茨城県 成人期の発達障害リソースマップ〜産業保健スタッフとしてできること〜

前回の記事に引き続いて、「茨城県 成人期の発達障害リソースマップ」の成果物を活用したセミナーの振り返りです。

 前回は「成人期の発達障害」が「特性」か「健康問題」か、といったことについて考えてみましたが、どちらかに特定するのではなく、健康管理(疾病性)、労務管理(事例性)の双方の観点から関わるとともに、関係者を上手に巻き込んで、支援に繋げていく必要ありますよね、といったお話でした。

 では、産業保健スタッフとして実際に出来る支援としては何があるかというと、下記の4つがある(「どれが最も重要か」といったことはありません)と考えています。
1.医療機関等、外部資源に繋ぐ
2.医学的な観点から職場の理解を深める
3.本人に対するケア(寄り添い・見守り)
4.職場に対するケア(寄り添い・見守り)

1.医療機関等、外部資源に繋ぐ
成人の発達障害について診断をつけたほうがいいのかについては、私は迷うことが多いです。診断をつけるメリットとしては、必要な治療・支援が明確になる(支援として活用できる社会的資源が増える)、自身の状況に理解が深まる、職場として配慮がしやすくなる、などがありますが、デメリットとして、「レッテル貼り」や「偏見」に繋がる、将来の選択肢が限定される(自ら限定してしまう)、といったことがあります。また、職場として配慮がしやすくなる、というのは聞こえはいいですが、「障害なら配慮するけど、個性なら配慮しない」とも捉えることができるので、必ずしもメリットとは言えないかもしれません。私自身は、上記のことを考えながら、よほど事例性で困っていない限りは、こちらから積極的な提案はせず、本人の希望に基づきながら対応します。また、医療機関を受診する際には、主治医からは職場の状況が見えませんので、出来る限り職場の関係者にもお話を伺って、受診の主旨についても記載した情報提供書を作成することにしています。なお、抑うつ状態などのメンタルヘルス不調を期待している際には、医療機関に繋げやすいポイントだとは考えていますが、最初から「成人期の発達障害」に焦点を当てず、体調を整えながら背景を探るようにしています。

2.医学的な観点から職場の理解を深める
これについては、茨城県 成人期の発達障害リソースマップ〜「成人期の発達障害」についての定義〜でも記載したように、「成人期の発達障害」と定義されるケースがあり、「事例性」が「疾病性」に起因していることについて、職場の関係者への丁寧な説明が求められます。これは、3.本人に対するケア(寄り添い・見守り)、4.職場に対するケア(寄り添い・見守り)にも通じています。

3.本人に対するケア(寄り添い・見守り)
これについては、前回記事をTwitterで紹介した際の、精神科医、産業医をしておられるキミドリ先生とのやりとりを見て頂くとわかりやすいです。
https://twitter.com/kShtf2MXokYIblD/status/1357622950535438341
単純化すると、健康管理の観点からは、二次的に抑うつにならないように、労務管理の観点からは、周囲との信頼関係が構築できるように、といったことになります。

4.職場に対するケア(寄り添い・見守り)
これについては、関わる職場の負担は大きく、ともすると、教育がハラスメントに繋がってしまうことがあるため、職場に対するケアが必要になってきます。産業医は幅広く産業保健の課題に精通しているという立場なので、社会全般に「成人期の発達障害」の課題があり、本人も困っているが、支援する職場の負担も考慮する必要がある(産業医として支援する)といったスタンスが重要になってきます。

3、4に絡めての補足ですが、産業医は「成人期の発達障害」について、判断や解決に向けての関わりはしている(メンタルヘルス不調を含む職場での健康問題全てに同じ事があてあはまります)わけです。また、解決に向けての関わりの中で人を育てることができる可能性は秘めていると感じますが、これは「健康管理」ではなく「労務管理(人材育成含む)」で本来は産業医の役割ではないかもしれません。何が言いたいかというと、産業医は診断や治療はしないという立場ではありますが、判断や解決に向けての関わりはするわけで、対個人だけでなく対組織における支援職の要素は含んでいるわけですし、そこが面白いところでもあります。ただ、この判断や解決に向けての関わりは、産業医を務めている会社のため、というより社会のためかもしれませんし、そのためには自分も成熟していかないとな、といったことも考えています。



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