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ベンゾジアゼピン・コラム -「もっとも成功した」断薬例 [Free full text]

僕がこれまで行ってきた中「もっとも成功した」ベンゾジアゼピンの断薬例。
当事者様のお名前を、仮にAさんとしておきます。

Aさんからはまずオンラインで医療相談を受けました。
1. あるベンゾジアゼピンを1日10mg、2年間服用している。
2. 元の診断は不安神経症だったがそれは既に治っていると自分では思っている。
3. もう薬は不要だと考えているが主治医からは「安全策として」服薬継続を勧められている。
4. インターネットで調べ依存性がある薬だと知り、自分としては早く止めたい。
――こういったご相談内容でした。

原疾患が治っているのであれば理屈としては中止は可能な理屈である。ただし依存が生じていれば急減薬によって離脱症状が起こるので主治医の協力を得て少しずつ減らすことから始めるのが良い。一般的にこういった減らし方(漸減法や置換法など)がある、といった内容の助言をしました。

数週間後、Aさんは僕の外来を受診されました。
ベンゾジアゼピンの減薬・断薬について主治医の理解を得られなかったとのことでした。

診察の結果、減薬は十分に可能な状態だと判断しました。
Aさんは一度も減薬を試みたことは無く、処方量をしっかり服用しつづいけてきたとのことでしたので(👈ポイント)、身体依存が生じているかどうかはこの時点ではわかりませんでした。
定跡通り0.1mg/2週間のペースで減薬を開始。
9.9mg/日で離脱症状無し、9.8mg/日で離脱症状無し。
Aさんと相談した上で減薬幅を0.2mg、0.3mgと徐々に大きくしていきましたがやはり離脱症状は現れず、最終的には1mg/2週間に減薬速度を固定しました。
結局一度も離脱症状が確認されないまま、計30週でAさんは断薬に至り終診となりました。
まだ勤務先に特別予約診察枠を設けていなかった時期の減薬治療でしたが、Aさんの診察はいつも5~10分で終わるので他の患者さんの診察時間を圧迫することは全くありませんでした。

おそらくAさんにはベンゾジアゼピンの身体依存は生じていなかったし、より速いペースでの断薬も可能だったかもしれません(25%/2週間とか)。しかしそれは後方視的にしかわからないことです。

だからこれは真っ当な減断薬で、その成功例として呈示しました。
お薬を減らすだけの簡単なお仕事で15回分の再診料をせしめられてウハウハですね、という批判はただただ下衆。

誰よりAさんが賢明だったと思っています。
Aさんが、インターネットで集めた情報を元に我流で一気断薬や自己流のタイトレーションを繰り返した後に僕の外来を受診されていたら事は同じようには進まなかったかもしれません。
Aさんはベンゾジアゼピンの身体依存を呈しにくい方だったのだ思われますが、それは結果的にそうだとわかっただけで、一気断薬で遷延性離脱症候群に至っていた可能性も0ではなかったわけです。
適切な環境下で減薬を行えないのであれば、不安ではあるかもしれませんが、服薬を継続していた方が吉と出ることが多いと僕は考えています。Aさんにはその「不安への耐性」があった。

ベンゾジアゼピンを処方する医師は原則的にはいつかは断薬することを前提に処方を開始すべきだし、止め際のこの「簡単なお仕事」を省くべきではないでしょう。
患者さんの側も、主治医が漸減に応じてくれないからといって短絡的に我流減薬に走ることには慎重になるべきです。ネットに載っているのは「たまたまその方法で上手く断薬できた人の生存バイアスがかかった成功事例」に過ぎなかったりするので。

インターネットで情報収集するとベンゾジアゼピンの離脱症状は全服用者に起こる耐え難く苛酷な現象で、減断薬は「特殊技術が必要な精密作業」、「辛い離脱症状に耐えながら薬を減らし続ける苦行」であるように感じられる方もいるかもしれません。しかしそれは事実ではない。

ただし最悪の事態を想定して慎重に減薬を開始することは正しい取り組み方です。
ご自身の体質、ベンゾジアゼピンの減量に対してご自身の脳がどのように反応するか(しないか)を減薬開始前に知る方法は無いからです。保守的に、安全策をとって減薬を開始するべきです。減薬幅を広げるのはその反応を確認してからでよい。
自身が減薬を開始できる状態にあることを主治医に確認してから(👈ポイント)服用しているベンゾジアゼピンを「削って」もらうのは良い減薬の始め方でしょう。
それ以前に主治医が減薬を切り出すべきなのですが。

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