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自己紹介をかねて

私は、大学教員をしながら、野生大型類人猿の研究と保全活動をしています。大型類人猿と関わりはじめてから、今年でちょうど30年目です。30周年を記念して、というわけではありませんが、これまでの自分の活動を振り返りつつ、「大型類人猿を守るとはどういうことか」を考えながら発信したいと思います。

現在、研究活動としては、アフリカのガボン共和国を主なフィールドとして、ゴリラやチンパンジーの野外調査をしています。また、名古屋市の東山動植物園のゴリラの観察もしています。保全に関しては、ガボンのフィールドで自分なりの活動をしつつ、国内外の研究者、保全活動家、動物園の方々などと連携した活動も行っています。

経歴としては、日本霊長類学会の保全・福祉委員を長いこと務めていました。UNEPとUNESCOが主宰するGreat Ape Survival Project (GRASP)の日本における協賛団体、GRASP-Japanの理事をやっていました。ガボンでの活動のために、細々とした団体ですが、Dibotyというグループを作っています。また、2年前から「アジア・アフリカに生きる大型類人猿を支援する集い(SAGA)」の代表を務めています。ここでの発信は、主にこのSAGAの代表としての立場から行います。ただし、ここで書くことはすべては私個人の見解、主張であって、SAGAとしての主張ではありません。

大型類人猿の保全をめぐっては、さまざまな課題が複雑に絡み合っています。そのため、それに関わる人々もさまざまで、立場や意見もいろいろです。私は、野外研究者で現地での保護活動をメインとする、比較的(一般の人からみて)わかりやすい立ち位置にいますが、動物園の人、動物を医学実験に使う立場の人、発展途上国の地域支援に携わる人、あるいは、法律家、起業家、開発関係者など、いっけん保全と関わりが希薄に思えるような分野の人との交流もあります。

自分自身の活動に加えて、異なる立場の人々と交流し、意見交換してきて感じるのは、大型類人猿保護って、ぜんぜん一筋縄ではいかないなあ、ということです。一筋縄でいかないどころか、そもそも「大型類人猿を守る」ってどういうこと?自分のやっていることは本当にそれにつながっているの?などと考え込んでしまうこともしばしばです。

一方で、世の中に流通するのは、シンプルでわかりやすい主張がほとんどです。「チンパンジーを動物ショーに使ってはいけない」「希少なゴリラをこれ以上狩猟してはならない」「彼らの生息地の森林を開発から守らねばならない」などなど。もちろん、こうした主張が間違っているわけではありません。しかし、そうしたシンプルなお題目に違和感を覚えることがあります。時には自分で使いながら「嘘をついているなあ」と思うこともあります。

私が身を置いて感じる保全の「現場」は、ぜんせんシンプルではありません。ともに活動する人と深刻な意見の食い違いが生じて袂を分かったことも何度もあります。あるとき正しいと思っていたことが、しばらくするとまったくの間違いに思えてくることもあります(自分のやっていることか他の人がやっていることかを問わず)。

悩んでいては物事は前に進まない、といって、シンプルな主張を押し通す人もたくさんいます。そうした人々の方が実際に私より多くの「成果」を上げていることが多いです。でも、私はどうしてもそのような割り切りができず、常に悶々としています。

最近では、悶々とすることに疲れてしまい、もうこんな活動からは手を引いて、自分の研究だけに集中しようかなと思ったりもします。ですが、私が悶々としていることにもなにがしかの意味があると言ってくれる人も何人かいました。ならば、一人で悶々と考え込むのではなく、悩みを表に出してしまえば、もしかしたら一緒に悩んでくれる人、共感してくれる人もいるかもしれない。そう思って、これから少しずつ、週1回程度、私の思いをとりとめなく書き綴ることにしました。それが無人の洞穴にむけた独白に終わるのか、それとも誰かの心に届くことがあるのかはわかりませんが。


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