AKB48は「ヒト消費」の完成モデルだと思うのですが、どうでしょう?
こんにちは、ロコタビの椎谷です。
「会いに行けるアイドル」がメジャーデビューしたのが2006年。そこからの快進撃は誰もが知るところです。
最近私が注目してる「ヒト消費」という消費者行動を表現するキーワードがあります。その「ヒト消費」の日本国内でのルーツというか、先行事例を考えた時に、「AKB48」に行き着くのではと考えています。
今回、その理由とネット社会が「個人の能力を拡張」していくことが、より「ヒト消費」に繋がっていく事について書きたいと思います。
「ヒト消費」とは何か?
note初投稿の「サービス名称変更」の記事の中で、時代は「モノ消費→コト消費→ヒト消費」に移って行ってると書いたのですが、ネットなどで調べてみると、まだあまり「ヒト消費」のこと言ってる人は多くはないようです。。
ただ、「ヒト消費」について書いた数少ないネット記事には、多くの人が反応していて、あのジャーナリストの佐々木俊尚氏も実感していると言っています。
「ヒト消費」の話をする前に、まずは以前からある「モノ消費→コト消費」の流れを押さえておく必要があります。
経済産業省の『平成27年度地域経済産業活性化対策調査報告書』によると、「モノ消費」と「コト消費」について、以下のように書かれています。
「モノ消費」とは、個別の製品やサービスの持つ機能的価値を消費すること。価値の客観化(定量化) は原則可能。
「コト消費」とは、製品を購入して使用したり、単品の 機能的なサービスを享受するのみでなく、個別の事象が連なった総体である「一連の体験」を対象とした消費活動のことである。集積した製品群、サービス群が個々の製品やサービ スに切り分けられることなく、一連の体験として時間経過の中に溶け込み、1つの情動的価値を提供する「コト」として認知されるように設計・管理することが、個々の価値や仕様だけではない非価格競争(差別化)の源泉を生む。
高度経済成長が終わり、国内消費市場が成熟化したことで、消費者(買手)が支払う対価として、機能的な価値を提供する「モノやサービス」だけでは十分ではなく、より直接的に顧客が満足感や高揚感を得られる、情緒的な価値を提供する「コト(体験)」が求められるようになったというのが、「モノ消費→コト消費」の流れになります。
「コト消費」の事例としては、街コンやコスプレなどの体験型イベント。スポーツ観戦やコンサートもその一種でしょうか。また、最近では、旅行中のアクティビ体験など、旅行業界で注目のタビナカ市場も「コト消費」の一つといえます。
前フリが長くなりましたが、「モノ消費→コト消費」というのが、これまで言われてきた消費者行動になります。
しかしどうも最近は、「コト消費」だけでは説明できない消費者行動が起こりつつあるようです。それが「ヒト消費」です。
もはや「消費=交際費」である。
マーケティングの専門家が「モノ消費」から「コト消費」へとお金の流れが変わっているのだというのですが、本人たちに話を聞くと「コト消費」という意識がないのです。そこにいる人と一緒にいることができるから、その体験が共通の話題や記憶になるから「コト消費」をする。いいかえるとやっていることは「コト消費」に見えても消費のきっかけはむしろ「ヒト消費」なのです。
参照:マネー現代「日本の若者たち、「コト消費」から「ヒト消費」に激変していた…!」
「コト消費」にみえて、実際には「ヒト」に起因して消費者行動が起こると考えると、色々と周りでも、思い当たる節があるのではないでしょうか。
例えば、最近流行りの声出しOKの映画鑑賞「応援上映」。昨年話題になった映画「ボヘミアン・ラプソディ」を、そのファンたちが集まって、コスプレをしながら皆で歌い、楽しむ体験型映画鑑賞です。
一見「コト消費」に見えますが、「コト」だけであれば、ノーマルな映画鑑賞でも良いはずです。実際には、応援上映に来る「ヒト」に会いに行き、一緒に楽しむことが目的の「ヒト消費」ではないでしょうか。
「モノ消費→コト消費→ヒト消費」の消費目的を並べると以下になります。
モノ消費=商品・サービス
コト消費=体験
ヒト消費=出会い
最近はよく「体験」が大事と言われることが増えていますが、世の中はすでにその先の「出合い」を重視する「ヒト消費」に移っているというのが私の仮説です。
「会いに行けるアイドル」AKB48
「ヒト」に会いに行くことが「ヒト消費」の本質だと考えると、その典型例が頭に浮かびます。
そう、会いに行けるアイドル「AKB48」です!
AKB48がデビューしたのは2006年で、今から約14年程前になります。
2006年といえば、堀江貴文氏が逮捕されるライブドアショックがあり、2001年から続いた小泉政権が終わり安倍政権に交代し、戦後初めて日本の人口が減少局面に入った、時代の流れが大きく転換する象徴的な年でした。
2006年のヒット曲をみると、KAT-TUN「Real Face」、レミオロメン「粉雪」、修二と彰「青春アミーゴ」、湘南乃風「純恋歌」、TOKIO「宙船」、絢香「I believe」など名曲が多く生まれました。
そんなタイミングにAKB48はデビューし、「会いに行けるアイドル」という斬新すぎるコンセプトで日本のアイドル業界に革命を起こすことは当時は誰も予想していなかったと思います。
そして、今まで高嶺の花だった「商品としてのアイドル」が、「会いに行けるアイドル」になったことが、「ヒト消費」を象徴する最初の出来事だったと私は考えるのです。
蛇足になりますが、「日経ヒット番付」の2006年と2019年を比較すると、「モノ→コト」に消費者行動が変化してきたことがわかります。
■2006年(平成18年)の日経ヒット商品番付
・デジタル一眼レフ(ソニーと松下が参入)
・ショッピングセンター(豊洲、鶴見などに大型SCが開業)
・ICきっぷ(モバイルスイカ、SKiPなど)
・軽Car(軽自動車の市場拡大)
・メタボリック対策商品
・脳グッズ
・ウェブ2.0(mixi上場)
・フルハイビジョン
■2019年(令和元年)の日経ヒット商品番付
・ラグビーW杯(日本開催)
・キャッシュレス
・令和
・タピオカ
・天気の子(新海誠監督のアニメ映画)
・ドラクエウォーク(位置情報RPG)
・ウーバーイーツ(レストラン宅配代行)
・こだわり酒場のレモンサワー(800万ケースの大ヒット)
ネットは個人をエンパワーメントしたのか?
最近、「カリスマブロガー」や「ユーチューバー 」、「ネットアイドル」など、今までなら出てこなかったような個人が活躍できる場所が広がって来ています。
インターネットの普及とそれに伴うツールやインフラが整ってきたことが理由ですが、最近だと「個人の能力を拡張する」ツールとして、様々なサービスが登場しています。フリーランスに仕事が発注できるクラウドソーシング、個人でファンクラブができるオンラインサロン、食通がお店を紹介するグルメアプリなど。
ただ、活躍している人を見ると皆一癖も二癖もあって、活躍する理由は何となくわかる人ばかり。一昔前だったらHIKAKINが今のように活躍できたかというと、難しかったとは思いますが、皆他とは違う特異な才能や自己プロデュース力を持っています。そして、彼らは活躍の場は違っても、何かで自分の事をアピールして力を発揮する事が出来るという意味で、一芸に秀でた特別な能力を持った人たちと言えます。
そう考えると、本当に「ネットは個人をエンパワーメント」しているのか?
もともと能力が高く、自己プロデュース力がある人が、今まで以上の名声や価値を作り出す事が出来るだけで、その他大勢の人は「活躍した個人」との差を広げられ、相対的に「個人の力が縮小」するのが今のネットの仕組みなのではないかと考えてしまいます。
その象徴的な事例が、個人の「時間」や「価値」を売買できるサービス「VALU」や「タイムバンク」、「FiNANCiE」です。
個人をエンパワーメントすることを謳い文句に華々しくリリースされ、最初の頃は有名ブロガーや著名人などが参加し話題になりました。
しかし、「VALU」は今年3月に終了し、「タイムバンク」は大幅にサービスの仕様が変わりました。FiNANCiEは昨年2019年5月頃にリリースされたばかりなのでまだ継続中のようです。
「VALU」や「タイムバンク」が当初のコンセプトでは上手く行かなかった理由は色々とあるとは思いますし、実際のところよくわかりませんが、お金をベースにしたことが要因の一つだと考えています。本論とはずれてしまうのでここでは書きませんが。
私個人としては、この事象は「ネットが個人をエンパワーメント」する方向性に、別の余地があることだと理解し、ネットの可能性の広さに少し安心をしました。その理由を後半で説明します。
AKB48の「場」の価値
ここでまた、AKB48が登場してきます。
ネットではありませんが、私が「個人の能力を拡張」したと考えているのが「AKB48という場」です。AKB48の価値は所属している彼女たちが輝ける場所を提供し続けている事ではないかと思うのです。
■ツールと場の違い
「個人の能力を拡張」するという意味では同じですが、VALUやタイムバンクが「ツール」だとすると、AKB48は「場」です。「プラットフォーム」や「フォーマット」と言い換えても良いかもしれません。
ツールは使いこなしたもん勝ちです。ツール系サービスを見ると既に活躍している人がかぶるのは、ツールの使い方をわかっている人達(ハッキング能力が高い)だからです。
一方、「場」であれば、ツールも含めてもっと広く「個人が活躍する」ことができます。
AKB48に所属する子達は様々な経歴や能力、特徴を持ってはいますが、アイドル、芸能という枠の中でみると、同じ能力をもった子は大勢いて、よほど秀でたモノがない限り活躍することは難しい。
しかし、AKB48はエリアやプロジェクトによって色々なグループが存在することで、そのグループに所属していることが価値を生み出す仕掛けになっています。これを秋元康氏は「フォーマット戦略」と言っています。
例えば、「走るのが好き」な子がいて、マラソンアイドルとして売り出すとします。しかし、マラソン業界、アイドル業界を見渡すと既に自分より可愛くて、もっと走ることが得意な子が大勢いる。
そこで、「AKB48×走るのが好き×秋葉原」というポジションをつくることで、他と差別化し、更にAKB48という場の安心感を与えることができます。
そして、以下のように、次々と展開することが可能になります。
「AKB48×走るのが好き×名古屋」→ 東海地方のRUNイベントに呼ばる
「AKB48×音大生×福岡」→ 芸能人音楽対決に出場
「AKB48×インスタ×バンコク」→ タイ人向け訪日大使に
「AKB48×巨乳×下北沢」→ 下北沢グラドル
etc
ツールは使いこなしたもん勝ちで、特定の能力の高い人に偏ったかたちで「個人の能力を拡張」してしまうが、「場」であればもっと幅広く、様々な個人が活躍することができる。AKB48はそういう「場」を提供しているという意味で凄く価値があると考えます。
AKB48は「ヒト消費」のロールモデル
前半に、AKB48が「会いに行けるアイドル」として「ヒト消費」の象徴的な事例としてすでに存在しているという話をしました。
そして、ネットが一部の個人だけをエンパワーメントするのではなく、多くの人にとって「個人の能力を拡張」する可能性があるということを書いてきました。
この2つの事実をかけ合わせると、ネット上でAKB48のような「場」を創ることで、今の「ヒト消費」の時代に本当の意味での「個人をエンパワーメント」する仕組みを完成することができるという仮説にたどり着きます。
そういう意味で、AKB48は「ヒト消費」のロールモデルとして注目すべきフォーマットで、今後さらに進化をしていく可能性を秘めているというのがこの記事の結論です。
最後に
我々が運営している「ロコタビ」というWEBサービスは「海外在住日本人の活躍する場を創る」というミッションでスタートしました。
現在、海外在住日本人は外務省の発表によると135万人いますが、ロコタビには約5万人以上の海外在住日本人が登録(約100人に4人)し、活躍しています。
将来的には彼ら全員が登録し、ロコタビ上で一人ひとりが自分の居場所を見つけ、輝くことができる場所になることが我々の究極の目標です。
そのためには、「ロコタビ」のロールモデルとしての「AKB48」を今後もウォッチしていきたいと思います。
蛇足:そういえば、noteの中の人が「noteとAKBはよく似ている」と書いていて、たしかにそうだなと思いました。
ついでに、先日当社のnoteでも「ヒト消費」について紹介しました。
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