メンタルヘルス対策における評価指標

 職場における健康管理活動において、メンタルヘルス対策は多くの職場で優先順位として高いのではないかと推測していますが、活動をするからには状況を評価する「指標」は重要ですよね。今回はその指標に関して考えてみました。

 まず思いつく指標としては、メンタルヘルス不調による「休業者数」でしょうか。当然ながら、休業者数が多ければ、それだけメンタルヘルス不調で悩んでいる社員も多いわけですし、休業した社員の業務を周囲に割り振ることで周囲の負荷が増えますし、サポートする上司、人事労務担当、産業保健スタッフの負担も大きくなります。なので、休業者を減らすことは一つの重要な目的かと考えています。また、休業者の動向を見ることで、特徴的な経過や要因があれば、マクロな視点の施策の参考になる(例えば、ハラスメントによる不調が多い、特定の業務に絡む不調が多い、中途採用の社員に多い、など)部分もあります。一方で、会社として「休業者を減らそう!」と号令をかけると、休みが必要な社員が休みづらくなる(会社の方針に背くような行動はできない)、休みを勧めづらくなる(休業を勧めたら、今年度の評価に影響する)、といった雰囲気になるかもしれません。この時、本来であれば休養が望ましい社員が毎日出勤することになるわけですから、プレゼンティーイズムも生じるでしょうし、出勤の継続によりさらなる体調悪化、となれば、安全配慮義務も問われるかも知れません。また、職場外の要因も絡んでメンタルヘルス不調になる方もいるわけですから、どれだけ努力してもゼロにはなりそうにありません。従って、私としては、毎年の状況を見る一つの指標とはしていますが、減少すればGoodで増加したらBadとは考えていません。

 労働安全衛生法でストレスチェックにおける高ストレス者の割合や面接指導を申し出た社員、組織分析の結果も挙げられるでしょうか。高ストレス者については、厚生労働省から基準が示されているわけですが、自記式質問紙(自身で回答を選択する)を用いているので、操作できますし、「直近2週間の状態で」などの断り書きがありますが、回答時の精神状態が大きく影響します。私の経験談として、「産業医面談を希望していたので、高ストレスになるように記載した」、「高ストレスになると上司との関係性に影響するので、当たり障りのないように記載した」といった話は聴いたことがあります。なので、高ストレス者が多かろうが、少なかろうが、不健全な職場はあるわけです。また、面接指導でも、普段からの相談対応の敷居が低ければ、あえて高ストレス者面談を希望する人はいないかもしれませんし、一定数、高ストレス者は出るわけですから、「セルフケアのために申し出た」という人が多いことが問題にはなりません(裁ききれないという問題は生じるかもしれない)。組織分析においても同じようなことが言えます。高ストレス職場になれば、上司や人事が環境改善の名の下に介入をする可能性があり、その活動自体をストレスに感じれば、次年度以降は当たり障りのないように記載する社員も増えるでしょう。

 他にも、
・相談件数
 →メンタルヘルス不調やトラブルの未然防止になっているかが重要 
・休業を繰り返す社員
 →疾病性の問題で繰り返しの休業はゼロには出来ない
などなど、色々な指標がありますが、やはり一つの判断材料であるものの、メンタルヘルス対策がしっかりできているかは数字だけでは判断が出来ません。そもそも、メンタルヘルス対策が優先順位として「高い」のは、そこに何らかの問題を感じ取っているからなわけですが、その問題は数字に基づく客観的なものなのか、日々の企業活動の中での実体験に基づく主観的なものなのか、どちらなのでしょうか。

 上記の問いに明確な答えはなく、指標の年次変動であったりとか、実際にメンタルヘルス対策に取り組んでみて、関係者との関わりの中での負担感を感じたりするか(主観ですね)なのかとも感じています。

 で、メンタルヘルス対策においてどういったことが重要なのかというと、例えば、事例対応において、会社(人事労務)、上司、産業医がいかに適切な判断と対応が出来ているかという質的なところだと考えています。これは、会社が安全配慮義務を果たせているか、つまり、相談があった社員の安全と健康を守るために、会社として何が出来るかを考え、実行しているか、実行できないものについては、合理的な説明が出来るかどうか、とも共通しています。「仕事のこと悩んでいる」と相談があった部下に対して、職場全体のマネジメントを踏まえてどう環境調整するか、人事労務に相談するのかどうか、健康面を産業保健スタッフに振るかどうか、職場での様子の変化に気づいたらどうするか、人事労務に人間関係の相談があったらどのように事実確認をして環境調整をするか、会社判断を関係者に説明するのか、産業保健スタッフへの相談をどの関係者にどのように繋ぐのか、ここには書き切れないほど選択肢は枝分かれしていて、かつ、同じ状況は一つもないなかで一貫性のある対応をしていく、と、まさしく一つひとつの場面での質的な部分が問われるのがメンタルヘルス対策であり、その評価はとても難しいな、と感じます。

 私としては、職場の中の関係者、例えば、人事労務、管理職、社員、産業保健スタッフなどが、メンタルヘルス対策にどういった印象を持っているか、例えば、職場復帰時の対応、個別相談、ハラスメント対応などについて、会社がどれくらい適切に対応できているか、をできれば理由とともにアンケートや聴き取りなどを行って、関係者間でのギャップを埋めていく(全方位調査と次へのステップ)、なんていうことが重要なんじゃないかと考えたりもしているのですが、まだそういった取り組みの経験はありませんので、いつかやってみたいですね。

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