新型コロナウイルスワクチンの職域接種に思うこと

 6月に入って、新型コロナウイルスワクチンの職域接種に注目が集まっており、多くの産業保健スタッフが何らかの形で関わっているのかな、と推測しています。

 新型コロナウイルスワクチンに対するスタンスは人それぞれであっていいかと考えているのですが、日本での現状としては「努力義務」であり「義務」ではありません(努力義務=実質的に義務だよね、って話もある)し、誰かに強制されて接種するものでもありません。日本、世界での感染状況、自身や家族、周囲の背景などを勘案して、各自で接種するかどうかを決めるのかな、と考えています。

 一方で、職域接種が注目され、職場で実施となると、どうしても同調圧力や強制性が出てくるのではないかと懸念はしています。業種から接種が必要だ、といった考え方もありますが、どこからが「業務として強く推奨」で、どこからが「各自に委ねる」なのかの判断も明確にはできなそうです。例えば、出張に行く際に、予防接種をした人を優先に、といった対応は「社員を守るため」にも見えますし「接種しないと出張に行かせない」にも見えます。また、顧客(個人、法人の双方)から接種を求められると、接種をせざるを得ない、といった状況もあるでしょうから、難しいですね。

 そして、自分で判断、といっても、やはり「誰かに意見を聴きたい」となるのは当然ですし、そういったアドバイスを主治医からもらうために、医療機関を受診することもあるでしょう。また、通院・加療中の健康問題がなければ、アドバイスをもらうために受診するかもしれませんが、これだけだと保険診療にならない(病名がつけられない)ので、医療機関も対応に困るといった状況があるのかも知れません。職場に産業医や保健師、看護師がいれば、アドバイスをもらいに行くかもしれませんが、あくまで、その医師の考え方に拠るところが大きいですし、接種するかどうかの判断は本人、といったスタンスでのコメントになるでしょう。そうしないと、あとから「○○が接種したほうがいい」といったから、と責められたときにトラブルになりかねません。もちろん、その時に、実際に責任問題になることはないとは考えていますし、健康被害が生じているなら国による補償はあるかもしれません。ただし、産業医としては、その後も社員ー産業医関係が続くということは考えておく必要はあります。もちろん、これは予防接種に限らず、健康の保持増進、医療機関の受診などなど、産業医活動にはつきもののリスクです。

 そして、産業医として接種を担当(予診でも接種でも)するのは医療行為だから産業医業務に含まれるのかどうか、といった議論もあるようですが、この点にあまり拘りすぎる必要はなく、事業者が産業医に何を求めているかを聞きながら、自分として出来ることを考えながら、コミュニケーションしていけば良い(やるならどういった準備がひつようか、ならないならどうしてか)のではないでしょうか。普段、メンタルヘルス対応の際に社員の話を聞くことが精神療法だというならば、そうなのかもしれません。もちろん、その他の産業医活動を疎かにしていいわけではないことは重要な視点です。私としては、医療行為だからできない、ということではなく、自らの手で接種をして、副反応が起きたときに、その後の社員ー産業医関係に影響が出ないかな、といったことくらいです。アナフィラキシーショックが、といったことも心配ではありますが、日常であっても職場内でそういった社員がいた際(ハチに刺されたとか?)には対応が求められるわけですから、特別なことでもないような気がします(率は高いでしょうから、より準備は必要ですが)。

 また、漠然と考えているのは、最低、1000人×2回程度の接種が求められており、なかなか事前にこの規模で接種が出来ることが確実な事業場は多くなさそうなのと、結果として接種する人が準備していたワクチン量を下回った場合がどうなるのか、といったことや、同じmRNA型のワクチンであるファイザー社製のワクチンでは、特に2回目の接種後に、30代、40代で半数程度が37.5℃以上の発熱を認めており(厚生労働省資料)、一斉に接種すると、事業継続に影響することもあるそうなので、どういったスケジュールがよいのかな、というところです。

 思いつくところをつらつらと書いてしまいましたが、とにかく、産業医としては何らかの形で関わることになるでしょうから、自分で出来ることを真摯にやる、には変わりないのかな、と考えています。 

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