職場における自殺対策をどう進めるか〜二次予防における「気づき」や「声かけ」〜

 前回は、日常のメンタルヘルス対策の中に自殺対策の一次予防活動を浸透させて行きましょう、といったお話でした。今回は二次予防について取り上げてみます。二次予防は、自殺のサインを早期に発見する、相談・支援の充実による自殺の防止になりますが、特に危機介入の直前までについて考えてみます。なお、前提として「自殺対策」にあまり特化することなく、日常的には行動面のサインに着目して、メンタルヘルス不調への「気づき」と「声かけ」をしていくことが重要であり、その延長線上に自殺予防があるということは強調しておきます。

 まず「自殺のサインを早期に発見する」については、一つは会話や相談の中で自殺予防の観点からのどう対応するか、になります。これについては、TALKの原則といったことが示されおり、Tell:心配していることを言葉にして伝える、Ask:「死にたい」という気持ちの有無について率直に尋ねる、Listen:「死にたいほど辛い」という相手の気持ちを傾聴する、Keep Safe:安全を確保する、の頭文字を取ったものです。

 この中でAsk:「死にたい」という気持ちの有無について率直に尋ねる、とありますが、日常的に相談対応をしていると、尋ねるタイミングはとても難しいと感じています。よくある質問として、ルーチンでの確認の是非を聞かれるのですが、メンタルヘルスに関する相談で、体調についても話題に上がっていて(こちらから身体面、精神面のサインについて確認し、サインがあるなら、でもOK)、相手に辛い気持ちがあるのであれば、流れとして自然な部分もありますが、一方で、「そんなこと聞いて相手に変に思われないか」、「自分が聞くことでかえって自殺のリスクを高めないか」といった不安もあるかもしれません。確かに、唐突に聞かれればキョトンとしてしまうこともあるかもしれませんが、自然な流れの中で聴くことができば、そこまで深刻でないなら否定されるだけで、「そこまで心配してくれたのか」と感じるか「変なこと聞くなあ」と感じるかは、感性、普段の関係性、話の流れ等々、状況次第です。また「自分からは心配させたくないので言えなかったけど、聞かれたから」と話してくれる人もいるでしょう。

 一方で、産業医業務の中ではルーティンでは確認していません。その理由はいくつかあります。

 1つめに、目の前の人との相談において、何に焦点が当たっているか、つまりこの面談の主旨に着目して話をするからです。例えば、健康診断の事後措置の面談や日常的な会話の中で、産業医からルーティンで確認するものではなさそうだというのは理解してもらえるでしょうか。一方で、その面談の中で、メンタルヘルス面の問題に気づいたら、話(面談の主旨)を切り替えて、その流れで「死にたい」かどうかを確認するかも知れません。

 2つめに、メンタルヘルス面の相談であったとしても、死にたい」といった言葉の重さは人それぞれです。しかし、産業医としてその言葉を聞いた際には、取るべきアクションがあり、そのアクションによって今後の相談がしにくくなることが現実としてあるのではないかとも考えています。どういうことかというと、「死にたい」という言葉を確認したら、その人の安全を確保するために、危機介入をするからです。TALKの原則にもあるように、Keep Safeが必要になるため、医療機関に繋ぐ、職場・家族に繋ぐ、といった対応をとります。その人は軽い気持ちで「死にたい」と言ったに過ぎず、産業医に愚痴の一つとして「死にたい」と話したら無理矢理受診させられた、となり、その噂が社内で広まることで相談のハードルが上がるかも知れません。「死にたい」という言葉だけでKeep Safeの対応をするのは行き過ぎた危機管理かもしれませんが、本人が「そんなつもりはなかった」と、医療機関の受診、職場・家族との連携を拒否し、もしその後に自殺に至ったら、冗談であったとしても「死にたい」と聞いていた側はどんな気持ちになるでしょうか。また「死にたい」と聞いていたのにどうして医療機関の受診を勧めなかったのですか、と責任を問われる可能性についても考えておかなければなりません。

 上記のように考え始めると、やはり「危機介入は難しい」と感じられるかもしれません。なので、少なくとも相手が「死にたい」と話してくれた際はもちろんなのですが、会話の中で自身の安全が保てないような状況がある場合には、一人で抱えずに、Keep Safeの観点から対応が出来れば良いのではないでしょうか。もし私の経験から加えるとすると「あ、自殺の可能性について聞かないと」と直感的に感じる場面があり、その時は自然と「もしかして、自身を傷つけてしまうようなことを考えていたりしますか」といった言葉が出てきます。「どういった状況でそう感じるか」は、言葉では表現できないのですが、相手からその言葉が引き出されてくるような感じなのですが、皆さんも「確認しておいたほうがいいかも」と感じた際には、言葉にして確認してみて下さい。「自殺をする方は、死にたいくらい辛い気持ちがある一方で、死にたくない、助けて欲しい、と考えていることが多い」と相反する感情を抱いている、とも言われますが、このような状況においては、聞かれた本人がホッとして自己表出し、スムーズに危機介入に繋がることも多いです。

 今回はかなり抽象的な話になってしまいましたが、皆さんの日常生活で少しでもヒントになればうれしいですし、私の個人的な経験が主になりますので、上記についての意見や感想も歓迎します。

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