研究ノート『アート・ワールド』
ハワード・S・ベッカー『アート・ワールド』慶應義塾大学出版会
ベッカーはアート・ワールドを様々な対象を事例に描いている。人々の協同ネットワークを中心に描かれていて、とても参考になった。しかし、アートのジャンルにはそれぞれconventionがあるはずだが、ベッカーの記述は同一のページに絵画とジャズが並列するようなところがあったり、それらを結局は一つのアート・ワールドに収斂されるように説明しているように読めてしまって読みにくい。もちろん個別のジャンルについては書いてはいるのだが、本来は絵画、写真、ジャズ、ロックのような章立てがしっくりくるのではないかと思ったりする。
基本は現代美術以降なのかなと思うが、それと例えばジャズは表現される場所とかメディア、美学、批評家、オーディエンスは異なると思う。それらの違いが明確には説明されず、結局はアート・ワールドの説明として描かれているので、果たして商業化されたロックのワールドに美学があるのかとか並列的に説明されるアート・ワールドを細かく考えてしまう。あとは、アートであるとかないとかについても議論してほしかった。
ベッカーによると、ひとびとの協同がアートワールドを作るが、それは規則conventionによるもので、しかし規則は不変的なものではない。交渉による変化がある。この説明は上手い。決定論を避けながらも我々が従う規則について記述している。
たしかにバンドで音楽を演奏するのにはあらかじめ取り決めがないとセッションは始まらない。だからといって創造性がない訳ではない。アドルノはジャズは規格化されていると言うが、全体的にはそうじゃないだろうということはベッカーから言える。我々が話す言語が、がんじがらめの文法に支配されていることは第二言語習得のプロセスからも分かるけど、不変ではないということが話す実践からそれを忘れさせる。
アート・ワールド論はベッカーの別の論考などとともに近刊の次の著書で議論します。
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