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ウクライナ語文法シリーズその28:分数、小数、数量詞など

数詞パートの最後に、分数・小数とその他数量を表したり数に関する表現を紹介していきます。


分数の表し方

ウクライナ語の分数は、分母を序数詞、分子を基数詞で表します。

ウクライナ語で分数を用いるときは、基本的に「女性形」になることをイメージしておいてください。分子が1のとき、分母は序数詞の単数女性形分子が2以上のとき、分母は序数詞の複数属格形となり、分子が1または2の時も女性形の одна́ や дві が用いられます。

одна́ шо́ста 「6分の1」
дві п’я́тих 「5分の2」
Чоти́ри п’я́тих поділи́ти на одну́ сьо́му. 「5分の4割る7分の1」

整数を伴っていわゆる帯分数になるときは、正確に言うときは整数部分に ці́ла を用います。しかしながら、ці́ла は省略されることも非常に多いです。

одна́ (ці́ла) і п’я́ть шо́стих 「1と6分の5」
де́в’ять (ці́лих) і три четве́ртих 「9と4分の3」

分数と名詞を組み合わせる場合は、名詞は単数属格になります

дві тре́тіх ро́ку 「3分の2年」

またややこしいな…と思うかもしれませんが、上記の例文はつまり「1年の3分の2」だと考えれば納得できるのではないでしょうか。

なお、序数詞と共に「一部、部分」を意味する части́на を用いることでより簡潔に「~分の1」を表すことができ、よく用いられます。
というより、そもそも分数が女性形を使うのは、この части́на という語が基底にあるためです。

Ми втра́тили деся́ту части́ну на́ших бійці́в. 「我々は兵の10分の1を失った」

小数の表し方

小数の表し方は日本語や英語よりも複雑です。というのも、ウクライナ語では小数も分数として表されるからです。

すなわち、0.1の位は деся́та (деся́тих) で(つまり「10分の○」として)、0.01の位は со́та (со́тих) で(つまり「100分の○」として)表されます。

три деся́тих 「0.3(10分の3)」
со́рок п’ять со́тих 「0.45(100分の45)」

小数も分数と同じ、ということは名詞と組み合わせるときも分数と同じく、名詞は単数属格になります。

сім деся́тих проце́нта 「0.7%」
одна́ ці́ла і дві́ деся́тих мільйо́на квадра́тних кіломе́трів 「120万㎢(1.2百万㎢)」

半分、3分の1、4分の1、2分の3

分数のうち日常的によく使うものには特別な単語が当てられています。
最もよく使うのはもちろん、「半分」(2分の1)です。「半分」具格支配の前置詞のときに少し出てきた полови́на という語で、「~の半分」または「半分の~」というときは「полови́на+属格」で表されます。

もちろん格変化します。-а に終わる女性名詞と同様の変化パターンとなります。

Полови́на са́ду цвіте́, полови́на в’я́не. 「庭の半分には花が咲き、もう半分は枯れている」
Я з'їв полови́ну ба́нки шпро́тів. 「スプラットの缶(瓶)の半分を食べてしまった」

「半分」の意味では他に пів という語もあります。こちらはどちらかというと時間の表現や決まった言い回しで用いられます。また、接頭辞的にくっついて「半~」を表したりもします。

пів на пів 「五分五分」
півмісяць 「半月」

「3分の1」と「4分の1」は基数詞・序数詞に似た形でそれぞれ трети́начверть といいます。それぞれ -а で終わる女性名詞、子音終わりの女性名詞の変化パターンになります。

このうち чверть は時間の表現でよく用いられます。

трети́на склянки 「3分の1カップ」
чверть годи́ни 「15分(直訳:4分の1時間)」
Вона́ дала́ мені́ чверть книжо́к. 「彼女は私に本(蔵書)の4分の1をくれた」

具格、具格支配の前置詞」で少し触れましたが、以上の語を用いて分数を表す場合は「整数+前置詞 з+полови́ною/трети́ною/чве́ртю」の形で使います。その際、後ろに付く名詞の形は整数部分に依存します。

три з полови́ною дні 「3日半」
сім із чве́ртю ро́кі́в 「7年と3か月(7と4分の1年)」

ただし分数部分の分子が1以外の場合には、通常の帯分数の表し方と同様に単純に接続詞 і で繋ぐ形になります。

Платфо́рма де́в’ять і три чве́рті 「9と4分の3番線」


ウクライナ語をはじめとするスラヴ系言語では、「2分の3」つまり「1.5」が1語で表せ、かなり日常的に用いられることも特徴の一つでしょう。
ウクライナ語では「2分の3」を表すのに півтора́(男性・中性)/півтори́(女性)という語が用いられます。男・中性名詞に付くときと女性名詞に付くときとで形は異なりますが、格によらず不変化です。後ろにつく語は必ず単数属格を取ります。

півтора́ ро́ку 「1年半」
півтора́ ме́тра 「1.5メートル」
півтора́ мілья́рда до́ларів 「15億ドル(1.5十億ドル)」
півтори́ доби́ 「1日半」
півтори́ то́нни 「1.5トン」

単位の付く数値や金額などでも「1.5」が出てくるときは півтора́/-и́ を使ってしまうのが普通です。

півтора́ に比べると頻度は下がりますが、півтора́ста 「150」という語もありますので紹介しておきます。こちらも不変化で、後ろにつく語は必ず複数属格を取ります。

півтора́ста столі́в 「机150脚」

数量詞

数量の多少を表す語としてよく使うものに以下のような語があります。いずれも非常に重要な語です。

бага́то 「多くの、多く」
небага́то 「多少、少ない、少し、」
ма́ло 「少し、殆ど無い」
нема́ло 「少なくない、かなり多くの」(参考:quite a few)
чима́ло 「かなり多くの」(参考:quite a few)
тро́хи 「少し」
тро́шки 「少し、ちょこっと」
кі́лька 「いくつかの」
де́кілька 「いくつかの」

なお、кі́лька と де́кілька には意味・用法上の差異はないそうです。

これらのうち бага́то(及び否定辞のついた небага́то)、 кі́лька、де́кілька は数詞的に以下のような変化をします。それ以外の語は数量詞としては変化しません。

これらの語のあとに名詞が現れる際には、可算名詞は複数属格不可算名詞は単数属格となります。また、集合数詞のところで説明したとおり、これらの語が述語になるときは、その量で表されるべき語は属格で現れます
さらに、これらの語が付いた名詞句は文法上単数中性扱いになります。

ви́пити тро́хи води́ 「水を少し飲む(直訳:少量の水を飲む)」
план реконстру́кції кілько́х площ і ву́лиць 「いくつかの広場と通りの再建計画」
Там люде́й було́ ма́ло. 「そこに人はほとんどいなかった」
Там було́ бага́то гро́шей і ма́ло ресу́рсів. 「そこにはお金はたくさんあったが資源は殆どなかった(直訳:そこにはたくさんのお金と少しの資源があった)」

「2つとも、両方」

その他の語で重要なものとして、оби́два 「2つとも、両方」があります。

この語には形からも明らかなように два 「2」が含まれていますので、два と同様に主格と無生の対格では男・中性形と女性形が区別されます
また、面白いことに主格と無生の対格以外では -два が外れた形となります。

用語上の注意として、два が付いていること、また意味上「2」と共通しますので、主格と無生の対格のときに後ろに付く語は「複数主格と同じ形で、アクセントは単数属格と同じ位置に置かれる」という法則が適用されます(「基数詞と名詞との組み合わせ」参照)。
ただし、「あなたがた2人とも」というように代名詞が用いられるときは、訳からも明らかなように単なる並列ですので、並べるだけでOKです。

оби́два о́ка 「両目」
оби́дві руки́ 「両手」
обхопи́ти обома́ рука́ми 「両手でしっかりと握る、抱く」
Оби́два вони́ пішли́ додо́му. 「彼らは2人とも家へ帰っていった」 

ちなみに、集合数詞形の обо́є というのもあります。主格と無生の対格以外の形は оби́два と同じです。ただし集合数詞のため、主格や無生の対格のとき後ろにつく語は複数属格になります。

обо́є оче́й 「両目」
обо́є двере́й 「両方の扉」 

数字を表す名詞

これまでは名詞と異なる挙動をする「数詞」を紹介してきましたが、数字を表す名詞も存在します。
まずはその形のみ一覧しましょう。「90」はほとんど使われないようですので省いています。

このうちよく使われるのは「2」-「10」、「20」、「100」程度で、「1」は意味上少々頻度が下がり、残りはたまに用いられる程度です。
「10」の деся́ток 以外は女性名詞の変化になります。

数字の名詞形の主な意味・用法としては、①数字そのものの名称、②その数字で表される数が集まったものをひと単位・グループとして扱うとき、③学校の成績(1から5まで)、④年数、年齢(10以上)、⑤数量の表現、などがあります。

それぞれの用例は以下のとおりです。

Три дві́йки пов’я́зані з безпе́кою та за́хистом. 「3つの(並んだ)『2』は安全と保護に関係している」(①数字そのものの名称)

Воро́жі літаки́ трьома́ дев’я́тками перетну́ли кордо́н. 「敵の航空機が9機編隊3個で国境を越えた」(②その数字で表される数が集まったものをひと単位・グループとして扱うとき)

Як мо́жна отри́мати п’яті́рку з усі́х уро́ків? 「どうしたら全ての授業で『5』(5段階評価の最上、秀。)を取れるのか?」(③学校の成績)

Був земля́к огря́дни́м чолов'я́гою, вже, ма́бу́ть, за п'ятдеся́тку. 「その同国人はがっしりとした大男で、すでに、おそらく、齢50を超えていた」(④年数、年齢) 

⑤についてはこのあと説明する「おおまかな数」で例示しますが、деся́ток と со́тня が複数形で「数十の」「数百の」を表します。基数詞のところで出てきた ти́сяча、 мільйо́н、 мілья́рд はすでに説明したとおりもともと数詞というよりは名詞ですので、これと同じ使い方がされます。 

このほか、口語的には硬貨や紙幣等の呼称、バスなど番号を持つものに対する呼称、工具など複数のサイズがあるものの特定のサイズの呼称などにも用いられます。

Льві́вська «вісімдеся́тка» звільни́ла село́ на Ха́рківщині і зни́щила підро́зділ окупа́нтів 「リヴィウの『80番』(第80独立空挺襲撃旅団)がハルキウ州の村を解放、侵略軍部隊を撃破」 

また、数字によっては派生して特定の意味を持つことがあります。
例えば трі́йка は「3頭立て馬車」や「(スーツの)スリーピース」も意味します。
このほか、Вели́ка сі́мка は「G7(主要国首脳会議)」、Вели́ка двадця́тка は「G20」を表し、ニュースの見出しや本文では引用符を付けて «сі́мка»、«двадця́тка» と書かれたりします。 

おおまかな数

ウクライナ語で「数十の」や「数百の」を表す語は、「10」や「100」に「いくつかの」を表す кі́лька を合体させた一語で表せます。先ほど紹介した数字の名詞形を複数形で使用しても同様の意味を表せます。
また、11から19までの基数詞は「一の位の基数詞+-надцять」で作られていましたが、「十数の」を表す単語は一の位の基数詞部分を кі́лька に置き換えた面白い形になっています。
後ろにつく名詞は複数属格になります。

кількана́дцять сантіме́трів 「十数センチ」
кількадеся́т хвили́н / деся́тки хвили́н 「数十分」
кількасо́т гри́вень / со́тні гри́вень 「数百フリヴニャ」 

кі́лька が付いた語の変化パターンはそれぞれ -надцять、-десят、-сот で終わる基数詞と同じです。

なお、кі́лька は数詞以外とも組み合わさって「数◯◯の」を表します。例えば кількалі́тний 「数年の」や кількавікови́й 「数世紀の」等が挙げられます。上に挙げた3語の中では кількасо́т は年数に関して кількасотлі́тний 「数百年の」という形容詞を作ります。

それ以上の「数千」や「数百万」は単純に кі́лька とそれぞれ ти́сяча、мільйо́н を組み合わせればよいです。これらは ти́сяча、мільйо́н の複数形で置き換えることが可能で、そちらのほうが頻度が高いように思います。
その間の「数万」や「数十万」、「数千万」などは、кількадеся́т や кількасо́т を使っても表現できますが、これも数字の名詞形を使って表現することのほうが多い印象です。

кі́лька ти́сяч люде́й / ти́сячі люде́й 「数千人」
кі́лька мільйо́нів до́ларів / мільйо́ни до́ларів 「数百万ドル」
кількадеся́т ти́сяч снаря́дів / кі́лька деся́тків ти́сяч снаря́дів 「数万発の砲弾」
кількасо́т ти́сяч дета́лей / кі́лька со́тень ти́сяч дета́лей 「数十万の部品」
кількадеся́т мільйо́нів кори́стувачі́в / кі́лька деся́тків мільо́нів кори́стувачі́в 「数千万人のユーザー」 

回数、倍数

回数を表すとき、通常は раз を付けて表します。

(оди́н) раз
два ра́зи
три ра́зи
чоти́ри ра́зи
п’ять разі́в
...
 
два ра́зи на мі́сяць 「月2回」 

このうち「2回」と「3回」にはそれぞれ дві́чі と три́чі という1語での言い方があります。

дві́чі на рік 「年2回」
три́чі підря́д 「3回連続で」 

英語と同様に、回数の表現を基礎として「◯◯倍」を表せます。ウクライナ語ではこのとき、「у/в +対格」の構造を取ります。

Шви́дкість ру́ху раке́ти в де́сять разі́в переви́щує звукову́. 「ミサイルの速度は音(の速度)を10倍上回る」 

「2倍」と「3倍」については、それぞれ вдві́чі (удві́чі)、втри́чі (утри́чі) という語を使うこともあります。

Він був удві́чі ста́рший за ме́не. 「彼は私の2倍の歳だった」 

このほか、集合数詞に у/в-を付けた語も「◯◯倍」の意味で使われます。

Населе́ння цього́ мі́ста за де́сять ро́кі́в ви́росло ма́йже вп’я́теро. 「この街の人口は10年でおよそ5倍に増加した」 

なお、ウクライナ語での分数の表し方は前述のとおりですが、「◯倍」に対する「◯分の1」を表す特定の表現はなく、マイナスの意味を持つ形容詞の比較級と組み合わせることで表します。つまり、「3分の1の大きさ」は「3倍小さい」、「10分の1の数」は「10倍少ない」と表現します。

Цей пока́зник рі́вно в чоти́ри ра́зи ме́нше, ніж в По́льщі. 「この数値はポーランドのちょうど4分の1(直訳:4倍小さい)である」
Собіва́ртість приро́дного га́зу втро́є ни́жча від собіва́ртості на́фти. 「天然ガスの原価は石油の原価の3分の1(直訳:3倍低い)である」 

その他

上記のほか、数にまつわる表現ということで比較的よく使う語として відсо́ток と бі́льшість を紹介しておきます。

відсо́ток は「100分の1」の意味です。分数のところで挙げておいても良かったのですが、実用上は「パーセント」の意味で使われますのでここで紹介することにしました。ちなみに、「パーセント」の意味ではすでに登場している外来語の проце́нт という語もあり、どちらでも意味はほとんど変わらないようです。どちらも「パーセンテージ」の意味も表します。

Ма́сло пови́нно місти́ти від сімдесяти́ двох до восьмидесяти́ трьох відсо́тків/проце́нтів моло́чного жи́ру. 「バターは72-83%の乳脂肪分を含んでいなければならない」
На́трій вплива́є на відсо́ток жи́ру в молоці́. 「ナトリウムはミルク内の脂肪分率に影響する」

бі́льшість の意味は「大多数、大部分、多数派」です。特段用法にトリッキーな点はないのですが、かなりよく使われる語になりますので紹介しておきます。単独でも用いられるほか、後ろに複数属格の名詞が来たり、また бі́льшість з них 「彼ら/それらの大多数」の組み合わせで用いられます。

Бі́льшість сніжи́нок ма́є фо́рму шестигра́нних сто́впчиків. 「雪の結晶の多くは六角形の柱からなる形状を有している」
Перева́жна бі́льшість з них залиши́лася в селі́. 「彼らの圧倒的大多数が村に残った」 

対義語はме́ншість 「少数派、マイノリティ」です。「マイノリティ」の意味では менши́на という語が特によく使われます。

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