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人形を売っていた話

昔、私は人形を販売していた。
思いもよらないことに、その経験が後の起業につながることになりました。

私が売っていたのは、球体関節人形という、一般的にはマニア向けの人形の中でもさらに特殊なジャンルのものでした。それらの人形は、日本のある企業によって開発され、世界で初めてカスタム可能な人形として登場しました。その革新的な存在が、ドール業界で新しいジャンルを築き上げることになりました。日本の企業の商品でありながら、海外のメーカーも同様の商品を製造し、一大産業にまで発展しました。今ではそのファンの数は10万人と言われています。

当時、私はベンチャー企業でサラリーマンをしていた2009年頃、韓国の友人と一緒に、何か収益を上げるビジネスを考えていました。私は以前、インターネットコマース業界で働いた経験があり、ECコンサルタントとしての実績もありました。商品さえ決まれば、ネット上での販売には自信がありましたが、副業としては時間とお金の面で限界がありました。そこで、お互いの特徴を生かし、地域差に頼って個人輸入と転売ビジネスをすることにしました。

転売ビジネスとは、商品の移動における価格差を利用して利益を得るビジネスです。例えば、フリーマーケットで1000円で購入した商品をメルカリで3000円で売ると、配送料などを差し引いて1500円の利益となります。また、場所によっては価格が異なったり、商品の移動を効率化する方法などもあります。また、個人輸入は為替差や情報の非対称性、輸入コストなどが大きく影響するため、転売ビジネスではよく用いられる手法です。

友人と一緒に転売ビジネスを始めた私は、様々な商品をヤフオクで販売し続けました。その中で、日本オリジナルの人形と韓国のメーカーが製造している類似商品に出会いました。この人形は価格が数万円から数十万円に及ぶ高価な商品で、受注生産という特性もありました。ヤフオクに出品してみると、必ず一定以上の価格で落札され、購入者がリピートしてくれることがわかりました。競合も少なく、海外からの仕入れルートも確立していたため、私たちは一人勝ちでした。また、受注生産の特性から、在庫を抱えずに高単価で販売することができるため、サラリーマンの週末副業としては最適なビジネスでした。

その後、ヤフオク以外にも独自のウェブサイトを作り、専門のインターネットショッピングサイトをオープンしました。結果として、個人事業主として事業を拡大させ、副業ビジネスの目標を達成しました。

価値を生むことにしか興味がないことに気づく

人形ビジネスを始めて数年が経ち、競合も出始めて以前ほど楽なビジネスではなくなってきた。
副業ということで手間をかけずにリスクを取らずに行うことを最初に決めていたが、商品を売るために積極的に行動し、人形のパーツを扱ったり在庫を持つなど手間とリスクが増えていった。
ネットで商品を販売するためには、商品の写真や説明文を集めて商品ページを作る必要がある。商品ラインナップが多いほどお客が買うものが増えるので売上が上がる。また、人形は受注生産だが、先に発注して在庫を持てば、お客は欲しいものをすぐに手に入れられるので喜ばれ、リピートに繋がりやすくなる。新規顧客の獲得とリピートを増やすためには、在庫を持って商品数を増やすことが事業の成長につながるとわかっていたので、私たちはそれに取り組むことにした。

そこで、私の人生に大きな影響を与える出来事が起きた。

商品ページを作ろうとしても、なかなか進まない。売れることはわかっているが、全くやる気が起きない。その間に発注した商品が家に届き、早く商品を登録しないと在庫が積み上がっていく。しかし、まったくやる気が起きない。在庫を見たくないので押入れにしまい込んで、なかったことにしようと思ってしまったほどだ。
私自身、本来人形には興味がなく、売りやすい商材としてしか考えていなかった。ただ単に儲かるからという理由でこの転売ビジネスを続けてきた。

そこで気づいた。私は「価値を生むことにしか興味がない」と。

転売ビジネス自体を否定はしないが、そこで何かを創り出すわけではなく、価格差を利用してただお金を稼ぐだけのビジネスだった。
もし私が人形が大好きで、韓国の人形を手に入れたいユーザーが、手に入れることができずに悲しんでいて、誰もその課題を解決してくれない状況なら、その仕組みを作ることは「価値を生み出している」と言えるだろう。ただし、私がやっていたビジネスでは、仕入れ代金に配送料と手間賃、私たちがほしいお金を上乗せして顧客が買う価格を設定し、商品を登録する。そして、自社サイトやヤフオクに掲載している商品に注文が入ると、韓国のメーカーのサイトで人形を注文して、入荷したら検品し、お客に空輸で配送するという流れだった。
最初に何も決まっていないところから商材を見つけ、売れる仕組みを作るまではやる気があったが、売れるようになってからは興味もない商品をもっと売るために努力することが苦痛になってしまった。副業として始めたビジネスでお金を稼ぐことが目的だったはずなのに、自分にはそこに意味を見出せないことがわかってしまった。

軍資金を手に入れる

ただお金を稼ぐことや、事業を拡大するということに情熱ややる気を感じる人もいますが、私はそこは後回しで、何かの価値を生んでいるという実感がないとモチベーションが湧かないと気付いた後は、人形ビジネスも続ける意味を見失いました。
まさに競合が一部の韓国メーカーと独占契約を結び、仕入れが困難な状況になったことがきっかけで、店を閉めることにしました。大量の在庫を抱えていた人形の部品は、一つ一つ売るのが面倒だったので、まとめて箱で販売し、ヤフオクの出品も全て取り下げ、自社サイトも契約を順次終了させました。

最後に残ったのは、この数年間で稼いだほとんど手付かずの人形ビジネスの売り上げである銀行口座の残高だけでした。それを二人で半分ずつ分け、私たちの週末副業は終わりました。

そして、その時の人形ビジネスでの経験と稼いだお金が、その後私の人生を切り開く資金となることを、当時は全く知る由もありませんでした。


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