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野生大型類人猿の生息状況

別記事で述べたように、現在、大型類人猿は3つの属(オランウータン属、ゴリラ属、チンパンジー属)に分類され、全部で7種が野生下に生息しています。それぞれについて、IUCN RedListに基づき、生息域と生息状況をみてみましょう。この記事はほとんどRedListの日本語要約ですが、Web上で大型類人猿の7種の生息状況を日本語でまとめたものがみあたらなかったので、むしろRedListの記述を忠実に要約することをこころがけました。

オランウータン属

ボルネオオランウータン

インドネシアのボルネオ島に、多く見積もって約10万5千頭が生息しているとされます。しかし、島じゅうに棲んでいるわけではありません。彼らの生息地は細かく分断されています。森林の減少などによって個体数は減少傾向にあり、このままだと、2025年には5万頭を下回ることが予想されています。レッドリストのカテゴリーでは「深刻な危機(Critically Endangered; CR)」に分類されています。

スマトラオランウータン

インドネシアのスマトラ島にのみ生息しています。ボルネオオランウータン同様、島じゅうに棲んでいるわけではなく、北部の限られた地域に生息しています。現在の個体数は約14,000頭と推定されています。人間による開発により個体数は減少傾向にあります。レッドリストのカテゴリーでは「深刻な危機(Critically Endangered; CR)」に分類されています。

タパヌリオランウータン

スマトラ島の北部、Batang Toruと呼ばれる地域の小さな森林ブロックに生息しています。この地域でオランウータンが発見されたのは1997年のことでした。他のスマトラオランウータンの生息地からやや隔離された地域に棲んでおり、ゲノムの分析によって2017年にスマトラオランウータンとは別の独立した種として記載されました。現在の生息数はわずか800頭程度と推定されています。レッドリストのカテゴリーでは「深刻な危機(Critically Endangered; CR)」に分類されています。

ゴリラ属

ヒガシゴリラ

コンゴ民主共和国東部およびルワンダ、ウガンダの3つの国に生息しています。マウンテンゴリラとヒガシローランドゴリラ(最近はグラウアーゴリラと呼ばれるようです)の2種に分類されます。マウンテンゴリラはコンゴとルワンダの国境をまたいで分布するヴィルンガ-ヴォルカン個体群と、ウガンダのブウィンディ個体群の2つの個体群しかありません。グラウアーゴリラはコンゴ民主共和国の固有種です。ヒガシゴリラの現在の生息頭数は全部で2600頭と推定されており、レッドリストのカテゴリーでは「深刻な危機(Critically Endangered; CR)」に分類されています。

ニシゴリラ

コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国、カメルーン、ガボン、赤道ギニア、アンゴラ、ナイジェリアに生息しています。ニシローランドゴリラ(Gorilla g. gorilla)とクロスリバーゴリラ(Gorilla g. diehli)の二つの亜種にわかれます。ヒガシゴリラと比べ雑食性が強く、葉や草だけでなく、果実や昆虫もたくさん食べます。現在の生息頭数は約32万頭と推定されており、他の大型類人猿と比べ多く生存していますが、やはりレッドリストのカテゴリーでは「深刻な危機(Critically Endangered; CR)」に分類されています。

チンパンジー属

チンパンジー

アフリカ大陸の赤道周辺に、東西に広く分布しています。樹木の少ない乾燥したサバンナから、年間を通じて降雨量の多い熱帯雨林まで、幅広い環境に生息しています。ヒガシチンパンジー、チュウオウチンパンジー、ナイジェリア-カメルーンチンパンジー、ニシチンパンジーの四つの亜種に分類されます。現在の生息頭数は約30万頭と推定されており、レッドリストのカテゴリーでは「絶滅の危機(Endangered)」に分類されています。

ボノボ

コンゴ民主共和国、コンゴ川(ザイール川)の右岸にのみ分布しています。生息地の大部分は湿潤な熱帯雨林ですが、最近では、比較的乾燥した環境にも棲んでいることがわかりました。さまざまな理由から、種全体の生息状況はあまりよくわかっていませんが、少なめに見積もると現在の生息頭数は約2万頭とされています。レッドリストのカテゴリーでは「絶滅の危機(Endangered)」に分類されています。

まとめ

大型類人猿7種は、すべて絶滅の危機に瀕しています。分布域も個体数も減少傾向にあります。8種目のヒト科動物であるわたしたちヒト(Homo sapiens)が、まもなく80億人をこえようという勢いで毎年約1億人ずつ人口を増やし、地球の陸地のすみずみまで分布を広げ、いまや宇宙にも進出しようとしているのと対照的ですね。
昔、「世界がもし100人の村だったら」という本が流行しました。その頃、授業や講演で大型類人猿の話をするとき、私はしばしば次のように言っていました。「世界がもし100人の村だったら、大型類人前はもう絶滅しています。」


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