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2019/11/09 舞台「快物」観劇

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公演タイトル:「快物」
劇場:下北沢「劇」小劇場
主催:制作「山口ちはる」プロデュース
作:山崎彬(悪い芝居)
演出:倉本朋幸(オーストラ・マコンドー)
個人評価:★★★★★★★★☆☆

【総評】
演出面が際立ちすぎていて素晴らしかったが、脚本はちょっと一回の観劇だと理解しきれなかったので少々モヤモヤが残る形となってしまった。もう一回観劇してストーリーの内容を一回整理したい気分。事件の話とその事件を題材にした演劇サークルの卒業公演のシーンが時系列ごちゃ混ぜで進行していき、途中で演劇サークルのキャストが演じたり、事件当事者のキャストに戻ったりと混乱する内容だった。2回観劇できたら理解度も増して、もっと深く考察できたかもしれないが今回はこのくらいで留めておく。キャストも豪華だったため、ステージに近い客席から素晴らしい演技を目の前で沢山観ることができた。悪い芝居演出の山崎彬さん、オーストラマコンドー演出の倉本朋幸さんのタッグはもう一度観てみたいと思った。

【鑑賞動機】
「アイス溶けるとヤバイ」を鑑賞して面白いと思った悪い芝居の演出家山崎彬さんと、「someday」を観劇して面白いと思ったオーストラ・マコンドーの演出家倉本朋幸さんがそれぞれ脚本、演出をやるという企画だったので非常に面白そうだと思って鑑賞。劇団4ドル50セントの心臓丸の2人(堀口紗奈さん、隅田杏花さん)も出演するとのことなので、それも楽しみにしながら鑑賞。

【世界観・演出】
まず、舞台上には砂が敷かれており観客には全員マスクが配られる。この砂が物語の何を象徴するのかはちょっと分からなかったが、なかなか特殊な大道具設定だと思った。また、その砂場を取り巻くようにロープが貼られている。このロープを使って電車や乗用車の中でのシーンを作り出したりする工夫がされていた。非常に趣向が凝らされた舞台装置だった。また今作は音響が非常にも工夫が多く見られた。蝉の鳴き声がキャストの心理を表す不吉なSEに変化する演出や、車体が水中に沈んでいく音、雷雨の中幼一郎と実父がすれ違い出会うシーンの効果音、どれも印象に残る音響効果で非常に良かった。また、終盤までは全員が砂場を取り囲んで座っている演出や、本棚を倒す演出、白タオルを猫として扱う演出、クモの演出などちょっとしたシーンでも非常に印象に残るような演出の工夫がなされていて素敵だった。その演出が示す意味や動機が知りたかった。照明は、何と言っても幼一郎と実父が出会ってしまうシーンの雷を示すストロボが印象的。

【ストーリー・内容】
ストーリーは、時系列がごちゃ混ぜで複数の出来事が同時に走っていたり、最後にならないと全てのシーンが繋がらなかったりと、とても集中力の要する難解な作品だった。ちょっと1回の観劇では全てを追い尽くすことは出来なかった。本ビラには、米染幼一郎は、事故の後遺症が残る妹の渦子と、叔母の美華と3人で暮らしており、母は遠い昔に他界し、父はずっと家にいない。そんな状況になったのは、幼一郎の中に潜む悪意のない快物が引き起こしたことを春山春は見ている、というもの。結論を言ってしまうと、幼一郎の父は自身の中にある快物のせいで失踪したのち、自分の子供(幼一郎)が快物になっていないかを確かめるために会いにきた。しかし、幼一郎は春山春としてとある演劇サークルが卒業公演で演じた事件を観劇したことで、実父が自分が生まれた時にどんなことをしたのか理解したため、実父を恨み「二度と姿を現わすな」と叫んだ。非常に多くの人間がぐちゃぐちゃに絡んだ難解な話だった。

【キャスト・キャラクター】
一番印象に残ったキャストさんは、オーストラマコンドー所属の清水みさとさん演じる道草麦。演劇サークルに所属している大学生を演じている時と、演劇サークルの公演で米染を演じる時のギャップが物凄く良かった。また、公演が終わった後の春山春とのシーンでは物凄く引き込まれたし、その後のシーンで抱きしめる場面も良かった、キスするのかと一瞬思ったがしなくて良かった。個人的には、演劇サークルの脚本家を務める目覚衝太役の花戸祐介さんも良かった。ちょっとダメダメな感じの人間臭い演技がとても良かったし、ちょいちょい笑わせられる。あとは、柿喰う客の永田紗茅さん、序盤の愛猫ウッちゃんを失った演技は、舞台開始早々に引き込まれた、20歳とは思えないくらい熟達した演技だった。ドルセンの堀口紗奈さんはとても魅力的な女性に見えて良かった(シャワー浴びた後のシーンが良い)のと、隅田杏花さんのシリアスな場面で陽気で愉快な演技が出来る女優としての芯の強さを感じて良かった。

【舞台の深み】
この舞台の深みは、「快物」というタイトルにある通り誰もが心の奥底に潜めている悪意なるものによって悲劇が引き起こされてしまうということだと思った。勿論そうしたくてそうなった訳ではないのだが、様々な出来事や境遇が積み重なってそうさせてしまったのだということ。しかし最後の描写では、その心の奥底にある「快物」の存在すらも疑い、事件を引き起こしたのは本人自身だと暗示するシーンもあった。「快物」が存在するかを含めて観客に深く考えさせる難解なテーマを投げかけている点こそが深みかもしれない。それから、演出レベルの高さもあると思う。音響、大道具、小道具の活かし方、全てがとても新鮮で面白い演出だった。演劇上級者向けの作品といえる気がする。

【印象に残ったシーン】
一番印象に残ったのは、幼一郎と実父が雷雨の中出会ってしまうシーン。主人公の川郷司駿平さんの力強い演技が光ったシーンだった。あとは、清水みさとさんが抱きしめるシーンだったり、序盤の永田紗茅さんの熱演シーンだったり。記憶に残るシーンはたくさんある。

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