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「ツアーには参加しないが友達には会いに行く」そこにある巨大な市場VFRとは?

コロナの波が落ち着きをみせ、一見旅行業界にとって追い風のようにみえるが、そう簡単に人々が旅行にいくほど安心していられる状況でもないかもしれない。

「我慢していた人々は旅行に行き始める」は迷信

これまで日本人にとって旅行は、代表的な余暇活動であった。しかし近年は、スマホゲームや映画ストリーミングサービスの台頭などに伴う、可処分時間の争奪戦が激化している。実際に10~30代の半数以上がスマホゲームを毎日行っている。

私たちの周りはいま、家を出ずとも楽しめる娯楽に溢れている。旅行業界の各所では「みんな我慢していたから旅行が一気に増える」という声も多い。たしかに、ある程度一時的な回復をしていくことは予測できるが、言い換えればコロナの期間で「家でも楽しめる生活スタイルを確立した」人が多いとも捉えられる。そのため、長期的に旅行者がV字回復していくかはなんとも言い難い気がしている。

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その中で、旅行にいく「動機付け」は今後業界にとっても重要なテーマになってくる。そこで今回ご紹介したいのが、最強の「動機付け」になりうる「友達や親戚に会いにいく」という行動原理と、その先に広がる巨大市場VFRについてだ。

ツーリズムの3大目的のひとつ「VFR」

VFRとは「Visiting Friends and Relatives」の略称。友人や親戚を訪れることを目的とした旅行のことを示す。日本ではデータも少なくあまり認知されていない概念であるものの、今後の旅行業界においてVFRがもたらす市場は最も注視するべきもののひとつだと思っている。実際に観光大国であるイギリスでは、VFR比率が全体の3割以上を占め、観光目的の次に大きなウェイトになっている。3人に一人が友人や家族を訪れることを目的に渡航しているだ。

ツーリズムの3大目的とされるのが観光(休暇)、ビジネス、そしてVFRです。筆者は、このVFRが今後、優れて21世紀的なツーリズムとして重要な位置付けを獲得していくのではないか、と考えています。
(JTB総合研究所フェロー 黒須宏志氏 2013年2月)

「友達に会いに行く」という最強の動機

旅行にいく「動機付け」は今後旅行業界にとって重要なテーマになってくる。

余暇活動として位置付けられる旅行において、ここ10年で爆発的に激化した可処分時間の争奪戦は、あまりに向かい風だ。スマホをひらけばすぐにゲームもでき、週末には家でNetflixで話題のドラマを一気観するのが楽しみという人も少なくない。その中で、なおさら旅行にいく動機は少なくなる。そもそも地域に関心を抱き、家を出て旅行に出るという行動は、スマホをタップする何百倍と労力が必要になる。

本来、旅行は観たい絶景や、食べたいご当地グルメがあったり、目的地に行く「理由」が明確にあることが多い。そのため、渡航前にエリアの情報をそもそも知っている場合や、事前に調べてからいくことがほとんどだ。その過程で出会う情報の魅力が、結果的に「動機」になっていく。しかし、観たい絶景や食べたいご当地グルメは、家ですぐに実行できるスマホのコンテンツに比べて、やはり行動を起こす「動機」としては弱いのが実情だ。

ただ一点、「友達に会いに行く」場合は一気に行動のハードルが下がるという魔力がある。ここにVFRがツーリズムの3大目的になる由縁がある。

行く理由がそもそも「友達に会いにいく」なので、旅行の理由はそれ以上でも以下でもない。エリアに心躍る魅力がなくても構わない。ただ、会いにいく。それだけなのだ。しかも不思議と身が軽くなる。さらに面白いのが、渡航先のエリアの魅力や情報に出会うタイミングが「友達に会いにいく」場合だと逆行することが多い。つまり、友達に会いに行った先ではじめて面白いスポットや体験を行うということだ。

「圏外」の情報と出会う。旅行体験として秘めた魅力

インターネットにはない、圏外の魅力と出会うことができる。これがVFRの最大の面白い要素だ。

そもそも旅行はスタンプラリー的な行動になることが多い。事前に調べて行きたいと思ったところ巡り、確認していく。着いたら写真を撮って、訪れた証を残す。

しかし、「友達に会いにいく」場合は、そもそも行きたい場所など存在しないケースもある。友達が住んでいるエリアによっては、ネットで調べても際立つスポットが見つからないというのも珍しくは無い。ただ、VFRは振り返った時に「あんなに面白い場所があったのか」「また行きたいな」と記憶に残る旅になっていることが少なく無い。皆さんも、そんな体験をしたことが一度はあるのでは無いだろうか?

私も過去に、大学の先輩が住んでいるという理由だけで、ラオスとカンボジアの国境を有するタイのウボンラーチャターニー(ウボン)という場所に行ったことがある。

ネットで調べても情報がほとんどなく、タイの田舎なのかなあという印象しかなかった。しかし、実際に訪れたら、日本人が遊びでくることはほとんど無いエリアだったが、先輩の奥さんが教員として教える学校に入ってみたり、地元の市場を案内してもらったり、リアルなタイの家庭に泊めてもらい、食事を御馳走になるという体験は、本当に楽しかった。是非また行きたいと思っている。

もし先輩がウボンに住んでいなかったら一生いくことがなかったと思うと、感慨深い。まさに、友人という媒介を通じて、「圏外」の魅力に接続した瞬間だった。言い換えれば、インターネットにある薄い情報ではない、ストリートのリアルで文化的な体験をするには媒介者であり、案内人となる友達のような存在が必要ということだ。

つまり、「友達に会いにいく」旅行は、旅行のハードルを下げるだけでなく特別でユニークな旅行体験を生み出すものなのだ。

ここで深堀はしないが、我々が運営しているロコタビが5万人の海外在住日本人ネットワークを構築し、市場の小さいアウトバウンドにも関わらず20万人のユーザーの方々に登録してもらえている理由は、これまで述べたVFRの利点を機能的に活用している背景がある。ロコタビ もまだ道半ばではあるものの、引き続き「旅行とは何か」を深堀ながら、日本人の旅行体験の向上について考え貢献していきたいと思う。

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