茨城県 成人期の発達障害リソースマップ〜特性か精神障害か〜

  前回の記事に引き続いて、「茨城県 成人期の発達障害リソースマップ」の成果物を活用したセミナーの振り返りです。

 前回は「事例性」が「疾病性」によるものなので、健康問題として対応しましょう、と提案することで関係者間での支援に繋げていく、といったお話でした。

 ところで、この「疾病性」ですが、発達障害は本当に健康問題として取り扱う必要があるのでしょうか。成人期の発達障害の特徴として、例えば「コミュニケーションが成立しにくい」といったことが挙げられますが、これは健康問題なのでしょうか。確かに「コミュニケーションが成立しにくい」状況があり、例えばDSM-Ⅴにおける自閉スペクトラム障害の診断基準に照らし合わせると合致する印象で、本人も周囲も困っており、本人が悩んで二次的に抑うつ状態になれば誰にでも生じうる健康問題として取り扱うことにはなるでしょう。一方で「コミュニケーションが成立しにくい」状況があり、例えばDSM-Ⅴにおける自閉スペクトラム障害の診断基準に照らし合わせると合致する印象だけれども、本人に対する理解者が職場にいたり、何らかの方法で「コミュニケーションが成立しにくい」部分が補われることで、日々の業務では誰も困っていない、といった状況もありえるわけです。

 DSM-Ⅴに基づいた精神障害の診断は、基準を用いた一つのラベリングでもあるわけで、例えば下記のAさんとその上司のBさんの会話を見てみましょう。
A:「私、どうしてこんなに仕事がうまくいかないんだろう、と悩んで精神科を受診したら、発達障害だと診断されました」
B:「以前も発達障害だという社員と仕事をしたことがあります。言葉をそのまま受け取ったりするんですよね」
A:「私の場合は、軽度なのと、人によって特徴が違うみたいで、それはあまり当てはまらないみたいです」
B:「え、そうなんですか。私が知っている発達障害とは違うんですかね」  
A:「・・・。」

Aさんは発達障害との診断をされており、Bさんは自身の発達障害に対する認識(経験や診断基準)に基づいてコミュニケーションしていますが、この時点では両者の間で信頼関係の構築には至っておらず、Bさんが「Aさんは○○といった特性があるんだな」と環境要因も含めてAさんを理解できるかどうかがポイントになります。

 上記の事例では、何気なく発達障害(精神障害)と特性という言葉が混在して使われていますが、「成人期の発達障害」については「精神障害」か「特性」かといった議論がなされることも多いのですが、私自身は産業医の立場としては、精神障害と特性の両方の側面があって、どちらかに特定することはしないようにしています。それは「確かに発達障害かも!」と感じたケースでも、数年たって全く問題なく仕事が出来ている人を何人も見てきたから、といった経験によるところもありますが、この「精神障害」か「特性」か、といった議論は「精神障害なら健康管理、特性なら労務管理」とどちらが支援するのか、といった職場と産業保健スタッフで押し付け合い(分断!)になってしまい、中長期的な視点から、困った状況が良い方向に向かいずらいと考えているからです。

 「成人期の発達障害」は、精神障害、特性のいずれであっても、一緒に働いている限りは支援することには変わりがありません。もちろん、支援には限界があるのも理解していますが、少子高齢化などで労働人口が減っていく中で、職場に貢献できる部分があるなら貢献して欲しいという状況もあるのではないでしょうか。

 産業保健スタッフとして負担が大きい部分もあるのですが、「成人期の発達障害」だと考えられるケースには、健康管理(疾病性)、労務管理(事例性)の双方の観点から関わるとともに、関係者を上手に巻き込んで、支援に繋げていく必要があるのでしょうね。 

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