#36 世界遺産について考える(3)真正性
久しぶりに小理屈をこね回す記事になります
裏付けがあってというわけではなく思いついたままに書いてますので、内容について気分を害される方がいらっしゃるかもしれませんがご容赦ください
■世界遺産における真正性
世界遺産に登録される文化遺産については、「真正性(Authenticity)」が保たれていることが条件とされています
元々の形態やデザインだけでなく材質や工法なども含めて本来の価値を有していることが求められており、その保護保全において「真正性」を維持した上での修復や修理作業を行うこととされています
世界遺産という仕組みができた当時の概念としては、欧米を中心とした「石」の文化が中心であったため、修復において部材の交換が必要となる木造建築物においては「真正性」の証明が非常に困難という状態にありました
その後、真正性における『奈良文書』を経て様々な文化における多様な保全・修復の方法を許容することが認められ、今日では「木」の文化や「泥」の文化における真正性についても、広く実状に則した形でその証明がなされるようになっています
■真正性を維持するために
こちらは2024年3月3日の神戸新聞の記事で、姫路城の外構における主要な部材となる漆喰の材料となる、「貝灰」「苆」「海藻のり」などの調達が難しくなっているというものです
「真正性」を維持するために材料の産地なども含めて、姫路市から業者には指示がなされているようですが、すでに調達ができずに海外産の原材料を使っているものや産地を変えざるを得なくなっているものが出ているようです
■真正性を維持するための材料の調達の責任は誰が負うのか
記事の中では、漆喰塗り作業を請け負っている会社の経営者のコメントが掲載されており、「姫路城は日本の文化財修理のモデルケース。世界に誇る伝統技術を後世に残すためにも、今が正念場だ。」と訴えていらっしゃいます
記事を読む限りは、姫路城の漆喰という重要な伝統技術を守るために、請負業者が試行錯誤しつつ奮闘しているというように感じられます
国内において容易に調達できるような材料であれば、業者任せで発注側の行政は指示をしているだけでいいのだと思います
しかし、こちらの記事にあるような状態のものであれば、その調達過程や供給源までも含めて保全しないと意味がないのではないでしょうか
最後の出口のところである「現場」だけではすでに維持できない技術になっているのであれば、川上の部分での技術や原材料の継承についても国や自治体が積極的に関与していくような仕組みが必要だと思います
■材料が手に入らなくなったら
特定の材料が手に入らなくなり、違うもので代用するというのは保護保全においては当然の選択肢だと思います
違う材料で代用することが「真正性」を損なうこととなり、世界遺産としてのOUVを維持できなくなる可能性があるので違う材料で修復するくらいなら朽ちるままに任せて放置する、という状況はあり得るのでしょうか
世界遺産は、「人類共通の財産」を保護保全していくという仕組みで、非常に貴重なものだと思います
しかし、今後世界遺産であり続けることを最優先にすることで、最新の技術であれば保全できるものを放置せざるを得ない、という状況が生じるのであれば、「真正性」についても時代に合わせて変化させていく必要がありますよね
■極論ですけど・・・
本来使われている部材の原材料が、絶滅危惧種の動植物でどうしてもその材料を使わないと真正性が維持できない、なんていう状況になったら、世界遺産としてはどうするのが正解なんでしょうかね
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