職場における自殺対策をどう進めるか〜一次予防の視点から〜

 前回は、具体的な活動の中に自殺予防の観点を盛り込んで行くに当たって、一次、二次、三次予防の視点から考えていくことを提案しました、今回は一次予防について取り上げてみます。

 一次予防は未然防止で、自殺を予防するため、自殺防止のための環境整備
や自殺予防のための情報提供・普及啓発の取組になります。また、広く捉えればメンタルヘルス不調の未然防止は自死の未然防止にも繋がっています。そう考えると、自殺対策は、どこの職場でも何かしらはやっているといえます。このことをもって「メンタルヘルス対策」は「自殺対策」も包含している、と突然、積極的にPRし始めると「自殺対策が必要なほど、職場の中で問題になっているの?」、「自分も対象なの?」といった抵抗感が生じることも考えておく必要があります。なので、例えば、3月は自殺対策強化月間、9月は自殺予防週間等の機会にあわせて、周知・教育をスタートすると受け入れもスムーズかも知れません。その際には、令和元年中における自殺の状況(毎年3月に更新)や、職場における自殺の予防と対応などを参考にすればOKですが、1回実施しておしまい、ではなくて、継続して話題にしていくことで「自殺に追い込まれることがないように、困ったら相談できるといいよね」といった支持的な雰囲気のできるとよいのではないでしょうか。やはり時々、まれにしか取り扱わないと、「あったら困る」と忌避的になりがちで、声が上げにくくなるのではないかと考えています。

 環境整備の観点からは、「自殺対策」となるとどうしても医師、保健師、看護師等の専門職がやることであって、それ以外の非専門職からすると、「自分に出来ることはない」、「間違った対応をしたら大変」といった気持ちから、「自分には関係ない」となりがちですが、いつも身近に専門職がいるわけではありませんし、近くにいるからこそ出来ることがあります。職場においては、どうしても「上司として、気づけたはずだった」、「業務上の配慮が足りなかった」といった責任論、つまり、どこまでが自分の責任か、といった議論になりがちですが、身近な同僚、上司として「出来ること」をしてもらうのが第一歩です。メンタルヘルス不調や自殺のリスクが高い人は誰か、など専門的なことまで把握した対応は求められません。シンプルに表現すると、変化に気づいて、声を掛けて適度に傾聴し、周囲に繋ぐ、を繰り返します。これは「自殺対策」に限らず、仕事をしていく上で必要な、1.上手くいっていない状況に気づく、進捗状況を気に掛ける、2.本人とコミュニケーションする、3.必要な支援をする、といったことと何ら変わりありません。ただ、そうはいっても最初から上手に対応が出来るわけではありませんから、職場内でのOJTや産業保健スタッフが関わって、対応力を向上させていく必要がありますし、多くの職場では人は常に入れ替わって行くので、普及・啓発活動や体制づくりに終わりはありません。

 上記の視点を持てば、自殺対策における一次予防はハードルが高いものではなく、日常の中で浸透させることができそうなイメージになるのではないでしょうか。

 また、体制づくりの中での「相談窓口」ですが、社内だけでなく、社外に設置することも一つですが、社外だから相談しやすい、相談しにくい、は人それぞれなので、選択肢を増やす、といった位置づけでの設置は良いのですが、匿名性が高いからこそ危機介入がしにくいことも把握しておく必要があります。なので、外部相談窓口を設置する際には、例えば、契約書内に「自傷他害のある恐れがあるときには会社に情報提供をすることがある」といった記載があってもいいのかも知れません。いずれにせよ、外部相談窓口は選択肢の一つであり、どのように活用するか、を考えておく必要があります。

 ぜひ一度、職場におけるメンタルヘルス対策を振り返り、自殺予防の観点でどういったことが出来ているか、やっていくか、を考える機会をつくってもらえるといいのではないでしょうか。


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