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ウクライナ語文法シリーズその30:動詞(概説)

今回からは動詞を見ていきましょう。フランス語やスペイン語などのロマンス諸語に比べるとだいぶ簡単ですが、それでもやはり英語などよりは覚えることが多く大変です。
今回は動詞の変化などを見ていく前に、ウクライナ語における動詞に関わる文法項目を概観したいと思います。


不定形

英語での to 不定詞に相当します。ウクライナ語では接尾辞 -ти で表されます。

чита́ти 「読む」
нести́ 「(歩いて)運ぶ、帯びる」
хоті́ти 「欲する、~したい」
плати́ти 「支払う」

いろいろと用法があるのでそれは後々まとめていきたく思いますが、この -ти がつく動詞の不定形は辞書形でもあるので、今後も動詞自体を挙げるときは不定形で挙げていきます。

時制

ウクライナ語における動詞の時制は、基本的に過去・現在・未来の3つです。これはかなりわかりやすいのではないでしょうか。一応、これらに加えて大過去もあり、東スラヴ語群の中でもウクライナ語とルシン語のみの特徴ではありますが、あまり使われません。

ウクライナ語の動詞は、現在時制か未来時制を表すときと、過去形とで活用の仕方が相当異なります。現在時制か未来時制を表す活用形のことを今後はまとめて「非過去形」と呼ぶことにします。
ある動詞が非過去形を取るとき、それが現在時制を表すのか未来時制を表すのかは後ほど紹介する動詞の体によって異なります。
ただし、非過去形が現在時制のみを表す動詞は、非過去形とは別途未来時制を表す形を作り得ますので、これのことを「未来形」と呼ぶことにします。

「私は本を読む」の各時制での形は以下のようになります。

Я чита́ю кни́жку. ←現在時制(非過去形)
Я прочита́ю кни́жку. ←未来時制(非過去形)
Я бу́ду чита́ти кни́жку. ←未来時制(未来形)
Я чита́тиму кни́жку. ←未来時制(未来形)
Я чита́в/-ла кни́жку. ←過去時制(過去形)
Я прочита́в/-ла  кни́жку. ←過去時制(過去形)
(Я чита́в/-ла був(-ла́) кни́жку. ←大過去)
(Я прочита́в/-ла був(-ла́) кни́жку. ←大過去)

人称・性・数

名詞や形容詞は性・数・格によって変化してきましたが、動詞では格の変化がない代わりに人称による変化(活用)があります。

動詞の過去形は性と数によって変化し、非過去形は人称と数によって活用します。

英語ではいわゆる「三単現のs」というのがあり、三人称単数のときのみ人称変化形が異なるわけですが、言ってみればウクライナ語の非過去形はそれが1・2・3人称と単数・複数の3 x 2 = 6 通りあります。

чита́ю ←一人称単数非過去形
чита́єш ←二人称単数非過去形
чита́є ←三人称単数非過去形
чита́ємо ←一人称複数非過去形
чита́єте ←二人称複数非過去形
чита́ють ←三人称複数非過去形

過去形は起源的には分詞でしたので、性と数が区別されます。

чита́в ←男性単数過去形
чита́ла ←女性単数過去形
чита́ло ←中性単数過去形
чита́ли ←複数過去形

昔はbe動詞の現在形と今で言う過去形とを組み合わせて過去時制を表していたので人称も明らかだったのですが、現代ウクライナ語の過去形では、be動詞の現在形がほとんど失われているため、過去形でもbe動詞は使いません。

人称を動詞の活用ではっきり区別する言語では、一般的に、特に1・2人称で主語になる人称代名詞を省略することがより自然、という場合が多いのですが、ウクライナ語、ロシア語、ベラルーシ語は非過去形で人称をしっかり区別するにもかかわらず主語の人称代名詞を置くことが普通です(もちろん省略もできます)。その理由として、be動詞の現在形がほとんど失われたために過去形で人称が表示されなくなったからではないかという説があります。
ポーランド語などではbe動詞の現在形が現在も生きており、過去形でも人称がはっきりと区別できますので、主語の人称代名詞が現れることは比較的少ないです。人称代名詞の主語を使うのは、強調や対比のときに限られます。
学習者にとっては、わざわざbe動詞だなんだを組み合わせる必要がないので、ラッキーかも知れません。

動詞の体

どんな言語にも外国人が学ぶときにどうしても区別が難しい事項というのは存在するものです。この手のもので厄介なのは、ネイティブは感覚的にそれらを使い分けているので、「なんでこのときはそうなるの?」と彼らに質問しても、自分の言語について相応の知識がある人でないと全く返答ができないという場合が往々にしてあることです。
英語だと日本人にとっての不定冠詞の a と定冠詞の the の区別が例えば挙げられるでしょう。また、日本語の助詞の「は」と「が」の区別は多くの外国人には相当難しいものです。

スラヴ系言語でこれに当てはまる文法項目の一つが、動詞の体の区別です。

「体」は英語では aspect といい、一般言語学的には「相」といいます。ただし、「相」はかつて voice、つまり現代でいう受動態や能動態、中動態の「態」の意味で使われた(「受動相」など)こともあったりしてややこしいので、日本語でもそのまま「アスペクト」と言われたりします。
本シリーズでは、スラヴ語学でよく用いられる「体」の用語を採用します。

ウクライナ語では、動詞は「完了体」と「不完了体」に分けられます。というよりは、一つの動作に対して完了体と不完了体の動詞の2つが割り当てられていると言ってよいでしょう。

例えば「読む」という動作に対しては、不完了体の чита́ти と完了体の прочита́ти の2つの動詞があり、この2つはコインの裏と表のような存在だと言えます。

この2つの動詞を使った下記の例文は、どちらも日本語では「私は本を読む」と訳し得る文です。

① Я чита́ю кни́жку.
② Я прочита́ю кни́жку.

しかし、この2つの文が実際に表す動作は全く異なるものです。

不完了体の動詞は、動作が継続的、習慣的、連続的、多回的である様子を表し、また動作そのものを表します。多くの場合、「~する」というよりは「~している」という意味合いであると思っておくといいかもしれません。不完了体動詞の非過去形は現在時制を表しますが、ウクライナ語には現在形と現在進行形の区別はありません。

完了体の動詞は、最初から最後までの動作をひとまとまりの点として表します。つまり、動作が最後までいっていることを表すのです。そして、その次に話題がつながっていくことを暗に示します。
こう言われてもよくわからないかもしれませんが、あえて訳出するならば、「~してしまう」というかんじです。たとえば「(私は本を)読んでしまう」と言う時は、つまりまだ「読む」という動作をしておらず、これから読書に取り掛かることになりますので、完了体動詞の非過去形は自動的に未来時制を表します
しかし完了体動詞の活用の仕方は不完了体動詞との区別がありません。さきほど敢えて「非過去形」とまとめたのはこのためです。

従い、さっきの2つの例文のうち、①は「私は(いま)本を読んでいる(ところだ)」という意味合いに、②は「私は(この/その)本を(これから)読み切ってしまう(。そして読み終えたら~~)」というような意味合いになります。そもそも①は現在時制、②は未来時制ですし、全く状況が異なるのがおわかりでしょうか。

このあたりの区別はスラヴ系言語を初めて学ぶ人にとっては非常に大きなハードルとなります。これはもう日常会話も含めてインプットを増やして慣れるしかない、というのが正直なところです。
とりあえず感覚がつかめるまでの当面の間は、完了体は「~してしまう」、不完了体は「~している」というニュアンスで使われていると思っておいて大丈夫ではないかと思います。

なお、ある動詞が完了体なのか不完了体なのかは、慣れてくれば見ただけで大体わかります。後々区別の仕方についてもまとめようかと思いますが、本シリーズでは動詞そのものを紹介するときに完了体は(完)、不完了体は(不完)とつけて ”чита́ти 「読む」(不完)” のように表すことにします。

ちなみに、ややこしいのでこの段落は無視してもらってもよいのですが、「完了体」という用語について、実はこれは一般言語学でいう「完了(perfect)」ではなく、「完結相(perfective)」を表します。ただし完了相の機能も一部含んでいます。また「不完了体」も一般言語学では「非完結相(imperfective)」です。この辺が面倒なので、本シリーズではスラヴ語学でよく用いられる「完了体」と「不完了体」という用語を用います。

移動動詞

動詞の体の区別に加えて、移動を表す動詞は更にややこしいです。詳細は追々まとめます。
移動を表す動詞には、完了体と不完了体の区別に加えて定動詞不定動詞という区別があり、移動の様態によって不完了体の動詞が使い分けられるのです。不定動詞が習慣性、多方向性、往復の移動、移動の動作そのもの、動作者の能力などを表すのに対し、定動詞は一方向に進行中である様子を表します。

従い、「(歩いて)行く」という動作には以下の3つの動詞が割り当てられています。

піти́ ←完了体
іти́ ←不完了体・定動詞
ходи́ти ←不完了体・不定動詞

とりあえず移動動詞は不完了体の動詞がさらに2つあるということのみ、ここでは「ふーん」という感じで認識しておいてください。

ウクライナ語では直接法のほかに命令法と仮定法があります。

命令法は動詞の命令形で表します。ウクライナ語では、二人称単数と二人称複数に対する命令形のほかに、英語の Let's に相当する一人称複数の命令形もあります。

Чита́й! ←二人称単数命令形
Чита́йте! ←二人称複数命令形
Чита́ймо! ←一人称複数命令形

仮定法は、作り方は割と簡単ですが、単純な仮定や反実仮想のみならずかなりよく使いますので追ってまとめていきたいと思います。

Якби́ в ме́не були́ кри́ла, я б полеті́в(ла). 「もし私に羽根があったら飛んでいくのに」


それでは次回からついに楽しい楽しい動詞の活用を見ていきましょう!

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