北田 ゆいと

男女論その他。また始めました。2つあったアカウントを1つに統合中です。第2アカウントでスキをつけてくださった方、すみません…🙏

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最近の記事

【第31回】「ジェンダー」は幻想なのか 『ジェンダーと脳』批判(3)

※2022年10月に別アカウントで公開した記事を移転 〔前回の続き〕  ジョエルは『ジェンダーと脳』の後半を通して、「ジェンダーは根拠のない幻想(もしくは神話)なのだ」という立場をるのだが、これが正しいか否かは「ジェンダー」という言葉の捉え方次第であろう。  この本は全体的に話が行ったり来たりしてどうも論旨がつかみにくいのだが、私の整理ではジョエルは以下の二つの論拠から「ジェンダーは幻想なのだ」と主張しているように思われる。  1つは、彼女自身が唱える「モザイク脳」という

    • 【第30回】「男か女か」という二分法の必然 『ジェンダーと脳』批判(2)

      ※2022年9月に別アカウントで公開した記事を移転 〔前回の続き〕   ダフナ・ジョエルの著書『ジェンダーと脳』、前半にあたる第1部と第2部ではこれまでとりあげてきた「モザイク脳」論について詳しく解説されており、ここまではよい。だが後半にあたる第3部と第4部では「ジェンダーというのは幻想であり、だからジェンダーのない世界を目指すべき」というラディカルな主張が展開され、読み進むにつれて「そこまではついていけない… 」という気持ちになってくる。  人は男性も女性も個人ごとに多

      • 【第29回】性差は無くすべきなのか? 『ジェンダーと脳』批判(1)

        ※2022年8月に別アカウントで公開した記事を移転  以前、私は「【第27回】『脳の男女差』とは?」で、イスラエルの神経科学者ダフナ・ジョエルが提唱する「モザイク脳」〈注1〉という考え方を受けて、性差について次のように考えるべきだと書いた。 ・性差とは「個々の性質ごとに観察される男女比の偏り」のこと ・「男性は○○で、女性は△△」というように男女を主体にして捉えるよりも「○○な人には男性が多い」「△△な人には女性が多い」というように、性質の側を主体にして捉えるのが性差とい

        • 【第28回】言われなくても勝手にやる 興味の性差(6)

          「生まれか育ちか」問題 前回の記事で私は、性差というのは人間の側からではなく性質の側から捉えるべきものだと述べた。ある性質について男女比の偏りが見られる場合、その理由として ① 脳の生得的な男女差の反映(Aの特徴を示す人はもともと男性に多く、Bの特徴を示す人はもともと女性に多い、というように) ② 「男性は○○で女性は△△」あるいは「男性は○○でなければならない、女性は△△でなければならない」といったジェンダーバイアスの影響 の2つが考えられるが、おそらくほとんどの性差

          【第27回】「脳の男女差」とは? 興味の性差(5)

          男脳も女脳も存在しない この連載は第1回からずっと「性差」について考え続けている。私も含めて多くの人は「男と女は外見だけじゃなく内面も相当違うよな」と漠然と感じている。体の作りだけでなく脳にも男女差があるように思えてならないのだ。しかし、内面的な性差というのはどうも捉えどころがない。  「あらゆる男性的な性質を備えた男性」などいないし、「あらゆる女性的な性質を備えた女性」もいない。また、いかにも男らしい男性が、ある面では女性的な振る舞いを見せたり、逆にいかにも女らしい女性

          【第27回】「脳の男女差」とは? 興味の性差(5)

          【第26回】分業してて何が悪い? 興味の性差(4)

          そんなにダメかな…? 前回は先進的な男女平等社会とされる北欧諸国においても、労働市場でははっきりと性別による棲み分けがあり、むしろそれゆえに管理職など指導的なポジションに女性が多いのだという実情を述べた。  さて、このことをどう評価するかである。前回、KY氏の『ジェンダーギャップ指数というザル指標で見落とされてしまう差別』という記事をとりあげたが、タイトルのとおりKY氏はスウェーデンに見られる業種別の男女比の偏りを「差別」だとして批判している。  文面から察するに、KY

          【第26回】分業してて何が悪い? 興味の性差(4)

          【第25回】男女分業社会、北欧 興味の性差(3)

          職業選択の男女差  前回と前々回では、なぜSTEM(日本で言う「理工系」)と呼ばれる分野には男性が多く女性が少ないのかを考えた。そして、この偏りは究極的には「(平均して)男性は『物』も含めた『無生物』全般にかかわることに惹かれ、女性は『人』も含めた『生物』全般にかかわることに惹かれる傾向がある」という「興味の性差」によってもたらされているのではないか、と結論づけた。今回からは、STEM系か否かに限らず職業選択全般においての男女差について考えてみたい。  世の中には男性の従事

          【第25回】男女分業社会、北欧 興味の性差(3)

          【第24回】女性は科学が苦手? 興味の性差(2)

          「理系」か「文系」か、というよりも  前回述べたとおり、日本の大学では主に理系とされる学部には男性が多く、文系とされる学部には女性が多い。海外ではどうなのだろうか。その前に、この「理系」か「文系」かという区分をここではやめることにしよう。日本では受験科目で数学や物理や化学などが重視される学部を「理系」、国語や英語や日本史・世界史などが重視される学部を「文系」とみなすのが一般的である(そのため医学部や薬学部は「理系」とされる)。  でも、これはかなり雑な分け方だし人を必要以上

          【第24回】女性は科学が苦手? 興味の性差(2)

          【第23回】女性は数学が苦手? 興味の性差(1)

          とにかく少ない理系女子   今回からしばらくは本筋から外れることになる。この連載は主に性的な領域においての男女差をテーマとしているのだが、それ以外の領域での性差についても思うところがあるので、この機会に書いてみたい。  世の中には男女比がどちらかに偏っている分野がたくさんある。大学の専攻はその典型的な例である。日本の(短期大学を除く)大学進学率は平成29年度のデータで男子が55.9%・女子が49.1%であり男女でそれほど大きな差はない〈1〉。        にもかかわらず、

          【第23回】女性は数学が苦手? 興味の性差(1)

          【第22回】改めて 性の非対称

          こんなに大変だとは… 昨年6月から約8カ月にわたって続けてきたこの連載、ここで一区切りである。私は第1回の終盤でこう書いた。  なぜ「順序だてて体系的に書かれたもの」が見当たらないのか、その理由の一つがよくわかった。本気でやろうとすると、すごく大変なのだ。  いやー、大変だった。「進化心理学で何がどこまで言えるかを私なりに整理する」というのを、前回までで一通りやり終えたつもりなのだが、可能な限り資料を集め、読み込み、自分なりの推論や解釈も加えつつなるべく科学的に正確な記述

          【第22回】改めて 性の非対称

          【第21回】進化心理学で考える性差(9)嫉妬と配偶者防衛

          チンパンジー界に浮気はない  「進化心理学で考える性差」シリーズ、今回が最後である。前回までの記事で見てきた通り、ヒトは一夫一妻を基本とする方向に進化したと思われる。浮気や不倫が数多く発生するものの、あくまで一夫一妻が原則であり主流なのだ。というか、一夫一妻が原則だからこそ、そこからの逸脱として「浮気」という概念が成り立つのである。  もしチンパンジーやボノボが言葉を話すようになったとしても、人間の世界で言う「浮気」に当たる概念を表す単語は発生しないだろう。単に「相手が自分

          【第21回】進化心理学で考える性差(9)嫉妬と配偶者防衛

          【第20回】「ゆるやかな一夫一妻」というのが正解では ヒトの配偶形態 ④

          めったに発情しないチンパンジー 〔前回の続き〕   第16回でとりあげたようにチンパンジーではオス同士の序列争いが非常に激しく、より高順位のオスの方が、より多くのメスとより多く交尾することができる。チンパンジーは乱婚制であるため上位のオスであっても父性を極端に独占できるわけではないが、それでも基本的には上位オスほど高い繁殖成功をおさめている。  ここでちょっと不思議に思わないだろうか。オスとメスがだいたい同数ずついて両方とも乱婚(というか乱交)的に振る舞うのなら、どのオスも

          【第20回】「ゆるやかな一夫一妻」というのが正解では ヒトの配偶形態 ④

          【第19回】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

          ヒトとチンパンジーを比較することの意味  この連載では、ヒトの性的な在り方の起源を考えるにあたり、何度もチンパンジーとの比較を行ってきた。ここでいったん立ち止まりヒトとチンパンジーを比べることの意味について述べておきたい。  何回も触れているとおり、チンパンジーはヒトに最も近縁な動物である。しかし、それは彼らが「ヒトの一段階前の生き物」だとか「ヒトになりそこなった生き物」であることを意味しない。人類とチンパンジーが共通祖先(仮に「X(エックス)」と呼ぶことにしよう)から分岐

          【第19回】そろそろボノボの出番 ヒトの配偶形態 ③

          【第18回】一妻多夫は超少数派 ヒトの配偶形態 ②

          「多妻よりの一夫一妻」というべきか…? 〔前回の続き〕  次は様々な文化で実践されている、または実践されてきた婚姻形態から考えてみたい。人類学者のジョージ・マードックが世界中の849の社会の配偶形態をまとめた報告によると、一夫多妻の制度をもつ社会(国の数ではなく文化の数)が全体の83%(708件)、一夫一妻の社会が16%(137件)、一妻多夫の社会はごくわずかで0.5%(4件)となっている〈1〉。  これは1967年に発表されたものでかなり古いデータなのだが、当時は西洋的な

          【第18回】一妻多夫は超少数派 ヒトの配偶形態 ②

          【第17回】本来は一夫多妻 …というわけでもない ヒトの配偶形態 ①

          おそらく完全な一夫一妻ではない  これまで私はたびたび「ヒトは一夫一妻の固定的な配偶関係を持つ」と書いてきた。これにはちょっとひっかかった人もいるかもしれない。「一夫一妻というのは法律上の決め事であって、実態は一夫多妻なんじゃないか?」とか、「世界には一妻多夫の文化もあるらしいし、けっこうなんでもありなんじゃ?」と。私も実感としてはそう思わないでもない。本当のところはどうなのだろうか。今回から4回にわたってヒトの配偶形態の本質について考えてみたい。  配偶形態は通常、一夫一

          【第17回】本来は一夫多妻 …というわけでもない ヒトの配偶形態 ①

          【第16回】進化心理学で考える性差(8)モテる男とは ④

          女性は地位の高い男性が好き?   あまりに長くなったこのシリーズも今回でいったん終了である。今回は女性が地位の高い男性を好む理由について考えてみたい。世の中では一般に、経営者や管理職、大企業の社員、医者や弁護士など社会的地位の高い職業に就いている男性はモテるとされている。実際、そうした肩書に魅力を感じる女性は多い(これもまた全ての女性があてはまるわけではないが)。  これはなぜだろうか。まず思いつくのが「地位の高い職業はたいてい収入も高いから」という説明である。しかし、例えば

          【第16回】進化心理学で考える性差(8)モテる男とは ④