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ベンゾジアゼピン減断薬 -「『方言』診断のデメリット」[Free full text]

オンライン医療相談(遠隔健康医療相談)では診断行為は行えませんので、何はさておき患者さんに「主治医から告げられている診断名を教えて下さい」と確認させていただくことになります。

治療は診断ありきで決まるものですから、主治医の処方や精神療法的対応の妥当性は、それらがどのような診断のもとに行われているのかがわからなければ判断できないからです。

相談者様のもっとも多い返答は「特に診断名は告げられていません」です。精神科では、診断名を告げられないことが多いのかもしれませんし、診断名を告げないことに象徴されるインフォームドコンセント非在の精神科医療機関にかかっている患者さんがオンライン医療相談を利用したくなる傾向があるということなのかもしれません。

次に多いのが、「不安神経症」「自律神経失調症」「対人恐怖」「抑うつ状態」といったいわゆる「伝統的診断名」。
複数の医療機関を受診されていて「最初の医院では不安神経症、次のクリニックでは抑うつ状態、いま通っている病院では不安障害と言われています」というパターンも少なくありません。

僕は伝統的診断名を頭から否定する立場にはありません。
経過良好で、相性の良い主治医に長く診てもらう前提であれば、極論、診断名などどうでもよいとさえ思っています。
しかしながら、主治医への不信感や転居による転院、オンライン医療相談のご利用などを考えておられるのであれば、「標準語による診断名」を告げられていることのメリットは小さくありません。

「あなたが見ている赤と私が見ている赤は本当に同じ赤か?」という哲学的命題を持ち出したいわけではありませんが、しかし、精神科臨床の場において、精神科医Aが告げる「不安神経症」と精神科医Bが告げる「不安神経症」が同じ病態を指していることはむしろ稀です。
微妙な認識のズレがあったり、極端な場合は前者はパニック障害を指していて、後者は神経質な性格を指しているといったことすらあります。
伝統的診断名には定義が曖昧なものが多く、また、定義など考えずに「俺流」を貫く精神科医も少なからずおられるため、精神科臨床は診断ディストピアであるとも言えるのです。つまりは治療ディストピア。

これでは学問としての精神医学の発展は望めません。
そこで考案されたのが「操作的診断基準」です。

操作的診断基準は、原因不明なため、検査法がなく、臨床症状に依存して診断せざるを得ない精神疾患に対し、信頼性の高い診断を与えるために、明確な基準を設けた診断基準である。操作的診断基準を用いて均一の患者群を抽出することによって、病態解明の研究や疫学調査を推進することに加え、治療成績や転帰の比較検討を可能にするといった意義がある。

操作的診断基準(精神疾患の)

日常臨床においてDSMやICDといった操作的診断基準を用いる意義は小さいと考える識者もいます。

操作的な診断基準は客観的であり有用な道具であるものの、使い方によっては弊害とも成り得る。一方、伝統的な診断分類は、精神科患者の主観的な体験を理解する手がかりを提供するため、臨床場面で有用である。

日本の精神科臨床における伝統的診断分類と操作的診断基準の有効な利用方法についての考察

ただ、よほど治療技術に自信があって、すべての患者さんを最後まで診る覚悟がある精神科医以外は、操作的診断基準に基づいた診断名をカルテに記載しておくべきですし、患者さんに告げるべき、というのが僕のスタンスです。
日本の保険診療制度のもとでは他院でのセカンドオピニオンや転院は容易です。医師自身の都合による主治医交代もあるでしょうし、患者さんが転居されて他院宛に紹介状を作成することになる場合もあるでしょう。

沖縄に転居する患者さんに、青森弁で紹介状をしたためることで、患者さんに非利益が生じるような事態は避けるべきであろうと愚考いたします。

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