを書くことに精を出していてえらいなあと思う。今はあまり親から強制しようとは思っていなくて、ひらがなを右から左に並べて単語を作っていてもそのままにさせている。新しいことを自分なりに覚えていくのが楽しいと思えるといいのではないかと思う。子供は風呂からあがってしばらくしたらコテっと寝てしまった。
来週には今の冷蔵庫を処分しているわけだが実感がわかない。

5月26日
妻が用事で出かけるのに途中までついていき、別れたあと子供とゆりかもめに乗った。私も子供も初めてで、線路がないことと運転席がないことに新鮮に驚いた。ゆりかもめは新交通システムといい、ゴムタイヤを履いた車輪で枠の中を走行し、遠隔で制御されているので運転士がいない。一番前に座るとそのまま前の景色が見渡せる。子供は前のガラス窓にへばりついて見ていた。港区から江東区の湾岸エリアを飛ぶように縫って進む。この辺は四季劇場があったなとか、日の出桟橋から小笠原に行ったなとか。レインボーブリッジはトンネルのようで、フジテレビ、有明のテニスコート、東京ビッグサイトと21世紀のゼロ年代的な開発の空気が濃く、しかし今に比べればずいぶん明るく軽い。車窓からコスプレをした人とカメラを構えた人がジオラマのように小さく見えて、調べたらコミティアをやっていた。私は行ったことがない。30分くらいかけて豊洲に着いた。ららぽーとの地下で子供と2人でラーメンを食べた。元気やサービス精神のないお店だったが美味しかったしちゃんとしていたのでよかった。有楽町線で戻り、有楽町駅から東京駅に出た。地下街のレゴショップでゴミ収集車のキットを買った。行くたびに2万円近いものを欲しがるのだが流石に買えない。KITTEの千疋屋で用事を終えた妻と合流して軽く食べ、地下で催されていた宇宙探査関連のグッズなどの展示販売を見た。うちの子は結構宇宙が気になるみたいで、銀河系を拡大したり俯瞰したりしながら惑星や銀河の紹介をするソフトを使ったお姉さんの話をすごくよく聞いていた。電車で帰った。子供は疲れたみたいで、お菓子が買いたいだの電車が見えないだのと泣いて不機嫌で困ったが、かわいいものである。帰ってあっという間にレゴを作っていた。5000円也。風呂場でゆりかもめごっことして車内アナウンスをしていた。明日ちゃんと起きてくれるといいが。

5月27日
子供はちゃんと起きた。えらい。少し雨模様。マッサージに行った。いつもマッサージと精神科の治療の相似点について考えてしまうのだが、今日は施術の品質保証と施術者の社内コンテストについて考えていた。サービスが商品であり、会社がクオリティコントロールをし、施術者は末端の商品販売だとして、施術者の個人性は指名料として数百円に縮減される。客は会社と商品の売買についての契約をする。そうはなっていない日本の保険医療には何がなくて何を保っているのか。
金川晋吾さんの写真展に行こうと上京したら会場が定休日で途方に暮れた。以前にも行った恵比寿の喫茶店に入った。コワモテのおじさんがキッキンで動き回り、若い、と言っても私より上かもしれないお兄さんがテキパキとしかし柔和に案内してくれ、とても感じのいいお店である。コワモテのおじさんはよく見ているととてもいい人である。若い店員さんと交わす言葉がとてもいい。簡潔で威圧感がなく笑顔が添えられる。テーブルが満席だったのでカウンターに通された私はずっとキッチンのマスターの動きを見ることができて最高だった。マスターとお兄さんの真ん中くらいの年齢の恰幅のいいおじさんが店の通帳と現金などをもって銀行から帰ってきて、「すげえ並んでら」「機械的な対応しかしないから」などと愚痴り、マスターが「ああ昔からあるけどなあ、最近はそうだなあ」とコーヒーカップを取りながら笑う。前に来たときもこのおじさんがいた。古い客商売をしているおじさんらしい小気味良い文句は嫌味がなく口当たりがいい。マスターは「食事はちょっと今時間かかりますよ」「コーヒーはすぐ」と新参の私にも声をかけてくれ、ブランドを頼んだら一瞬でペーパードリップを始めた。電熱機の上で常に沸いているお湯をドリッパーに注ぎ、サンドイッチを作り、また注ぐ。目の前で淹れているが、できたコーヒーはお兄さん経由で運ばれてきた。深煎りのスモーキーな香りがして、苦味が太くて甘味もあるけれど軽く飲める美味しいコーヒーだった。こういう喫茶店らしいコーヒーが好きである。尾久守侑『倫理的なサイコパス』を読み始めた。臨床という特殊な場を言葉にするにあたって大事な論点が詰まっている。今度まとめて何か書くかもしれない。
電車で帰り、子供の迎えをした。幼稚園内の英会話教室の日だった。テキストを開いて教えてくれた。今日はFの字。Fの音。foxと2人で言って復習した。英会話教室3回目にして、hungryとかhappyとかwindyとかsnowyとかを使いこなしている。集中して教わる時間があると子供の覚えは早い。教えるー教わるというセッティングは本質的に重要である。
子供はまたお好み焼き屋に行きたいと言ったけれど休みだったのでまたいつものとんかつ屋で夕飯を食べた。妻はまた魚の塩焼きに挑戦をし、綺麗に食べていた。魚は美味しいと言っていた。うつ病患者の家族はどうするのが正解なのかという話になり、答えは出ないのだが、生活をする必要があるよねえという話になった。患者と違う課題に直面する家族について今後もう少し考えたい。
尾上菊之助が来年八代目尾上菊五郎を襲名することが決まった。いよいよ、満を持してという感じである。感慨深い。襲名披露興行は今の菊之助として評価されるものと、菊五郎として飛躍すべき方向と、両方を見せるような演目構成になるようで、そのビジョンの確かさと生真面目さが非常に菊之助らしくて感動してしまった。
子供が家の壁に貼ったカタカナ表で「リ」を発見したので、カタカナ表でもひらがな表でも「り」の上は「ら」であることを教えたら喜んでくれ、「ル」の下は「レ」だということを学んでいた。どんどん学んでいく。でもここで欲張ってあれもこれもと学ぶべきことを与えすぎると学ぶ楽しさを損ねてしまうような気がするので、今は習い事と文字の表を楽しんでもらう。
うつ病本(仮)をworkflowyで膨らませている。ただ中身を肉付けし始めるとっかかりが掴めない。ちょっとした飛躍が必要なところである。

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