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梟の狂々

数え切れないほどの木々が生茂り、西へ太陽が沈もうとしている冬のレイクサイド。風は少々肌寒く、葉っぱは針葉樹ならではの赤みや黄色みを増している。その暖かな色味の木陰では、落ちているナイフを目の前にしたヒヨコが、じっとそれを見ている。

その様子を飛行中のフクロウが発見し、たいそう驚いていた。
ナイフを目の前にしたヒヨコを見るとは思っていなかったらしく、フクロウは空中でパニックになっているようだった。

ヒヨコの近くには、人が座るのにはもってこいの高さとサイズの一枚岩があった。
それはそこに人が座るために、あえて用意されたのではないかと思うくらいの、完璧な一枚岩だった。
その上には、とても丁寧に作られた、綺麗な三角形のおにぎりがひとつ、置いてあった。

コーヒーも一枚岩の上に置いてあった。簡易的なドリップコーヒーだ。
横にはステンレスのボトルが置いてあり、どうやらお湯はそこから調達したようだ。
きっと誰かの休憩場所なのだろう。寝そべって休んでいるラブラドール・レトリーバーがいる。
コーヒーからはまだ湯気が立っているので、人はそんなにこの場所から離れてはいないようだ。
辺りを見回してみると、大人がギリギリ取れそうなくらいの木の枝のところに、赤い風船が一つ引っかかっていた。
そしてその木の下には細長い人影があり、地面に向かって何かを探しているようだったが、その最中に、木に引っかかっている風船を見つけたらしく、それを撮影しようとしているようだった。

ボーッ。という音ともに、湖の奥の方から一隻の白い船がやってきた。
金縁に赤いラインが、船体をぐるっと1周しているシンプルなデザインだ。
小さくとも豪華に見える遊覧船は、レイクサイドの景色をより一層優雅に彩っていた。
そしてそのままゆっくりと、白い船は湖畔に近づいていった。
デッキは、夕日と紅葉を楽しむ老若男女で賑わっていた。
風船を撮ろうとしている人影も、船と夕陽と紅葉の美しさに気がついたようだった。
風船越しに、その美しい紅色の風景を撮影しようとしていた。

とても平穏な日没の時間が流れていた。人々は船上からのロケーションを楽しみ、人影は湖畔からのロケーションを楽しみ、ヒヨコとフクロウだけが違う世界を生きていた。

そんな平穏なこの場所に、予想だにしない出来事が襲ってきた。

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