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【読書】『現代社会の秘密結社−マフィア、政党、カルトの興亡史』 安田峰俊 中公新書(2021)

著者は中国関連のルポライターとして多くの本を書いている。
以前、天安門事件(中国では八九六四)に関する本を読み、その続きで本書を読んだ。
以前、宮崎学という作家が洪門、青幇(副題ではマフィアとなっている)について書いた本を読んだことがあり、興味があったからだ。

中国人は、中国国外において華僑として暮らす人々が多い。
海外に労働者として出た移民の子孫であり、また、彼らを頼って中国から移民として出てきた人であり、彼らは東南アジアを中心として経済的に成功をおさめ、大きな勢力を持つ。
一方、日本人は海外に労働者として出ていった時代もあり、その子孫が日本人街を形成することがあっても華僑のようにはならない。
僕の知る限りでは、衰退していると認識している。
この差は何か、ということが先の洪門、青幇という組織にあるのではないか、と思う。

本書にもあるが、中国の秘密結社の花形とも言われる洪門、青幇は「会党」といわれ、「ヨコのつながりが目立つ集団」(本書より抜粋、以下同じ)である、とされている。
一方、日本ではこういった組織は中根千枝の『タテ社会の人間関係』で有名な「タテのつながり」が強調されることが多い。
中国では伝統的に「政治や社会や他人に対して常に強い不信感を抱きながら生きることを余儀なく」され、「トラブルはすべて自力で解決(自己救済)しなくてはならず」、「究極の自己責任社会」であったとされる。
これに対して伝統的な中国人は、「父系の血縁者集団」である「宗族」を頼り、海外では同じ故郷にルーツを持つ「同郷会」が作られた。こうした中で、この枠組みに入れない労働者などが「他人と〝秘密〟を共有することで義兄弟の契りを結び、生命を賭してでもお互いを助け合う家族のような人間関係を人為的に作り上げ」、これが「会党」のルーツになる。

「血縁」「同郷」「義兄弟」、いずれも日本でもよく聞かれることばではあるが、日本から海外に出た際に、日本人街など最初は互助的な組織があっても、いつの間にか消えている感じがする。
例えば、以前「華僑」にならって日本から東南アジアを中心としたビジネスを行っている経営者を中心に「和僑会」という組織が作られたことがある。結成から10年ほどたつと思うが、この「和僑会」は中国向けを中心とした組織と、その他の地域の組織に分かれてしまい、今では以前ほどの活動は行っていないように思う。

今、中国というと批判的な意見が目立つが、中国人はしたたかに、力強く生きるための方法を知っていると思う。
本書では、こういった点については書いていないが、本書全体から受けることは中国人のパワーである。

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