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【#3】M&A スノーピークのMBOをちょっと語る

3月が近づき、温かくなってくるのかと思いきやすこぶる寒い日が続いています。春が待ち遠しいな…。

そんなこんなで本日も記事を投稿していきたいと思います。
今回は先日リリースがあったスノーピークのMBOに関する投稿です。

スノーピークMBOの概要

2024年2月20日、スノーピーク(7816)がMBO(経営陣買収)の実施を正式発表。

今回のMBOは、投資ファンドであるベインキャピタルの完全子会社「BCJ-80」を通じて実行される。
非公開化(上場廃止)を前提とした公開買付けであり、価格は1,250円、買付け等は2024年2月21日(水)〜2024年4月12日(金)の2ヶ月弱の期間となっている。

細かな買収スキームは省略し、MBOによる非公開化は何を目的としているのかについて言及していこうと思う。意見表明書では以下のように述べられている。

・非公開化による中長期かつ柔軟な意思決定の実現
・経営陣が一体となった経営体制の構築
・マーケティング強化による顧客LTV向上
・人材及び組織基盤強化
・M&A及びPMI

個々を掘り下げていくと大変興味深い施策や、より企業価値を高めて行けるような、とても理にかなった取り組みと言える。

アウトドアというのはコロナ禍を経て魅力度の増したコンテンツとして注目されており、昨今のキャンプやグランピングといった自然×人との掛け合わせによるビジネスである。 日本だけにとどまらず、世界各地でも楽しまれている文化だ。

スノーピークってどんな会社なんだっけ?

アウトドアブランドであるスノーピーク。これについては何となく知っている方も多いだろう。また、キャンプなどのアウトドアが好きな方からは「もちろん知っているよ!」という声が上がるかもしれない。

スノーピークは、高品質なアウトドア用品を提供する日本のブランドで、キャンプ用品やアウトドアウェアなどを中心に展開している。以下は、スノーピークに関する基本情報である。

創業者:山井太

彼は自然との調和を重んじ、アウトドア活動を通じて人々が豊かな時間を過ごせるような製品の提供を目指した。

設立年月日:1958年

スノーピークは1958年に設立された。60年以上の歴史があることは私自身知らなかったので少し驚きである。

事業概要

スノーピークは、主に以下のような事業を展開している。

キャンプ用品:テントや寝袋、ランタン、クッキング用品など、キャンプに必要な高品質なアウトドア用品を幅広く提供している。製品のデザインと機能性にこだわり、アウトドア活動を楽しむ人々から高い評価を受けている。

アウトドアウェア:機能性とデザイン性を兼ね備えたアウトドアウェアも展開。自然の中でも快適に過ごせるよう、素材選びやデザインに細心の注意を払っている。

リテール事業:自社ブランドの店舗を国内外に展開し、直接消費者に製品を提供している。店舗では製品の販売だけでなく、アウトドア活動の楽しさを伝えるイベントなども定期的に開催している。

イベント・体験事業:キャンプイベントやアウトドア体験教室など、アウトドア文化の普及にも力を入れている。参加者にはスノーピークの製品を実際に使用してもらいながら、自然の中での生活を体験してもらうことで、アウトドアの魅力を伝えている。

スノーピークは、「人間性の回復と自然指向のライフバリュー※1の提供。」を社会的使命としており、「野遊び」を通じた人生価値の提供を「衣食住働遊」といったすべての場面において実現するために様々な取り組みをしている。
公式ホームページの「キャンピングオフィス事業」のページを拝見すると、お客様に最高品質の体験を提供するために従業員自らキャンプに対する体験価値を学ぼうとする姿勢も伺える。
公式サイト「キャンピングオフィス事業」ページ
※1)ライフバリューとはスノーピーク社の造語であり、人生に対する付加価値を指す。

また、野外における衣食住の製品を幅広く展開している背景として、キャンプを春夏シーズンの一過性のレジャーとしてではなく、四季を通じた年間のライフスタイル、又は生涯を通じたライフスタイル、更には高い人生価値を提供できる野遊びと捉えているとも語られており、人生や日常との深い結びつきを製品・サービスを通じて実現しようとしているようだ。イベント・体験事業、さらにはSNSを介したコミュニケーションを通じ、ユーザーとの密接な結びつきを大切にしている。

ただのカスタマーではなく、企業や製品に愛着を持ち継続的に購入する顧客層であるロイヤルカスタマー化の実現を目指している点も、昨今の消費活動における体験価値を重視する若い世代含めた幅広い層に注目されている一因と言えるのではないだろうか。

スノーピークの成長戦略と経営基盤の強化へ向けて

スノーピーク社の成長戦略及び経営基盤強化に係る具体的な戦略・施策は以下のとおりである。

1.新規キャンパー創出、ロイヤルカスタマー化の実現を軸とした国内における成長戦略

国内において、「拠点」「体験」「コミュニティ」の3つを軸にした施策展開により、新規キャンパー創出とロイヤルカスタマー化の実現を目指す。キャンプフィールド(キャンプ場)を中心とした拠点の開発を進め、提供サービスやイベント数増加による「体験」機会の機会創出、そしてリアルとオンラインの両方を活用した「コミュニティ」育成を図ることにより中長期的な顧客の獲得、いわゆるロイヤルカスタマー化の実現に繋げているのである。

2.海外における成長

海外においては、アウトドアが生活や文化に根付き、巨大なキャンプ市場を有する米国、また、未だキャンプ市場が確立されておらず、今後キャンプ市場の規模が拡大する可能性が高い中国における成長を重視している。
「アウトドアで豊かな時間を楽しむ」スタイルの浸透を日本だけではなく、今後は海外に向けても実現へ向け活動を広げていく。

3.経営基盤強化による筋肉質な経営体質の実現

経営基盤の強化を実現するにあたり、「サプライチェーンの最適化」「経営管理体制の強化」「人財戦略の強化」及び「販売網の見直し」を実施している。
コロナ禍における様々なインパクトを私たちが体験したように、企業経営においては常に変化の連続である。技術の発展、産業構造の変化、突発的な地政学リスクによるライフスタイルの変化など、企業の顧客である我々の生活は日々刻々と変化していくので、それに適した体制も企業側では常に整えておく必要がある。
まさにヒト・モノ・カネの全体最適化とも言えるだろう。

このような取り組みを進めていく上で、多方面での有識者とのコラボレーションや、M&Aを通じた海外への販路開拓というのは切っても切り離せない関係であると言える。

企業成長には痛みが伴う

さて、MBOに再び話を戻したい。
これまで述べたように、スノーピークはアウトドアというコンテンツを中心に、幅広い事業を展開している。これからも更なる成長へ向けた施策を実行していくことも明らかになっている。

しかし、これらの施策を進めることは同社の企業価値向上が期待できる一方で、短期的には先行投資にともなう痛み(赤字含めるコスト増加)が生じるのだ。
投資の原理原則は「安く買って、高く売る」、投資家にとっての正義は利益や価値を生むことである。つまり、企業成長を見据えた先行投資による赤字を許容したい経営陣と、短期的に利益を享受したい投資家との間にせめぎ合いが発生するのである。

このような経緯もあり、投資家の保護かつ、自社の成長戦略の実行を遂行するためにとられたのがMBO(経営陣買収)なのだ。

黒船的存在、PEファンド「ベインキャピタル」

MBOにおける公開買付者は投資助言を行う投資ファンド及びそのグループにより株式の全てを間接的に所有している公開買付者親会社の完全子会社である。

ベインキャピタルは全世界で約1,750億ドルの運用資産を持つ国際的投資会社であり、日本においても2006年に東京拠点を開設して以来、50名以上の従業員によって投資先の企業価値向上に向けた取り組みを進めている。

ベインキャピタルはPEファンドと呼ばれる業界に位置する大手企業である。PEファンドについて簡単に補足すると以下の通りだ。

「PEファンド」とは?

投資家から集めた資金を資産運用の専門家であるファンドマネージャーが運用し、その収益を投資家へ分配する金融商品のことを投資ファンドとう。投資ファンドには、その投資対象や投資スタイルに応じて「ヘッジファンド」や「不動産ファンド」など様々な種類がある。PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)とは、これら投資ファンドの一種であり、未上場の株式への投資を行うファンドを指す。
最近よく話題にある新NISAの制度を通じて皆さんが金融投資をしているであろう投資信託を思い浮かべていただきたいが、そういった個人または企業の資金を元にプライム市場やスタンダード市場には上場していない未公開株式を取得(基本的には全株式を取得することが多い)し、あの手この手で企業の経営戦略から各事業における個別施策の実行を支援し、企業価値を向上させエグジット(株式又は会社の売却による利益獲得)をすることで利益を生んでいるのだ。

公開買付価格は一筋縄では決まらない

見出しの通り、MBOをする際の買付価格はそう簡単には決まらない。なぜならば会社というのはその創業者や従業員、顧客、そして個人含む投資家が長い月日をかけて築いて来た財産であるからだ。
様々なステークホルダーが協力してくれたにも関わらず、第三者がやってきて「○○円で公開買付を実行させてくれ」というのは当然受け入れられはしないのである。
今回のケースも例外ではなく、幾度となく交渉が実行された。

意見表明書によると、公開買付価格の交渉のやり取りは価格そのものに関してだけでも5度もスノーピーク側がNOを突きつけ、6度目にしてようやく価格が確定したのである。都度公開買付価格に対する裏付けなどの根拠を精査し、スノーピーク側に提案していることを創造すると、ベインキャピタル側も非常に時間と労力を要した案件であると言える。

MBOにおけるFASの役割

さて、ここでは更にFAS(Financial Advisory Service、ファスやファズとも呼ばれる)という組織が関わっている。
スノーピーク社は本公開買付価格の公正性その他本公開買付を含む取引の公正性を担保するため、いくつかの期間に助言を依頼した。
それがリーガル・アドバイザーとしてのTMI総合法律事務所と、ファイナンシャル・アドバイザー及び第三者算定機関のデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社(DTFA)である。先ほども述べた公開買付価格の交渉における、1株あたりの価格の妥当性を精査し、助言をしていたのがDTFAなのだ。

デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーは、複数の株式価値算定手法の中から、スノーピーク社株式の株式価値算定にあたり採用すべき手法を検討し、DCF法を用いてスノーピーク社株式の1株あたりの株式価値の算定を行った。(株式価値算定の細かな手法についてはまた別の記事で触れていきたい)

このように、世の中の職業の中でもまだまだ知名度の低いファイナンシャルアドバイザリーサービスだが、企業とファンド間の株式譲渡・売買等における価格の公正性を判断する役割も担っているのだ。
企業の健全な成長とその支援の一端を担える職業として非常に魅力的な職業だと私は思っている。

おわりに

今回はスノーピーク社のMBOに関する記事でした。
金融業に無い方でも、アウトドアブランドというどこかで聞いたことのあるような企業だったことで、少しは興味を持っていただけたのではないだろうか。

企業経営というのは非常に興味深いもので、経営者だけで成り立つわけではなく、成長の過程で様々なスキーム、手法を通じてより良いサービスを提供するために悪戦苦闘しているのです。
今回の記事を通じて、少しでも日本企業の経営や、昨今の取り組み、ニュースに興味を持っていただけたら大変嬉しいです。


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