産業医面談は癒しの場

 突然、スピリチュアルな感じのするタイトルですね。これまでの記事で「産業医は診断や治療はしない」といったことは述べてきました。また、例えばメンタルヘルス不調の社員との面談時にも、治療的意味合いを含んだカウンセリング的な対応をすると、上手く行かなかった際に信頼関係に影響をもたらすことがありますが、「産業医にカウンセリングしてもらっている」といったコメントはしばしば耳にします。

 一方で「治療はしない」ことを心掛けながらも、医師としての性なのか、目の前の人の健康状態が改善して欲しいと、といった気持ちは当然あるので、治療的対応をしたくなる気持ちを抑えながら面談をすることもしばしばですし、その気持ちやこちらからの働きかけに関係なく、産業医面談で元気をもらって仕事に戻る人や、産業医面談がきかっけで不調を脱する人がいるので、この辺りをどう説明するかは悩ましいところでした。

 そんななか、以前から興味がありつつ、なかなかしっかり学べなかったことにロゴセラピーとポリヴェーガル理論があります。

 ロゴセラピーは「生きることの意味を見いだせるように援助すること」だと考えています(表面的すぎる表現なので、各自で掘り下げて下さい)が、これは医師でなくても出来る行為です。このロゴセラピーと産業医の親和性ですが、産業医は、個別の健康問題への対応だけでなく、社内の健康管理などに関する施策の企画立案、世間話などから、たくさんの話を聴く機会があり、「世の中、色んな事があるんだなあ」とか「出来事に対する解釈は人それぞれだなあ」と常に感じますし、医師には守秘義務が課せられていることや、普段の活動から得られた信頼関係により、人には言えない自分の気持ちが話せる対象にもなれるため、表面的ではない人間の心の動きにも触れる機会があるのかな、とは考えています。こういったことから、「ロゴセラピーをしますね」とは表明することなく、普段の人との関わりの中でロゴセラピーの考え方を実践することで「生きることの意味」といった大きなことだけではなく、目の前で起きていることの意味や対処法が整理できるような援助ができ、問題解決能力を奪うことなく、問題解決能力を見出す、育てる、につながるのではないでしょうか。

 ポリヴェーガル理論は、自律神経系は活動的な交感神経系、抑制的な副交感神経といった単純な役割分担ではなく、社会関与に関係する腹側迷走神経系、凍り付き(freezing)に関係する背側迷走神経系、闘争ー逃走反応に関係する交感神経系の3つの機能が階層的に機能しているといったことがキーワードになります(これまた表面的すぎる表現なので、各自で勉強して下さい)が、社会関与に関係する腹側迷走神経系の役割を知り、周囲とのコミュニケーションの中で自分の腹側迷走神経系を機能させることで、相手に対して治療的な働きかけが出来るのかも知れないな、と考えています。例えば、自分の腹側迷走神経系が機能している時には、顔の表情が豊かになり、発声は相手に心地よいもので、お互いが安心して交流できるようになることが期待できますし、心臓(腹側迷走神経系の働きにより心拍数がゆっくりになります)を含めて保護的に作用することで、治療的とまではいかなくても、本来心身に備わった回復能力を妨げるのではなく、促進するといったことを期待しています。

 もちろん、これらの考え方はエビデンスとして確認されているわけではないですし、自分以外に強く勧めることでもないのですが、上記の考え方で接することは少なくともネガティブな作用はない(正しい方向に導くために、時には高圧的に人に意見し、従わせるのも一つの価値、と考えているならば話は別ですが)ですし、産業医という立場でどういった価値を+αできるか、や、自分のアイデンティティーの確立のためには大切なことかな、と考えたりはしています。

「産業医面談は癒しの場」というのはちょっとスピリチュアルな感じもしますが、上記のスタンスを持ちながら産業医活動をすることで、少しでも誰かの役に立てれば(癒しになれば)うれしいですね。

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