第2回房総半島一周280K〜喉元過ぎれば熱さ(暑さ)忘れる
プロローグ
昨年の7月に初回大会が災害級の暑さの中で開催されて、あまりにも過酷だったため「千葉サバイバルレース(略してチバサバ)」とまで呼ばれた大会。走ってる間は「これで最後だ。もう出ない。」とか思ってたんだけど「喉元過ぎれば熱さ(暑さ)忘れる」でまたエントリーしてしまった(^_^;)。
走るのには「走る理由」がある。
暑い夏に超長距離走はやらないので、身体がどうなるのか試してみたい(人体実験)。数少ない千葉県開催の超長距離走なので遠征しなくて良いという地の利。後半になるほど関門時間がタイトな競技性の高いレースなので「完走など1mmも考えなくて良い」という気楽さ(笑)。
昨年走ってみて人体実験としては有意義だったし今年はもういいんじゃない?と思わないではなかったけど、次のエイドまで行ってみようかな・・・と言うのが今回の走る理由。
そんだけかい!
そんだけでもエントリーしちゃうのはこの大会にこの大会にしかない良さがあるってことやろう。知らんけど
今年は還暦を迎えて長らく行けてなかった北アルプスへご褒美登山に行くつもり。それもテント泊5泊の大縦走を計画した。それがこのレースの2週間後。このレースで脚を痛めたりしたら登山に支障きたすので絶対無理しないつもりでいる。いっそDNSしようかなんて少しは考えたけど、そもそも完走は1mmも考えてないので、脚がヤバいと思ったらリタイアすればいい。それとGWの風の旅以降、モチベーション上がらずほとんど走ってなかったので、登山に向けた足腰の刺激入れになるかなと思って出走。刺激としてはちと強過ぎるけど・・・
天気は雲か雨の予報。普通だったら晴れを願うところだが、このレースに関しては「晴れるより雨の方がマシ」と思ってしまう。そのくらい昨年の灼熱地獄はキツかったのだ。
スタート(八幡宿)9:00〜A(エイド)1(富津岬)関門時間19:00(44.5km)
スタートは八幡宿にある薬湯市原店。
8、9、10でヤクトーだ。
自宅からドアtoドアで1時間も掛からないので楽ちん。自宅最寄り駅から千葉駅までは定期券の範囲だから片道たったの199円。ありがたい。
店内には宣伝のポスター。これ見てエントリーしたいと思うような変態はまずいないだろうな。でも興味深そうに写真撮ってる人はいた。エントリーせずともこんな世界もあるんだと興味を持ってくれるだけでもいい。お店が応援してくれていることがよくわかった。
スタートしてからしばらくは湾岸の国道沿いを淡々と走る。前回は前後にもっとランナーがいたはずだけどな。後ろにもまだいるけど少なそう。今回はいきなり単独走に近い。みんなが速いのか自分が遅いのか? たぶん自分が遅いのだ。一つにはパッキングの重さがある。ドロップバック(途中のエイドで着替えたり荷を入れ替えたりする)が無く、丸々2晩を走り通すとなると補給とかパッテリーとか切り詰めるのは少々心配。特にバッテリーはヘッドランプ、デジカメ、スマホのそれぞれに予備を持つとかなり重いし、電力を消費するだけで重さは変わらない。前回の記憶でも夜間区間はコンビニ不毛地帯がかなりあったのであてにできない。そんなわけでパック重量6kgほどに。さすがにこれは重過ぎた。昨年はデジカメ無くてスマホで写真撮ってた。デジカメと予備バッテリーを除くだけでも400g以上は削れる。それなりのペースを維持して走り通すならパック重量は4〜5kgが限度かと。久しくこの手のレースに出てなかったので感覚が鈍ってたかも。今回の反省点。
湾岸の国道は車がビュンビュン走ってうるさいのでストレスフルで好きじゃないけど、歩車分離でグリーンベルトがあるだけマシ。木陰は涼しい。陽射しも昨年のように災害級の暑さとカンカン照りではないのでだいぶ楽だ。荷が軽ければもう少しペースアップできたかも。
国道から少し離れて並行してる住宅街の道に入る。国道とは別世界のようにとても静か。旧道ではないがこういう静かな道は好き。
しばらく進むと康代さんの私設エイド。昨年もこの道沿いに出してくれてたので今年もあるといいなと思ってたので嬉しい。僅かな時間だけど飲んで食べて喋ってるだけでずいぶんと気分転換になる。
木更津へ向かって黙々と走る。(私設エイドの方が撮ってくれました)
CP(チェックポイント)1(木更津駅東口無縁観音講)に到着。チェックポイントとは、コース通りに走ったことの証拠として、写真撮影を指定された対象物のこと。次のエイドで見せる。スマホを失くしたりバッテリーが切れて写真撮れないと失格になってしまう。
A1の富津岬へ向かって淡々と走る。ペースが遅いせいもあって、道路標識で6kmとか書いてあっても倍くらいに感じる。日常的な朝ランで6kmだったらあっという間なのに・・・と思うと余計長く感じて辛い。
ちょうど夏祭りのシーズンで何箇所かで神社を中心に御輿を担いでた。子供達も大勢参加している。祭りを通してコミュニティが世代を越えて継承されていくのはとても良いことだと思う。
ようやくA1の富津岬に到着。
15:49(関門19:00)
A1(富津岬)→A2(サンセットブリーズ保田) 関門3:00(87.0km地点)
昨年より暑さ(熱さ)がマシなので身体的には余裕があるんだけど、これから夜間走だと思うと少し気が重い。
富津岬へ向かう時とは反対側の海岸線を走る。パラパラと雨が散らついてきてなおさら気が重い。陽射しが厳しい昼間は晴れるより雨の方が嬉しいくらいだけど、夜は降って欲しくないなぁ。
幸い小雨は止んで沈む夕陽を拝めたので安堵。
空の色、明るさが刻一刻と変化する。夜と昼の境目はゴールデンアワーと呼ばれるように素敵なひと時だ。
房総半島には崖をくり抜いた穴にお地蔵さんが安置されている所があちこちにある。こういう道はずっと古くからある道。きっと旧道なんだろう。
もみじロードに入る頃には辺りは真っ暗闇に。
CP2の志駒不動様の霊水で証拠写真を撮る。(20:43)
その時、真っ暗闇から「井関さんですかぁ」と声が聞こえる。康代さんが移動して私設エイドを開設してくれてた。真っ暗闇を独り走ってきたのでことさら嬉しい。
今頃は深い緑に囲まれていて昼間ならさぞかし癒されるだろうに、夜間はヘッドライトに照らされた狭い範囲しか見えないのでもったいない。
もみじロードを抜けて長狭街道を下るとA2のサンセットプリーズ保田に到着。
23:31(関門3:00)
A2(サンセットブリーズ保田)→A3(溝口駐車場)関門12:30(142.9km)
このエイドは屋根のある駐車場スペースなので全体が明るくてとても快適。昨年のA2だった同じ保田のパクチー銀行は素敵なカフェだったのでもっと快適だったけど、そんなの滅多にないことだから贅沢は言えない。
エイドスタッフの響子さんがニヤニヤしながら写真撮ってくれた。何がおかしいんだかわからんけど響子さんの笑顔に癒される。エイドで休んでいる間に土砂降りの雨が降り出す。マジかぁ。居合わせた主催の水間さんに「雨天中止しじゃないの?」と弱音を吐いてしまった。
船は港にいる時が最も安全ではあるが、
それは船が作られた目的ではない
(J・A・シェッド)
腹を括って土砂降りの雨の中を出発する。
保田から館山へ向かう本来のルートが、レースの何日か前に崖崩れで通行止めになってしまったため、山の中をプラス10kmほど大きく迂回するルートに変更されている。10km増えてこの後の関門時間は1時間しか繰り下げられていない。キロ6分? 主催者は絶対マゾだ。
迂回路は真っ暗な山の中、小刻みにアップダウンが続く。深夜に入り睡魔にも襲われて歩きの時間が長くなる。追い討ちを掛けるように雨音が眠気を誘う。睡魔は脳からの止まれのサイン。走ろうとする身体を止まろせようとする。身体と脳のせめぎ合いだ。走ってるつもりでも歩いてる。如何ともしがたい。短時間でも仮眠すれば回復するんだけど雨が降る山の中で仮眠する場所など無いので前へ進むしかない。
CP3に向かう途中で雨はほぼ降り止み空が白み出した。目の前で車が止まり車から2人のランナーが降り立つ。どうしたんだろう。途中参戦? なんてはずはなくてスイーパーでした。もしや最後尾? ほぼ歩きで保田のあと2人くらい抜かれたかも。あるいは後ろにいたランナーがリタイヤしたのか?
まぁどうでもいいことだけど。自分のペースで走れるところまで走るしかないのだから。
薄明の頃に、CP3の清雄寺房総別院に着く。(4:15)
昨年はまだ暗闇だったと思う。
山間の道から海岸に近い国道へ出る。館山が近い。A2から先、雨が降ってたので行動食も口にせず、コンビニ不毛地帯でろくに食べていなかったので腹が減る。国道沿いのコンビニでがっつりと朝ごはんを食べる。超長距離は食べないと走れないのだ。
館山の市街地を抜けて海岸線に出てしばらく進むとCP4の渚の駅たてやまに着く。(6:27)
雨は上がって曇り空。さほど暑くもなく睡魔も朝になって概日リズムのお陰で落ち着いてきたので走りやすい。とは言えさすがに徹夜明けなので、時々睡魔のウェーブがやってきてペースが落ちる。
CP4の洲崎神社に到着。いやまだ到着ではない。目の前にある長〜い階段を上がったところに屋根だけ見える神殿の前で写真を撮らなけれならないのだ。
繰り返し言うけど主催者はサドです。
重い足腰を踏ん張ってノロノロと階段を上がるとようやく神殿を前にする。(8:44)
登りと変わらないくらいノロノロと階段を下り先へ進む。時々やってくる睡魔にペースを落としていたので、どこか仮眠できそうな場所はないものかと探しながら走る。そしてこの道沿いのバス停が、屋根付きベンチ有りで広々としていることに気づく。仮眠するのにお誂え向きだなと思いながらも睡魔とバス停のタイミングが合わずいくつかのバス停をやり過ごす。タイミングが合ったバス停で思い切って仮眠をとる。昨年は仮眠のタイミングを逃してしまったので、この後はほとんど歩いてたと思う。仮眠と言ってもたったの10分。それでもかなり効果があって、この後、千倉を経てA3までの間は見違えるようなペースで走る。「やればできる子やんか」と自分を褒めてあげる。昨年ほど暑くなかったことが大きいが、仮眠をとったことも有効だったと思う。
昨年はこの気が遠くなるような海岸線の単調な道を、灼熱地獄の中、意識朦朧としながら歩き通したことを思い出す。同じコースでも同じではない。超長距離走はそれ自体が一期一会なんだと思う。
洲崎神社とA3の間にある館山ファミリーパークには、昨年同様、長距離ラン界隈で知らない人はいないくらいの半蔵門の焼き鳥「炭や」の女将が私設エイドを開設している。女将に会うのもこのレースのモチベーションの一つだったのでここまで来れて良かった。もはや定番と呼びたい(2回目だけど)美味しいフルーツポンチをいただいて先を進む。女将の元気を少しだけもらう。女将の元気はむっちゃ大きいから少しだけでも大きい。そのお陰か思いの外、快調に走れて野島崎近くにあるCP3の溝口駐車場に到着。
12:02(関門12:30)
関門時間の12:30まで僅か30分。危ない所だった。A2で3時間半の貯金(時間)があったのに。迂回コースで走れずだいぶ食い潰してしまったようだ。反省点の一つ。
A3(溝口駐車場)→A4(花の広場公園)関門18:00 (167.6km)
「先へ進みますか?」と聞かれて迷わず「行きます!」と答える。脚はかなり疲れているものの嫌な痛みは無い。リタイアする理由が見つからない。この区間のスイーパーは同じ千葉県民の美樹さん。ジャーニーラン仲間なので気楽。
スタートして間も無く野島灯台を望む。
千倉へ向かう海岸線を進む。
だんだん晴れてきた。
ほどよい晴れ具合で景色が映える。でもこれ以上は晴れて欲しくないな。
思いとは裏腹にどんどん晴れてくる。そして13時過ぎると灼熱地獄になってしまう。昨年を思い出す。あまりの暑さに道の駅「潮風王国」に立ち寄り自販機の冷えた飲料を飲んで涼む。
そんな灼熱の中、御輿を担ぐ行列に何度か遭遇。単調な海岸線が華やいでとても良い。
ローズマリー公園を過ぎた辺りでサイクリングロードに入る。車が通らないので静かだ。
ここがサイクリングの終点。
捕鯨で栄えた和田漁港が近づく。A4は近い。
A4の前にCP6の竜宮社がある。後で調べてみると「竜宮様は“海底の底にあって竜神の住むと言う宮殿”ということで、海上安全、大漁祈願、商売繁盛、縁結びを願って祀ったものです。」とのこと。
そしてA4「花の広場公園」に到着。
17:31(関門18:00)
なんとか貯金を維持。
着いたらスイーパーの美樹さんが先についてる。潮風王国に立ち寄った隙に抜かれてしまったようだ。後でスマホ見ると着信が・・・
コンビニなら気付くかもしれないけど、道の駅は広いので道路からは絶対わからない。心配掛けて申し訳ない。
A4(花の広場公園)→A5(八幡岬公園)関門1:00(207km)
エイドにはここでリタイアを決めたランナーが3人ほど休んでる。さほど遠くないところにJR和田浦駅があって絶好のリタイアポイントではある。しかし嫌な足の痛みはないのでやっぱりリタイアの理由が見つからない。それと何よりも次の八幡岬のエイドは、新宿にあるヘンタイ長距離ランナー(敬意を込めてそう呼ばせていただきます)の聖地、スナック「cocoさくら」のcocoさんがエイドを開設してるのだからそこまでは辿り着きたい。それはスタート前からの目標でもあったので前へ進む覚悟はできている。ただ、いかんせん時間貯金を完全に使い果たしてしまったので次のエイドまで40kmを7時間で移動しなければならない。普通の状態なら全く問題ないが、夜通し100マイル走った後なので補給や仮眠も必要だし、そのためのペースアップも難しいとしたらかなり厳しいことは走る前から想像がついた。プラス1時間あれば・・・と思わなくはないが、後半になるほど関門が厳しいというのはこのレースの競技性の一つの要素なので致し方ない。迂回コースでのロスタイムが後を引いてる。
たとえ時間オーバーでもエイドに辿り着けば良いと思って走り始める。極力走り続けるように頑張るが暗くなったこともあってか時々睡魔がやってきて気がつくと歩いていたりする。朝を迎えた館山からまともに食べておらずエネルギー枯渇気味。しかし鴨川辺りまで行かないとコンビニは無さそう。段々とペースが落ちる。それでも脚の故障がないので前には進める。
エイドから9kmほど進んだところにCP7の仁右衛門島がある。
真っ暗闇の中、かろうじて看板が見えるだけ。
その時、暗闇の中から「井関さーん」の声。なんと康代さんが再び現れる。想定外でびっくり。豆乳やらカニかまぼこやらたっぷり用意してくれてる。腹ペコだったのでがっつく。康代さんはマジで天使だ! 食べると元気が湧いてきた。故障がなくて、睡眠とれて、飲み食いできたら人間はどこまでも移動し続けられる。そんな動物なのだ。そんな太古のグレートジャーニーの記憶が遺伝子に組み込まれている。超長距離ランの世界では、能力は年齢や性別にほとんど関係ない。誰もが同じ遺伝子を持っている。遺伝子のスイッチがオンになってるかオフになってるかの差だけなのだ。
元気が湧いて再スタートして間も無く、スイーパーから「ご相談したいことがあります」と。
聞く前に想像がついた。このペースだと関門時間には間に合わない。今なら最寄りの駅で終電に間に合う。これ以上進むとエスケープは難しい。スイーパーも次の予定があって休む時間が必要だったり、ランナーのリスクを踏まえて、そのタイミングを判断する。スイーパーもランナーのなのでランナーの先へ進みたい気持ちは理解した上でのこと。タイムマネジメントも競技性の要素の一つだ。脚の故障が無いので時間を掛ければ次のエイドまで自己責任で辿り着く自信はあるが、何時になるかは予想外がつかない。それに万が一にでも事故があったら主催者に迷惑が掛かるのは免れない。致し方ない。スイーパーも自分もギリギリの判断でリタイアを決める。
仁右衛門島からさほど離れていないので最寄りに太海駅がある。スイーパーが電車の時刻を調べてくれて何時の電車に乗ればスタート地点の八幡宿へ何時に着くと教えてもらう。太海駅までスイーパーと一緒に行って電車に乗り込む。
昨年は仁右衛門島よりも前の地点で、夜通し走る気力を失って自己判断でリタイヤした。同じ太海駅から電車に乗ったことを思い出す。スイーパーから相談受けた時にほとんど葛藤もなく即決できたのは、前回と異なり今回はリタイアのキッカケが自己判断ではないこと(最終的には自己判断)と脚に故障が無く前へ進む余力、気力が残っていたからだと思う。余力、気力があるのに葛藤がないと言うのは逆説的だが、前回よりは進歩したし、これが最後というわけじゃないし、(最初に書いたように)2週間後の北アルプスのテント泊5泊縦走のために無理しないほうが無難だし・・・とか考えを巡らせて納得。
2回目の房総半島一周レースはこれにて終了。
エピローグ
スタート地点にもどりスパで風呂に入る。リフレッシュしてフルリクライニングシートに身を沈める。一瞬で眠りに落ち朝まで夢を見ない。朝、6時くらいに起きてゆっくり朝風呂に入ってからチェックアウトする。ゴール場所のテントに立ち寄ると、昨夜エイドで会えず心残りだったcocoさんがいるではないか。大袈裟だけど奇跡のように思えて嬉しい。
終わり良ければ全て良しだ。
来年も出走するのか?
ただキツいだけで「もういいや」と思ったらもう出ないんだけど、その先の景色を見てみたいとか、今回の反省を活かして競技性に挑みたいとか、コミュニティが楽しいとか「走る理由」が無いこともないので出る可能性はある・・・と控えめに言っとく。
まだ暑さ、キツさが喉元過ぎてないので。
(完)
〈参考〉
トラック長:178km
累積標高:+1407m -1367m
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