北田 ゆいと〈1〉

進化心理学、ジェンダー論など。中庸路線。第2部はこちら: https://note.c…

北田 ゆいと〈1〉

進化心理学、ジェンダー論など。中庸路線。第2部はこちら: https://note.com/ys943/all  マガジンでは公開順に並べてます。

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最近の記事

【28】言われなくても勝手にやる 「やりたいこと」の性差(終)

「生まれか育ちか」問題 前回の記事で私は、性差というのは人間の側からではなく性質の側から捉えるべきものだと述べた。ある性質について男女比の偏りが見られる場合、その理由として ① 脳の生得的な男女差の反映(Aの特徴を示す人はもともと男性に多く、Bの特徴を示す人はもともと女性に多い、というように) ② 「男性は○○で女性は△△」あるいは「男性は○○でなければならない、女性は△△でなければならない」といったジェンダーバイアスの影響 の2つが考えられるが、おそらくほとんどの性差

    • 【27】「脳の男女差」とは? 「やりたいこと」の性差(5)

      男脳も女脳も存在しない この連載は第1回からずっと「性差」について考え続けている。私も含めて多くの人は「男と女は外見だけじゃなく内面も相当違うよな」と漠然と感じている。体の作りだけでなく脳にも男女差があるように思えてならないのだ。しかし、内面的な性差というのはどうも捉えどころがない。  「あらゆる男性的な性質を備えた男性」などいないし、「あらゆる女性的な性質を備えた女性」もいない。また、いかにも男らしい男性が、ある面では女性的な振る舞いを見せたり、逆にいかにも女らしい女性

      • 【26】分業してて何が悪い? 「やりたいこと」の性差(4)

        そんなにダメかな…? 前回は先進的な男女平等社会とされる北欧諸国においても、労働市場でははっきりと性別による棲み分けがあり、むしろそれゆえに管理職など指導的なポジションに女性が多いのだという実情を述べた。  さて、このことをどう評価するかである。前回、KY氏の『ジェンダーギャップ指数というザル指標で見落とされてしまう差別』という記事をとりあげたが、タイトルのとおりKY氏はスウェーデンに見られる業種別の男女比の偏りを「差別」だとして批判している。  文面から察するに、KY

        • 【25】男女分業社会、北欧 「やりたいこと」の性差(3)

          職業選択の男女差 前回と前々回では、なぜSTEM(日本で言う「理工系」)と呼ばれる分野には男性が多く女性が少ないのかを考えた。そして、この偏りは究極的には「(平均して)男性は『物』も含めた『無生物』全般にかかわることに惹かれ、女性は『人』も含めた『生物』全般にかかわることに惹かれる傾向がある」という「興味の性差」によってもたらされているのではないか、と結論づけた。今回からは、STEM系か否かに限らず職業選択全般においての男女差について考えてみたい。  世の中には男性の従事者

        【28】言われなくても勝手にやる 「やりたいこと」の性差(終)

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        • 第2部
          8本
        • 興味の男女差
          6本
        • 第1部
          22本

        記事

          【24】女性は科学が苦手? 「やりたいこと」の性差(2)

          「理系」か「文系」か、というよりも 前回述べたとおり、日本の大学では主に理系とされる学部には男性が多く、文系とされる学部には女性が多い。海外ではどうなのだろうか。その前に、この「理系」か「文系」かという区分をここではやめることにしよう。日本では受験科目で数学や物理や化学などが重視される学部を「理系」、国語や英語や日本史・世界史などが重視される学部を「文系」とみなすのが一般的である(そのため医学部や薬学部は「理系」とされる)。  でも、これはかなり雑な分け方だし人を必要以上に

          【24】女性は科学が苦手? 「やりたいこと」の性差(2)

          【23】女性は数学が苦手? 「やりたいこと」の性差(1)

          とにかく少ない理系女子  今回からしばらくは本筋から外れることになる。この連載は主に性的な領域においての男女差をテーマとしているのだが、それ以外の領域での性差についても思うところがあるので、この機会に書いてみたい。  世の中には男女比がどちらかに偏っている分野がたくさんある。大学の専攻はその典型的な例である。日本の(短期大学を除く)大学進学率は平成29年度のデータで男子が55.9%・女子が49.1%であり男女でそれほど大きな差はない〈1〉。        にもかかわらず、一

          【23】女性は数学が苦手? 「やりたいこと」の性差(1)

          【22】改めて、男女の非対称〈第1部 終〉

          こんなに手間がかかるとは 昨年6月から約8カ月にわたって続けてきたこの連載、ここで一区切りである。私は第1回の終盤でこう書いた。  なぜ「順序だてて体系的に書かれたもの」が見当たらないのか、その理由の一つがよくわかった。本気でやろうとすると、すごく大変なのだ。  いやー、大変だった。「進化心理学で何がどこまで言えるかを私なりに整理する」というのを、前回までで一通りやり終えたつもりなのだが、可能な限り資料を集め、読み込み、自分なりの推論や解釈も加えつつなるべく科学的に正確な

          【22】改めて、男女の非対称〈第1部 終〉

          【21】進化心理学で考える性差(9)嫉妬と配偶者防衛

          チンパンジー界に浮気はない 「進化心理学で考える性差」シリーズ、今回が最後である。前回までの記事で見てきた通り、ヒトは一夫一妻を基本とする方向に進化したと思われる。浮気や不倫が数多く発生するものの、あくまで一夫一妻が原則であり主流なのだ。というか、一夫一妻が原則だからこそ、そこからの逸脱として「浮気」という概念が成り立つのである。  もしチンパンジーやボノボが言葉を話すようになったとしても、人間の世界で言う「浮気」に当たる概念を表す単語は発生しないだろう。単に「相手が自分以

          【21】進化心理学で考える性差(9)嫉妬と配偶者防衛

          【20】「ゆるやかな一夫一妻」というのが正解では ヒトの配偶形態 ④

          めったに発情しないチンパンジー〔前回の続き〕   第16回でとりあげたようにチンパンジーではオス同士の序列争いが非常に激しく、より高順位のオスの方が、より多くのメスとより多く交尾することができる。チンパンジーは乱婚制であるため上位のオスであっても父性を極端に独占できるわけではないが、それでも基本的には上位オスほど高い繁殖成功をおさめている。  ここでちょっと不思議に思わないだろうか。オスとメスがだいたい同数ずついて両方とも乱婚(というか乱交)的に振る舞うのなら、どのオスも相

          【20】「ゆるやかな一夫一妻」というのが正解では ヒトの配偶形態 ④

          【19】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

          ヒトとチンパンジーを比較することの意味 この連載では、ヒトの性的な在り方の起源を考えるにあたり、何度もチンパンジーとの比較を行ってきた。ここでいったん立ち止まりヒトとチンパンジーを比べることの意味について述べておきたい。  何回も触れているとおり、チンパンジーはヒトに最も近縁な動物である。しかし、それは彼らが「ヒトの一段階前の生き物」だとか「ヒトになりそこなった生き物」であることを意味しない。人類とチンパンジーが共通祖先(仮に「X(エックス)」と呼ぶことにしよう)から分岐し

          【19】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

          【18】一妻多夫は超少数派 ヒトの配偶形態 ②

          「多妻よりの一夫一妻」というべきか…? 〔前回の続き〕  次は様々な文化で実践されている、または実践されてきた婚姻形態から考えてみたい。人類学者のジョージ・マードックが世界中の849の社会の配偶形態をまとめた報告によると、一夫多妻の制度をもつ社会(国の数ではなく文化の数)が全体の83%(708件)、一夫一妻の社会が16%(137件)、一妻多夫の社会はごくわずかで0.5%(4件)となっている〈1〉。  これは1967年に発表されたものでかなり古いデータなのだが、当時は西洋的な価

          【18】一妻多夫は超少数派 ヒトの配偶形態 ②

          【17】本来は一夫多妻 …というわけでもない ヒトの配偶形態 ①

          おそらく完全な一夫一妻ではない これまで私はたびたび「ヒトは一夫一妻の固定的な配偶関係を持つ」と書いてきた。これにはちょっとひっかかった人もいるかもしれない。「一夫一妻というのは法律上の決め事であって、実態は一夫多妻なんじゃないか?」とか、「世界には一妻多夫の文化もあるらしいし、けっこうなんでもありなんじゃ?」と。私も実感としてはそう思わないでもない。本当のところはどうなのだろうか。今回から4回にわたってヒトの配偶形態の本質について考えてみたい。  配偶形態は通常、一夫一妻

          【17】本来は一夫多妻 …というわけでもない ヒトの配偶形態 ①

          【16】進化心理学で考える性差(8)女が惹かれる男とは ④

          女性は地位の高い男が好き?  あまりに長くなったこのシリーズも今回でいったん終了である。今回は女性が地位の高い男性を好む理由について考えてみたい。世の中では一般に、経営者や管理職、大企業の社員、医者や弁護士など社会的地位の高い職業に就いている男性はモテるとされている。実際、そうした肩書に魅力を感じる女性は多い(これもまた全ての女性があてはまるわけではないが)。  これはなぜだろうか。まず思いつくのが「地位の高い職業はたいてい収入も高いから」という説明である。しかし、例えば学校

          【16】進化心理学で考える性差(8)女が惹かれる男とは ④

          【15】進化心理学で考える性差(7)女が惹かれる男とは ③

          男はたいして役に立っていない?〔前回の続き〕   第8回でも述べたとおり、現代の狩猟採集社会を対象にした研究によると摂取カロリーに占める動物の肉の割合は30%程度でしかない。イヌイットをはじめとした北極圏に住む狩猟採集民は、オットセイやセイウチなどの肉を中心とした食生活を送っているが、それ以外の地域では主に女性たちが採集する植物性の食料が摂取カロリーの大半を占めている〈1〉〈2〉。  パラグアイのアチェ族では、男性はイノシシやシカといった大型哺乳類の狩りと森でのハチミツ集め

          【15】進化心理学で考える性差(7)女が惹かれる男とは ③

          【14】進化心理学で考える性差(6)女が惹かれる男とは ②

          石器時代に資産家はいなかった〔前回の続き〕  前回の最後の節で、女性が男性に経済力を求める心理には進化的な基盤がある、というデヴィッド・バスの主張を紹介した。  人間社会では男性間の資源格差が激しく、より多くの資源を持つ男性を配偶者にした女性の方が、そうでない女性より子孫を繁栄させることができた。それが何世代にもわたって繰り返された結果、女性は、より豊富な資源を持ち、かつそれを自分と子供たちに気前よく提供してくれる男性を好むよう進化した、というのがバスの考えであった。  

          【14】進化心理学で考える性差(6)女が惹かれる男とは ②

          【13】進化心理学で考える性差(5)女が惹かれる男とは ①

          いいか悪いかは別として 前回と前々回の記事では男性の女性に対する選好について考えた。「男性は若くて容姿の良い女性に惹かれる」という、極めて当たり前の事実について、それは文化や慣習によるものというより(それもある程度はあるが)生得的な、つまり生まれつきの心理である可能性が高いことを述べた。  この見方は女性にとってあまり気分の良いものではないと思う。年齢は自分の意志でどうにかできるものではないし、生まれ持った容姿も基本的には変えられない(現代の美容整形技術をもってしても変えら

          【13】進化心理学で考える性差(5)女が惹かれる男とは ①