ストレスチェックについて再考する〜個別対応編〜

 労働安全衛生法によるストレスチェック制度は、2015年12月に法制化され、5年が経過しました。なので、実施が義務づけられている事業場では5回程度は実施されており、ある程度、PDCAも回って、ルーティン化している状況かと考えています。今回、茨城産業保健総合支援センターから相談員業務の一環として、ストレスチェックに関するセミナーの依頼があったこともあり、いい機会なのでこの記事では個別対応について振り返ってみました。

4月13日(火) ストレスチェックの実施とその結果の具体的な活用例@土浦
(なお、1回目は3月2日に水戸で実施済み)

 個別対応≒面接指導になりますが、面接指導といえば、長時間労働に従事した労働者に対する面接指導があり、ストレスチェックと報告書・意見書様式が共通化されている部分もあったり、枠組みとしては似ているところもあります。ただ、長時間労働では客観的な長時間労働(基準は事業場で様々ですが)があって、その後の事後措置といった位置づけになります。この制度が始まって10年近くが経過しましたが、まだまだ長時間労働は解決した課題ではないということもあり、この制度の運用はある程度スムーズな印象もあります。例えば、特定部署の特定業務についている特定の社員が特定の時期(もしくは毎月)に面接指導を受ける、といった状況だと、面接指導を受ける側も慣れており、どう答えればスムーズに終了するかを理解している事も多いです。健康状態を踏まえて、就業上の措置が必要な際にも、まずは客観的な長時間労働の削減が第一であり、職場環境についても補足的な事項として伝えやすかったりもします。

 一方で、ストレスチェックの高ストレス者に対する面接指導においては、高ストレス≒主観的な高ストレスなので、高ストレスとなって面接指導に来た時点では、もちろん、本人がストレスを抱えた状況にあることを否定するものではありませんが、客観的に見て高ストレスの状態にあるかは判断できないのが、長時間労働に対する面接指導と異なるポイントかと考えています。なので、高ストレスとなっている状況を改めて面接指導で伺うと、本人が(職場環境に対する)ストレスを抱えていて、体調の不安があるのであれば、産業医としては、何らかの意見を述べないといけないな、と感じます。ただ、この時点で具体的な措置事項まで言及するのではなく、「実際の職場環境を確認してから必要な対応を考えたいので」といったコメントをして、意見書には「職場環境に対するストレスを抱えている状況のため、本人からの聴き取りを行い、必要な措置について検討すること」といった記載をして、人事労務担当者、上司、本人での相談、と通常のメンタルヘルス対応に繋いでいけば、高ストレス者対応は特別なものではないのかな、と考えています。

 また、制度が始まったタイミングでは、面接指導と通常の健康相談に分かれての対応が記されていましたが、私としては両者を区別することなく、「産業医へのメンタルヘルス相談」のきっかけの一つとして高ストレス者があり、お話を伺った後で、面接指導にのせる(意見書の発行)か、通常の相談(であっても、こちらで抱えることはせず、産業医として必要だと判断すれば職場にフィードバックする)とするか、産業医面談の中で確認します。

 それと、面接指導の中では、セルフケアに関する「指導」も重要です。職場環境のストレス要因を確認するだけではなく、日常生活についても確認し、食事、睡眠、運動などが健康管理には重要なことを伝えることも忘れてはいけません。面接指導を受ける方からは、「そんな重要なことがあったんですね!」的な内容を期待されることもありますが、ごく当たり前のこととして生活習慣改善の切っ掛けを作るだけでも十分です。

 人事労務、上司も高ストレス者面談を特別な枠組みとして捉えているかもしれませんが、全くそんなことはなく、上記の通り、産業医への相談を通して、ラインケアに繋がる機会が一つ増えた、くらいに考えてもらえればいいのでは、といった説明もしています。

 また、面接指導の実態としては「産業医を通して職場に伝えなくても、自分から職場に相談すれば解決するんじゃないかな」といった内容が多い印象もありますが、自分の困りごとをどうやって表現するか、相談をどう受け止めるか、などは人それぞれですので、産業医を活用することで円滑に物事が進むのであれば、一次予防(これがストレスチェックの主たる目的です!)的な効果もあるのかな、と考えています。ただし、関係者の問題解決能力を奪わないことも重要なので、それぞれの許容度を見極めながらの対応を心掛けています。

 上記は私の産業医業務に対するスタンスですし、どこの職場でも同じ対応が出来るわけではないことは理解しています。また、私の経験や考え方をシンプルに表現した内容になっていますが、当然ながら全ての対応がこの通りになるわけではなく、日々、悩みながらの対応をしているのも実態です。



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