Rono

エッセイとか短編とか。

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マガジン

  • ワンフレーズの書き連ね

    読んだ本から気に入ったフレーズを抜き出して、自分が感じたことを短い文章にする試み。

最近の記事

玄関の扉を開けると、透き通った青空に燦々と輝く太陽が、私の目を眩ませた。 私は左手で日傘を作り、空を見上げて「嫌な天気......」と呟くと、急いで家を後にした。 明るい陽気にも関わらず、街は静まりかえっていた。大通りには人の往来も少ない。その反面、ビルが所狭しと軒を連ねているので、日陰がいくつもできていた。暗さとは違う。路面や、街路樹や、置き捨てられた空き缶など、各々が持つ色が、普段よりも濃い。 私は大通りを尻目に、隣の少し外れた小道に入った。車が一台分しか通れないそ

    • ドーナツ

      「俺、好きな人がいるんだ」 向かいに座るミカの手が止まった。食べかけのドーナツから欠片が零れる。生地はふわふわとしているはずなのに、トレーに落ちる音がぽつぽつと聞こえてくるようだ。 ミカはドーナツを食べようと開けた口をそのままに、少しだけ声を漏らした。しかしその声は私には届かない。いや、届いたのに私が意識していなかったのかもしれない。ただ私の鼓膜を揺らしただけだ。 ミカの表情は目まぐるしく変化した。口と同じように見開かれた目は、光を失ったように私とその先の空間を見つめた

      • ただそこにあるだけの愛に対する考え方

        毒にも薬にもならない。 毒のように邪魔にも、薬のように助けにもならない。役に立たずただそこにあるだけ。 僕は恋愛に於いて、この言葉の意味を考えている。 毒には魅力がある。周りを悩ませるような破滅的な生き方をしていても、ふとした隙に孤独や悲壮が現れる。そこに惹かれる。 薬は言わずもがな。そばに居るだけで傷を癒やしてもらえる。用法用量さえ間違えなければ最適だろう。 毒に侵されていると知りながら求める者、好むと好まざるにかかわらず薬に身を漬ける者。どちらも同じ数だけいる。

        • ピピーッ! ……議会議員選挙に立候補する……でございます…… ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンン ゴゾッ ボオオオオオオオオオオウウウウ ズズズ キィィィィィィィィ ボォォォユウウウウウウウゥゥゥチャロシャゥゥゥカンガラララほおーっフフブブブブギョワッタタタタガザリッピーピーピロロロンブブブブブタタタタトンテットチトチッザトッツッズウィズウィズウィブゥウンブォォタタタタゾンガッリザウウウウウウンッガジャンウウウウウンットトトテンテンザンザントントンゴゴゴゴゴゴ

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        • ワンフレーズの書き連ね
          2本

        記事

          夕暮れの星

          チズからアキトが浮気している証拠を突きつけられてもなお、私の意思が揺るがなかった。 アキトが私の知らない女と仲良く歩いている写真も、会話の録音も、チズが私を騙すためのものだと思うことにした。 チズはアキトのことが好きだと、私は知っていたからだ。 私と別れさせて、隙をついて付き合おうという魂胆だろう。そうに決まっている。 そんな手には乗らない。私とアキトの関係は、チズが思っているような軽いものではない。 私は信じる。話を聞くのはそれからだ。 * 「リンとアキトって付き合って

          夕暮れの星

          天命の待ちぼうけ

          2年前のちょうど今頃、誰かが僕の人生ゲームのサイコロを適当に振った。 もしかしたら振ってさえいなかったのかもしれない。誰かのサイコロが、僕のサイコロにたまたま当たって、出目が変わった。 半年後、僕はサイコロを自分で振ることにした。 結果は分からない。自分でサイコロの出目を決められるほど強くない。 ただ、自分でサイコロを振ったことに後悔はない。 仕方がない。分かっていたことだから。分からないふりをして、目を逸らしていただけ。 でも、理由を自分で作って、自分を慰めるなん

          天命の待ちぼうけ

          手をたたこう

          「たぶん、あんまりしあわせだから、それでうれし涙がこぼれるんでしょうね」 メアリ・H・クラーク著/深町眞理子訳『アナスタシア・シンドローム』新潮文庫、1993年 今日も、昨日と同じだ。ずっと変わらない日常の繰り返し。 朝はすっきり目覚める。12時を過ぎる前には寝てしまうので、睡眠時間は確保されている。 せめて夢だけはいつもと違う人生を歩みたいから。 テレビをつけてニュースを眺めながら、買い置きしてあるフルーツ入りのシリアルを牛乳と噛み砕く。 牛乳は噛んで飲むように小学校

          手をたたこう

          アルコールエスケープ

          *生ビール 今日はもうヤケだ。飲んで食ってさっさと寝よう。こういう時はビールに限る。 やっぱり行くならあの店だな。最近混んでるけど大丈夫かな。満席だったらスーパーで適当に買って家で開けるか。 しかし最近はやけに寒い。体の芯まで凍えるような寒さだ。 こんばんは〜っと、よっしゃ、ちょうどカウンターが1席空いてるな。ラッキーラッキー。とりあえず生をもらえる? それにしても散々だった。他人の仕事の後始末をしてやったのに、なんで俺が怒られなきゃならないんだよ。参っちゃうぜ。

          アルコールエスケープ

          貸衣装とピエロときゅうりと島

          先日、友人の家で『ロバの橋』というボードゲームをした。 このゲームはざっくり言えば暗記ものだ。自分が引いたカードから即席でストーリーを作って発表し、他のプレイヤーにカードを当ててもらう。 書けば簡単だが結構難しい。カード当てが始まるのは、ストーリーを3個ほど各プレイヤーが発表した後だからだ。 感覚だと一昨日の朝食を当ててもらうことに近い。 用意されているカードもいやらしい。「雨」や「子ども」と言った普通のカードに混ざって、「ドアがきしむ音」だの「スタートの合図」だの、

          貸衣装とピエロときゅうりと島

          DOMANI, 明日, イカ

           美術館にイカを見に行った。  と言っても本物のイカの鑑賞ではない。イカだと勝手に思っているだけである。しかも焼いた切身のイカだ。イカステーキとでも言ったらいいだろうか。  大きめのイカを短冊型に切り、火で炙ったら少しくるりと巻いてしまいそうな、そんなイカを美術館の展示室でまじまじと眺めた、という話である。  私は地下鉄に揺られていた。自宅のある八王子から中央線で新宿に向かう。途中の吉祥寺駅で京王井の頭線に乗り換えて渋谷駅に着く。  渋谷で少し用事を済ませた後、今度は銀座

          DOMANI, 明日, イカ

          同担拒否

           ムカつく。  私が先に好きだったのに、後からずけずけと割り込んできて、自分がさも1番のファンみたいに周りにアピールして。  この曲が感動するの〜とか今度インスタで知り合った子とライブに行くんだ〜とか、好感度上げようとしてるのバレバレだっつーの。  そのライブ私もチケット取ってるから。先行受付で販売開始と同時ぐらいに申し込んだから。番号からすると最前列だって余裕で取れるんだけど。あんたはどうせ2巡目ぐらいでしょ。もう端っこの席とか柱の陰しか残ってないよ。行くだけ無駄じゃ

          同担拒否

          目隠しと直視

          信仰が自分にとってかけがえのない尊さをもつことを知っているからこそ、他人にとっても同じようにかけがえのないものであることが理解できるのである。 森本あんり『不寛容論』新潮選書(2020年)  桜の花びらが舞っている。僕はそれを見ることができるけど、彼女は見ることができない。僕を好きな人に、この桜は見えない。  恋は盲目とはよく言ったものだ。21世紀も30年目に差し掛かった頃、人類は感情を自由に操ることのできるモジュールを開発した。そのモジュールを埋め込まれた人類は、喜びを

          目隠しと直視

          城の岩へ

          「ぼくらが今もっているのは、規則だけなんだ!」 ウィリアム・ゴールディング著/平井正穂訳『蝿の王』新潮文庫(1975年)  「降りる奴が先だろうが!」  乗っていた電車が駅に到着すると、近くのドアから怒鳴り声が聞こえた。  胸の前に開いている本に顔を向けながら、目だけを声のする方に動かす。40代ぐらいの少し太った男性と、70代ぐらいの老人が駅の黄色い線を挟んで睨み合っていた。  位置関係からすると男性の方が降りる側だろうか。そういえば先ほどの声も、老人が出すにしては少し張り

          城の岩へ

          あいらいく

          「好きなことはなんですか?」 多くの人にとってこの質問に答える場面というのは、学校の新学期の教室だったり、就職活動の面接だったりだろう。 まずは自己紹介で好きなことを聞いて、そこから人となりを理解していく流れだ。 だから答える側としては、クラスメートや面接官、つまり聞く側がすんなりと受け取ってくれるであろう回答を口に出すことになる。「好きなことはりんごを食べることです。りんごは甘くて美味しいからです。」 でも、人の好きことというのは本当はもっと複雑なんじゃないだろうか

          あいらいく

          雪の話

          東京に引っ越して半年が経つ。 生まれも育ちも雪国だった私にとって、東京の冬は初めての体験だ。 「東京は雪が降らないから、冬でも晴れている日が多いんだよ。」 引っ越しの前、これまで勤めていた会社を辞めるにあたり、ささやかながら送別会を開いてもらえることになった。と言っても参加者は私と友人の二人だけ。普段から仕事の終わりに飲みに行く機会は何度もあったので、余り特別な感じはしなかった。 送別会で友人は確かそんなことを話していたと、仕事から帰る電車の中で思い出す。 「だから

          雪の話

          27歳の僕へ

          27歳になった。なってしまった。 僕にあるのは焦燥感だけ。 27歳になってしまったので、27歳になった僕が考えることを書こうと思う。 先日僕は『自分の場所を確かめるということ』と題してエッセイを投稿した。 その時は26歳だったけど、そこで書いたことは今でも変わっていない。 それだけじゃない。自分がどこにいるかを確かめると同時に、ずっと誰かと比べて自分が何者なのかを考えている。 信長は26歳の頃に桶狭間で今川義元を打ち破った。では僕は? 本田選手は27歳でイタリア

          27歳の僕へ