職場での救急対応

 久しぶりの投稿です。タイトルは「職場での救急対応」としましたが、「体調不良者への対応」といった感じかもしれません。

 職場で労働者が体調不良になった際にはどのように対応しているでしょうか。職場によっては、緊急時の対応としてマニュアルを定めているところもありますが、「緊急」とはどの程度の状況を示すのか、までは明らかになっていないことが多いでしょうし、例えば、デスクワークの労働者が具合が悪そうにしている際に、緊急対応(≒組織としての対応)が必要なのか、それとも、帰宅や医療機関の受診を促せば良いのかの判断は、簡単ではないでしょうし、マニュアルなどで厳密に決めようとすると、マニュアルに沿わない対応ができなくなる、もしくは、その場の判断で異なる対応をした際に責任を問われる、といったリスクも考えておかなければいけません。

 そこで、「緊急時」に限らず、基本に立ち戻って考えて、職場としては安全配慮義務の観点、つまり「現状で、就業させて良い健康状態か」という視点から整理できないでしょうか。例えば、上司が体調の悪そうな人に気づいたら、「大丈夫ですか?」と声を掛ける、その中で、「体調が悪い」といった話になれば、まずは「体調の悪い状態で就業させない」といった判断(≒安全配慮)をする、その上で、1)体調が落ち着くまで職場内で休むのか、2)帰宅してもらうのか、3)医療機関受診を勧めるのか、4)救急車を呼ぶのか、といったことを本人(本人から見たら、安全配慮だけではなく、自分の事は自分で決める、といった側面もある)と相談する、上司だけで判断できないときに、人事労務担当者(職場の対応水準に合わせる、複数の立場で判断する)や産業保健スタッフに相談する、といった流れになるのかと考えています。

1)体調が落ち着くまで社内で休む
 本人が「少し落ち着けば良くなると思うので、休ませてください」と希望することは良くありますよね。また、職場内に休養室があったりすると、上司が気づく前に本人が自発的に休養室を利用しているかもしれません。その際ですが、職場としては、休養室の運用を決めておくことが重要です。本人が休養室で休んでいる間は、誰が本人の健康状態に責任を持つのか、利用する際には誰かに声を掛けるのか、どれくらいの時間使えるのか、勤怠取り扱いはどうするのか、などの整理と周知が重要になりますが、下記にポイントを整理します。

・誰が本人の健康状態に責任を持つのか
 休養室で休んでいる場合には、基本的には本人の責任となる部分が大きいのではないでしょうか。当然ながら、休んでいれば良くなることは誰も保証は出来ないですし、誰かが常時見ていることは難しいでしょうし、産業保健スタッフであっても、日常業務の中での対応、つまり、他にも優先度が高い業務があるかもしれないし、優先度を判断するための体制、設備がない場合がほとんどなので、医療職という立場から期待されるような見守りは難しい場合が多いです。ただし、体調が悪くて休む人に「あなたの自己責任で利用してくださいね」と言いづらいのもその通りなので、普段からの運用ルールの周知が重要となります。

・利用する際には誰かに声を掛けるのか
 体調のことを上司や人事に知られたくない、といった気持ちもあるでしょうし、報告する必要があるなら我慢する、といったことがあるかもしれません。ただし、職場の設備を提供するわけですし、使った場合は清掃も必要ですし、万が一、休養室で更に体調が悪化するようなことがあった際に「職場として把握していなかった」は避けたいでしょう。
 また、休養室の利用が産業保健スタッフの裁量になっている職場(利用時には産業保健スタッフに一声かけて、など)もありますが、本人が職場に報告せずに休養室を利用すると、「○○さんがいない」と職場で所在確認をすることになったりもします。これは産業保健スタッフに対する相談(情報)を、どう取り扱うか、つまりどこまで職場と共有するか、とも関係します。

・どれくらいの時間使えるのか、勤怠取り扱いはどうするのか
 一概には決められませんが、職場に来て一日休養室にいたり、週に何度も利用したり、というのは望ましくないでしょう。そういった場合には、別途の対応(帰宅してもらう、医療機関を受診してもらう、休業してもらう)を考える必要があります。

2)帰宅してもらうのか
 帰宅させる際に考えておかなければならないことは、安全に自宅に到着できるのか、です。通勤で公共交通機関を利用して遠方から来ている場合は、送っていったり、家族に来てもらったりするのかどうか、自家用車の場合は安全に車の運転できるのか、一人暮らしであれば、連絡のつく家族に報告するのかどうか、などがポイントです。また「自宅に到着した」の連絡はもらうようにしておくといいのではないでしょうか。

3)医療機関受診を勧めるのか
 これも難しいポイントです。普段から「体調が悪ければ医療機関を受診すること」と社員に職場のスタンスとして示しているのであれば、受診を促すことにはなりますよね。ちょっと脇道にそれますが、このときに、体調不良が業務が関連していたりすると、「できれば受診せずに済ませたい」といった雰囲気を感じることがあります。産業医として相談を受けた際には、まずは自身が受診したいなら尊重する(受診しなくて良いとは言わない)、あとはその時の状況や話次第でケースバイケースになりますが、産業医は、労働者と医師ー患者関係にあるわけではなく(診断、治療をしているのではない)、職場側から、体調不良者に対する対応について助言を求められている、といった立場で関わります。なので、産業医の意見を踏まえて、受診する、しない、を判断してもらう(受診するように意見をしても受診しない場合もあり、強制力はない)のですが、労働者側、職場側がどう捉えているかは、つまり、産業医が受診しなくて良いと判断した、受診する必要があると判断した、と捉えられる可能性も念頭に置いて関わります。

4)救急車を呼ぶのか
これもケースバイケースなので、どういったときに救急車を要請するのかを言語化して説明するのは難しく、マニュアル化は困難(「意識がない」などは比較的わかりやすい)ですし、人それぞれの経験や考え方による部分も大きいです。また、救急車を要請する必要があったか、なかったかは結果論でしかありません。なので、街中で体調不良者がいたときの判断基準と同じでも良いですし、「様子を見ていてよいのかわからないし、医療機関まで連れて行けない(動かせない)」のであれば要請してもよいのかな、と考えています。もちろん、職場での事例を振り返って、次の機会に活かすといった視点も大切です。

 ざっくりとした話ではありましたが、読み返してみると、救急対応は毎日起こるわけではないですし、自分がどれくらいの時間、職場にいるかによっても悩ましい度合いは変わってきます。また、職場内での運用について全ての社員に理解を求めるのはとてもむずかしいです。それでも普段からの準備が大切、つまり、職場から○○のときはどうする?と話題に出しておくことで、落ち着いて対応できる部分があるのではないかと考えていますので、ぜひ職場で話し合ってみてください。

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