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[読了]ひたすら好きなことにしがみついて生きた武人(高野澄 「剣禅話」TTJ・たちばな出版)


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  • 山岡 鉄舟 (原著), 高野 澄 (著)「剣禅話」(TTJ・たちばな出版)

1868年,徳川慶喜は,徳川家の本拠地,江戸城を抵抗することもなく明治新政府軍に明け渡しました。5月3日のことでした。

王政復古の後,薩摩,長州,土佐の新政府軍と旧幕府軍の間で激しい内戦が起こりました。戊辰戦争です。この戊辰戦争の行方を決定づけたとも言えるのが,この江戸城の無血開城でした。

この無血開城を実現させた立役者のひとりに山岡鉄舟がいます。徳川慶喜は新政府軍と争う意志はなく,その意志を政府軍に伝えてほしいと鉄舟に頼みます。

鉄舟は西郷隆盛と会談し,徳川慶喜の名誉を守もることを条件に江戸城無血開城の道筋をつけました。鉄舟でなければできなかった仕事ではなかったでしょうか。西郷は後日鉄舟を「金や名誉にまるで興味のない人間にはかなわない」と評しています。

混乱した世の中にあって,多くの過去武士だったひとびとは,武士本来の戦闘性を発揮させようとしましたが,鉄舟はひとり剣と禅との修行を続けてます。もうすぐ50歳にもなろうかというとき,ようやく大悟に至ります。

江戸城の無血開城がなく,江戸が火の海になっていたら,江戸が東京となり,東京が首都となることもなかったでしょう。歴史が動く,そのときに,本人は平然として,ひとから頼まれたことをやってのけて,また修行の世界に戻っていく。

すすんで社会のために貢献しようとするところがなく,ただ修行を追求した人物であるように思います。自分の好きなこと,自分が得意なこと,そんなことがなくても,例えば,ひとより長くそれをやっていても苦にならないこと,ひとよりすこしだけ上手くできること,それをみつけたら,それを突き詰めていって生きていくことができたら,それでなんとか自分はやっていけるかもしれないし,もしかしたら人の役にもたまには立てるかもしれない。

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