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とにかく結婚しない日本人 2021年版「人口統計資料集」によると、日本人の生涯未婚率〈1〉は男性が23.37%、女性が14.06%だという〈2〉。これは5年に1回の国勢調査で出される数字で、現在(2021年5月末時点)確認できるのは2015年調査時のデータである。 過去の推移を見ると1990年以降急激に上昇中である。これから発表される2020年調査時の数字も間違いなく前回より上昇しているだろう。日本には事実婚という習慣がほとんど定着していないので、これはそのまま単身者が激増
検証可能性についての批判 進化心理学に対しては「反証不可能な疑似科学だ」という批判がある。これはある意味では正当な批判だと思う。 人の身体的特徴、例えば体の大きさや手足の長さ、脳の容量などが過去数百万年間どう進化してきたのかということであれば、骨の化石からある程度推測することができる。ただ、これも簡単なことではない。死んだ生き物の骨が化石になる確率は非常に低く、一説には(一つの骨について)10億分の1の確率だという〈1〉。また、化石になったとしても全身骨格がそのまま残るこ
金髪と青い目が理想の女性美?〔前回の続き〕 特に「男はなぜセクシーなブロンド美女が好きで、女はなぜセクシーなブロンド美女になりたがるのか」というQで始まる3章の一部の記述には、日本人なら誰もが違和感を覚えるだろう。 著者は理想の女性美の構成要素として、若さ・細いウェスト・豊満な胸・長い髪・金髪・青い目をあげており、それをまるで人類共通の理想像であるかのように書いているのだが、これは完全に西洋基準、というかアメリカ(の白人)基準の発想である。 4つ目までは世界共通で好ま
主な参考文献 今回からやっと本題である。ここからは進化心理学、または進化生物学に基づいて人間の性的な在り方の起源について考えていきたい。この二つはとても近い関係にあり、生き物全般の形態や生態について進化論的な観点から説明しようとするのが進化生物学、その考え方を人の心理や行動にも取り入れたのが進化心理学である。 最初に断っておくと、私は大学院などに通った経験はなく特に何の専門家でもない。研究ノウハウのようなものを持っているわけではないし、英語で書かれた最新の論文を読み解
種によって事情は様々〔前回の続き〕 哺乳類の大半が一夫多妻もしくは乱婚であるのに対して、鳥類は9割以上が一夫一妻でオスとメスのつがいが協力して子育てをする。とはいえ、そうした種であってもペア外の父親から生まれた子が多数確認されており、立地の良い場所に巣を構えていたり、餌をより多く採ってこれるなど優れたオス(とそれに惹かれるメス)による浮気傾向があるようだ〈1〉〈2〉〈3〉。 先ほど例にあげたクジャク、ウグイス、フウチョウは鳥類の中では例外的に一夫多妻でオスは子育てをしない
意外性ゼロの結論 第7回以降中断していた「進化心理学で考える性差」シリーズの(3)である。この間、人類の進化史や美的感覚の普遍性についての記事をはさんだ。変な流れに見えるかもしれないが、これには一応構成上の理由がある。 今回から数回にわたって、男性と女性それぞれの配偶者選好の違いについて考えていきたいのだが、その前段階としてヒトが進化の過程で発達させてきたとされる審美感覚についての話が必要だと思ったのだ。 さて、今回の副題を見てモテ論の話だと思って読みにきた女性がいると
ヒトとチンパンジーの違い〔前回の続き〕 前回はチンパンジーのオスが中年のメスを好むのに対し、ヒトの男性には20代を中心とした若い女性を好む傾向があり、その理由は文化的な要因だけでは説明できないことを述べた。では、この傾向は何に由来しているのだろうか。 チンパンジーはヒトに最も近縁な霊長類ではあるものの、第7回で触れたとおり、人類との共通祖先から分岐したのは600~700万年も前のことである。当然、生理的条件や生態はヒトと違う部分も多い。 チンパンジーのメスがヒトの女性
いいか悪いかは別として 前回と前々回の記事では男性の女性に対する選好について考えた。「男性は若くて容姿の良い女性に惹かれる」という、極めて当たり前の事実について、それは文化や慣習によるものというより(それもある程度はあるが)生得的な、つまり生まれつきの心理である可能性が高いことを述べた。 この見方は女性にとってあまり気分の良いものではないと思う。年齢は自分の意志でどうにかできるものではないし、生まれ持った容姿も基本的には変えられない(現代の美容整形技術をもってしても変えら
石器時代に資産家はいなかった〔前回の続き〕 前回の最後の節で、女性が男性に経済力を求める心理には進化的な基盤がある、というデヴィッド・バスの主張を紹介した。 人間社会では男性間の資源格差が激しく、より多くの資源を持つ男性を配偶者にした女性の方が、そうでない女性より子孫を繁栄させることができた。それが何世代にもわたって繰り返された結果、女性は、より豊富な資源を持ち、かつそれを自分と子供たちに気前よく提供してくれる男性を好むよう進化した、というのがバスの考えであった。
男はたいして役に立っていない?〔前回の続き〕 第8回でも述べたとおり、現代の狩猟採集社会を対象にした研究によると摂取カロリーに占める動物の肉の割合は30%程度でしかない。イヌイットをはじめとした北極圏に住む狩猟採集民は、オットセイやセイウチなどの肉を中心とした食生活を送っているが、それ以外の地域では主に女性たちが採集する植物性の食料が摂取カロリーの大半を占めている〈1〉〈2〉。 パラグアイのアチェ族では、男性はイノシシやシカといった大型哺乳類の狩りと森でのハチミツ集め
女性は地位の高い男が好き? あまりに長くなったこのシリーズも今回でいったん終了である。今回は女性が地位の高い男性を好む理由について考えてみたい。世の中では一般に、経営者や管理職、大企業の社員、医者や弁護士など社会的地位の高い職業に就いている男性はモテるとされている。実際、そうした肩書に魅力を感じる女性は多い(これもまた全ての女性があてはまるわけではないが)。 これはなぜだろうか。まず思いつくのが「地位の高い職業はたいてい収入も高いから」という説明である。しかし、例えば学校
チンパンジー界に浮気はない 「進化心理学で考える性差」シリーズ、今回が最後である。前回までの記事で見てきた通り、ヒトは一夫一妻を基本とする方向に進化したと思われる。浮気や不倫が数多く発生するものの、あくまで一夫一妻が原則であり主流なのだ。というか、一夫一妻が原則だからこそ、そこからの逸脱として「浮気」という概念が成り立つのである。 もしチンパンジーやボノボが言葉を話すようになったとしても、人間の世界で言う「浮気」に当たる概念を表す単語は発生しないだろう。単に「相手が自分以
こんなに手間がかかるとは 昨年6月から約8カ月にわたって続けてきたこの連載、ここで一区切りである。私は第1回の終盤でこう書いた。 なぜ「順序だてて体系的に書かれたもの」が見当たらないのか、その理由の一つがよくわかった。本気でやろうとすると、すごく大変なのだ。 いやー、大変だった。「進化心理学で何がどこまで言えるかを私なりに整理する」というのを、前回までで一通りやり終えたつもりなのだが、可能な限り資料を集め、読み込み、自分なりの推論や解釈も加えつつなるべく科学的に正確な