野宿の中学生 1日目 前半

盆の時期。
とりあえず早朝に家を出て、線路に沿って自転車をこいでいたら、たぶん目的地に着くんじゃないかな。宍戸くんはそんな気持ちでJR線を右手にペダルをこいでいく。当然そんなんだから、袋小路に出くわしたり、行き止まりにぶつかったり、隣町に着くころにはすでに昼になっていた。
彼は国道を走ることが都市間を行くということを知らなかった。

体中吹き出る汗のなか、持ち前の、まあそのうち着くさという楽天的な性格でじりじりと国道に近づく。国道にある道路標識を見て初めて、あーこの道をまっすぐ行くだけで東京駅の前に行けるんだーと気づくが、それが彼にとって大発見であることをまるで分っていない。すでにどれだけ無駄な道をたどっていた、ということを理解していなかったし忘れていた。

当然右側を大型トラックや爆音バイクなどが猛スピードで走り追い越していくが、何の気なしに東京駅前にはすぐについた。

んでなに?この国道1号の標識に目が行き、へえ、1なんて数字の標識初めて見たぞ、などと幼すぎ、かつ無知、向こう見ずな宍戸くんは感心していた。
静岡まで170キロ?おお!確か浜松は静岡県の西側と地図帳で見たな。この道をこいでいけば浜松に近づけるのか!

とまあ、発見だらけ。

国道1号線を長距離走行にはとても適さぬ自転車で、荷台には寝袋を乗せたまま、ようやく宍戸くんは東海道を行くという、ある意味、正解、の道を進んでいった。
しかし国道1号なんて国道は自転車で通行不可能な道などいくらでも出てくるから、迂回しては迷う。日も暮れようとするころには、宍戸くんはなぜか、横浜の山下公園の駐車場に来ていた。
せっかくだから散歩でもしてみようと公園内を歩いてみることにしたら、そこら中に夕焼けを眺めるカップルでいっぱい。
あ、華ちゃんだ! んなわけない。ヤングカップルがいちゃつく姿を宍戸くんは悶々とする頭と、興奮する息遣いを鼻でしながらジロジロとみていた。
よーし。華ちゃんが僕の彼女になったら、一緒にここにきて、チューするぞ。と意気込んで、さっそく意気揚々、疲れた体を忘れて自転車に戻り、すっかり暗くなった国道1号に戻り自転車をこいでいった。

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