メンタルヘルスの問題で困るのは誰か
前回の「職場におけるメンタルヘルスの本筋は労務管理」の記事とも繋がりますが、その労務管理が上手くいかなかったときに困るのは誰でしょうか。この「職場におけるメンタルヘルスの本筋は労務管理」は、メンタルヘルスの問題を解決するには労務管理が重要という意味ですが、労務管理(人事管理も含まれるかも)は何のためにするかというと「法令等を遵守してビジネスを行うため」なのかな、と考えています。前半の「法令等を遵守して」はコンプライアンス的な側面、後半の「ビジネスを行うため」は、企業として社会で存続していくことを指しています。そして職場や働く人を見ていると、「法令等を遵守してビジネスを行うため」の労務管理が出来ていないことでメンタルヘルス不調が生じてくるよう印象があります。つまり、労務管理の機能不全の延長線上にメンタルヘルス不調がある、ということになり、「職場におけるメンタルヘルスの本筋は労務管理」にも繋がるわけです。
さて、この労務管理が上手くいっていないとき誰が困るかというと、まずは働く人が困ります。例えば、
・時間管理がちゃんと出来ないことでサービス残業が生じている。
・業務分担に不均衡があり、特定の社員に負荷が集中する。
(その背景に「上司に気に入られているかどうか」があったりする)
・人事異動の対象となるのは特定の社員だけ。
・ハラスメント的な相談があっても黙殺する。
といった状況が生じ、その先にメンタルヘルス不調が待っていたりするわけです。
また、上記を読むと「なんてひどい職場なんだ!」、「上司は何をしているの?」と感じる方もいるかもしれませんが、実は上司も会社から任されている裁量がほとんどない状況で苦しんでいたり、会社、経営層、人事部門から労務管理に関する方針が示されていなかったり、サポートが得られないことで問題を抱えてしまっていることも少なくありません。
こうなってくると、社員がメンタルヘルス不調を抱える、上司はどう解決していいかわからず右往左往する、その職場が求められる成果が出ず、ビジネスに支障が出る、となって会社が困るでしょうし、労務管理の司令塔である人事部門が機能していない、といったことになるのではないでしょうか。ここで、目の前のメンタルヘルス不調を抱えた社員のフォローに囚われてしまうと「困ったら産業医に!」といった発想になりがちなのですが、あくまでこの状況は会社が主体的に解決する意志がないと、実効的な改善には至りません。
「実効的な」としたのは、例えば、短期的にはメンタルヘルス不調を抱える社員と産業医面談を実施して、医療委機関に繋げて休養させ、体調が改善したら復職させる、といった対応(ここは産業医として関われる部分が大きい)をすることで、問題解決に向けて進んでいる感じもしてしまうのですが、環境改善につなげたり、メンタルヘルス不調の社員を適切に診たてて職場復帰させないとメンタルヘルス不調による休業を繰り返す、周囲の社員がメンタルヘルス不調に陥る、といった悪循環になってしまいます。ここで、社員の診たてと環境改善に向けた産業医意見が重要になってくるのですが、それを職場がどれだけ取り入れてくれるのか、がポイントになるのではないでしょうか。
ガチ産業医先生もこんなことをコメントしています。
私も会社側(会社側って誰なの?って話もありますが)は分かってくれないし、分かろうとして聴こうともしないかもしれないな、と感じることはしばしばありますが、その前提で、「何をどこまでどうやって言うのか」を常に考えています。また、タイトルの「メンタルヘルスの問題で困るのは誰か」ですが、少なくとも産業保健スタッフではないですし、自分たちが困らないことが結果的には改善への近道ではないかとすら考えています。そのためには、目の前の課題に対して、困るべきは誰か、つまり誰がその問題を解決するのが望ましいか、を見極める力が必要になります。その一方で、困っている人達を「それは私達の問題ではないので」とキッパリと見過ごすことができるか、というとそれはまた難しい問題であり、「一緒に困る」くらいの距離感はあってもいいかな、とは考えています。
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